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毬子の恨み

毬子が小学校五年生の時に、クラスで一番仲良くしていた「百合子ちゃん」が亡くなった。

 何の病気なのかよく知らないが、母親に対して入院している百合子ちゃんにお見舞いに行きたいと願い出ても、母は「迷惑だからやめなさい」と許可を出さなかった。母は、百合子ちゃんの入院先を知っていた。祖母が以前に足の怪我で入院していた所だった。祖母の見舞いに行った時には五歳だった毬子にはその病院名が分からなかった。

「百合子ちゃんのことを先生とかに聞くんじゃないわよ」

 と、度々厳しく念を押された。

 そのうち亡くなった。母は、焼香が終わった後の葬式会場の隅で、

「毬子、お見舞いに行ってあげればよかったのに」

 と、油みたいな涙の張った眼球で毬子を捕らえてそう言った。毬子は、

「お母さんがお見舞いに言ったらだめって言ったんじゃない!」

 と、泣き喚いて興奮した。それを見た母は、

「えええ。おぼえてなあああーい」

 と、可愛く発て、キョトンとした猫のような可愛い顔をして見せた。そうして、毬子の声高さを抑えつけた。

「もううう。毬子いっつもお母さんがあの時こう言った、こうしたって。いやんなる」

 殺してやる。

 違法に人殺しはできないが、合法ならば躊躇する気にもならない。

 幼い倫理観というのはこういう風に自分の中ですり潰していくし、いかされるものだ。

 母親は成長してきた毬子に「欲求不満おんな」「私のことそんな目で見るけれど、おばあちゃんはもっとうるさかったんだからね!」と度々当たり散らすようになった。

 いつまでも可愛い小さなままでいない娘に不満が溜まっていったのだと思う。

 父親の娘に向ける「劣情」と母親が向ける「憤怒」は、毬子の対処が間に合わないくらいに嫌味が膨らんでいて難しく、防ぐことができないメタンガスみたいに毬子を押し殺していった。毬子から思いやりを削いでいった。嗅覚が嫌らしくなった。毬子は自分が自分のためにしか泣けない人間になっていったのが分かった。自分も「剝き出し」になっていった。もう友人が死んでも泣けないだろう。

 冷め切った自分を快感に思えるくらいになってしまえば、もう「毒親認定」を申告するに決まっている。

 両親対して、

「お前らが『それ』を選んだんだよ」

 そう思うのは、他責過ぎる考えなのだろうか?

 自分の胸の膨らみを見ると、自分が女であることを切に嫌に思う。尊厳や自我や自己決定権を男ほど前提として見てもらえない、ペットのような「反応物」として扱われるのを、それが当たり前とされる世の中を知る度に、女なんてゴミだと思った。

 援助交際とかセクシー女優の気持ちが分かる。

 玩具がおもちゃの自分を消化して何が悪い。そりゃあ、嫌らしくもなるだろうよ。

 全て我慢して消化しないでまともに良い子にした挙句に、DV旦那と結婚したり、会社でモラハラやセクハラにあうのが似合う「欲求不満おんな」になるのと援交でちょっと悪いことした気分になるのとどっちがましかわかりやしない。

 欲を解消しなくちゃ、自分の権利を、選択を満たさなくちゃ、神様から粗末に扱われるのが当然の人間だと思われる。

 ああ、ほんとオンナっていや。

 これ以上、不幸を人生に馴染ませたくない。すり潰していっぱいに広げたくない。

 男よりも生きていることに感謝を要求されるなんて、男よりも少ないものを望んで、それで上等だろう妥当だろうと世間から見られるなんて気持ち悪い。

 親を殺したら、そうしたらいつか誰よりも高いものを、高級なものを、強いものを手に入れてやる。

 女には「幸せ」と「安全」があれば上等だと思ったら大間違いだからな。

 我を満たす権利はこっちにもあるんだよ! それを「権限」に変えるのが当たり前のことだろうが!


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