表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/78

2時間の労働が「なかったことに」 ――雪国で、小説と漫画をつくるということ

明けましておめでとうございます。


雨日です。


お正月、いかがお過ごしでしょうか。


今日は少し、いつもより真面目な話を書く。


正月なので、許してほしい。雪で疲れた。



◇ 2時間の労働が「なかったことに」


元旦早々、引くほど雪が降り続いている。


仕事が休みだというのに、小説を書くペースはなぜか落ちている。


それは除雪作業があるから。


朝、一晩で三十センチ以上積もった雪を、

シャベルとスノーダンプという雪国必須の器具を使って除雪する。


家族は除雪機を操る。


二時間ほど作業して、ほどよい疲労と達成感を得る。


――これで今日は大丈夫だろう。


そう思った五時間後。


先ほどの作業は、きれいさっぱり「なかったこと」になっていた。


雪は、朝よりもさらに深く積もっている。


「・・・どういうこと?」


思わず呟き、立ち尽くす。


けれど、怒ることも嘆くこともなく、静かに受け入れる。


そしてまた、黙って除雪を始める。


休日はこれを一日に数回。


仕事がある日は、出勤前と帰宅後にも除雪をする。


雪国の冬は、「やったことが消える」世界だ。




雨日が暮らす土地は、漫画家が多いと言われている。


ちなみに、小説家はあまり聞かない。


小説家に比べると、漫画家は派手な存在に見える。


だが実際は、派手どころか、想像以上に地味な作業の繰り返しだ。


身近に漫画を描いている人がいる。


見ていると分かる。


あれは、小説とはまた別の次元で、途方もなく根気がいる。


一本の線を引く。


納得がいかなければ消す。


また引く。


直す。


今は、エキタブを使って描く人も多い。


修正も拡大も、昔よりずっと簡単になった。


けれど――


ページを進める前に、何度も立ち止まることは変わらない。


線を引いては消し、消しては引き、

「これでいいのか」と自分に問い続ける。


技術が進んでも、

一日かけて進むのは、ほんのわずかだ。


それでも、やめない。


誰に褒められなくても、評価されなくても、

黙々と、積もるように描き続ける。


――雪と、よく似ている。



漫画家に求められるのは、画力だけではない。


話の構造。

感情の流れ。

コマの間。

視線の誘導。

どこで息をさせ、どこで止めるか。


読者が「自然に読めた」と感じるその裏で、

数え切れない選択が積み重なっている。


上手く描くことと、

読ませることは、まったく別の技術だ。


線が上手いだけでは足りない。


話が面白いだけでも足りない。


絵と物語と時間を、

一枚の紙の上で同時に成立させなければならない。


しかも、それを「意識させずに」やらなければならない。


だから漫画は、派手に見えて、ひどく地味だ。



小説を完結させるのも、決して簡単ではない。


けれど、漫画を完結させることは、さらに難しいと感じている。


雨日は一年と四か月ほど前に、

「小説を書こう」と思いつき、書き始めた。


もし、同じタイミングで

「漫画を描こう」と思っていたとしても、

この年齢から始めるのは、きっと現実的ではなかっただろう。


小説と違い、漫画は出版社への持ち込みを歓迎される世界だ。


その点は、正直、少し羨ましい。


けれど、

ネームを切り、構図を考え、

線を引き、修正し、

物語と絵を同時に完成させていく工程を思うと、

その羨ましさは、静かに薄れていく。


羨ましいと思う気持ちは、

知れば知るほど、

尊敬に近いものへと変わっていく。


あれは、

ただ描きたいという気持ちだけでは、

最後まで辿り着けない仕事だ。



雪国に創作者が多い理由は、きっとここにある。


消えることを前提に、積み重ねることをやめない。


派手さよりも、持続。


才能よりも、継続。


それは、燦々と太陽を浴びる場所では、

必要とされない強さなのかもしれない。


毎日、鉛色の空を見上げ、終わらない雪かきをする。


何度消えても、

また積もると分かっていても、手を止めない。


雪の中で育つのは、そういう人間なのだと思う。


このエッセイを書き終えたら、雨日は再び、除雪を始める。


スコップを持ち、雪を捨てながら、次の小説の展開を考える。


腰も、腕も、正直かなり痛い。


けれど、自分よりも、もっと年上の人が頑張っているから文句を言えない。


そして、作業中に家族との小さな小競り合いが起こることも、

すでに織り込み済みだ。


それでも、雪を除け、物語を進める。


書いて、描く。


春になるまで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
明けましておめでとうございます。 雪国出身者に漫画家が多いのは、長い冬の室内遊びに飽きて始める人が多いのかと思ってましたが、なるほど、雪かきですか。 根気や、自分を自分でメンテナンスする力、やらな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ