毒親ゲーム
毎日17:00に連載の形をとることにしました。
毒親ゲーム
――0歳から25歳の子供、若しくは青年の申告により「毒親認定」された親を、その子供、若しくは青年が自宅のテレビゲーム画面を通して殺害、傷害を加えてもいい法。リモコンを繋いだテレビゲーム画面は、親を管理している建物内のスタッフに視聴、感知され、子供が画面でした行為はほぼリアルタイムでスタッフにより実行される。
尚、毒親認定の申告、ゲームは、状況により代理人がすることも可能である。
智はリモコンを操作して、画面の右下隅と左下隅に大きく出ている両手のうち、右側を動かして、右手にある木の台に三枚並んだステンレス製らしき盆から鉛筆の二倍くらいの長さの串を取り上げた。串も金属製らしい。鉛筆の二倍くらいとはこの画面の中の世界では、ということだ。画面の向きを操作して天井からの視点にした。この世界は、板壁に囲まれて真ん中にパイプベッドが据えられ、横に色々と器具が揃えられただけの部屋である。パイプベッドには両手両足をばんざいにした状態で黒いシックなデザインの革の拘束具によって動けなくされた中年の丸裸の男がいる。父に似てはいるが、ちゃちなCGだ。もがく動きの滑りが異様に良過ぎる。肌は皴一つなく、本物よりも色白だ。紙粘土のようだ。小学校の自由研究以来触る機会のない一種の泥。智は真っ直ぐに串を父に似たCG人形の左頬の横に持っていき、さっくりと左頬から右頬へ貫いた。
息を盛大に吸い込んだ時の喉がかすれる音がテレビから響いた。声も上げられないらしい。血が出ているが、実際よりも少なく映っているだろう。
別にこちらへの配慮ではない。そんな配慮はしてほしくもない。CGが安い造りなだけだ。
安いといっても十分によく出来ている。必要な把握は全部くれる。こっちがした行為も、結果も、幾ばくかは感じさせてくれるあいつらの痛みの反応も。
バーベキュー状態の父の苦悶の息の音は聞こえない程度に落ち着いた。
父の右足の親指の爪には、既に短い針が三本、爪の隙間に刺さっている。
智は視点を戻して盆の上の銃身の短い拳銃を確認して、一旦画面を切って小休止した。
すぐそばのローテーブルの上に味のついていない炭酸水のペットボトルがある。キャップを開けて口に含んだ。ローテーブルの端にはみ出たてぐすの糸に、六歳の妹の「四持」が床の上のケースから色とりどりのビーズをふんわりした白い手で取って、隣で一個ずつ通していっている。
口に含んだ棒付き飴を時々動かして舐めながら。
甘い物を舐めていればいいと思う。この部屋にはフィギュアだとか趣味本だとか、毒親ゲーム以外のゲームだとかそういった類のものは何もない。
「普通」しか詰まっていない男子の部屋だ。勉強机も学校を卒業したら引き出しも付いていない、ただの脚のついた板にした。
ベッドの上の布団カバーは小学生の時から変わっていない。海外アニメの黄色いキャラが散った柄である。
本棚の本は少ない。怒っても笑ってもいない腹の出た狸の置物がある。写真の入った写真立てもいくつかある。床は濃紫色の絨毯張りで濡れているような大きな染みがある。
本棚の本の背表紙を見上げたが、何故かタイトルがまるで見えないみたいに認識する気が起きない。一番下の段の「英和辞典」と「漢和辞典」だけが見て取れた。
自分は十九になって働いても、空の子供のままだ。
この家を出る為の扉に繋がるような紐の先がどうしても見えなかった。
もしくは四持がいるせいだろうか。
智は飴を舐める四持のつむじを親指の腹を使って撫でた。




