34話しかないの。助けて ーストックに取り憑かれた底辺作家の日常ー
こんにちは。雨日です。
雨日は、地域の役員をしている。(もちろん、自発的ではない)
ある日、市の職員から言われた。
「地域の活動を、インスタで宣伝してくれませんか?」
胸の底どころか、
地の底から響くような声で、言ってしまった。
「そんな暇、どこにもない」
きっと職員は思っているのだろう。
“インスタだから、簡単でしょ?”
“サッと撮って、ポンと上げるだけでしょ?”
雨日は臆病者なのだ。
インスタを断る理由を言えない。
「小説を書いていて忙しいんです」
なんて、言えやしない。
言った瞬間、“何それ”と思われる未来が見えてしまう。
“え、小説?夢追ってる系?”
っていう目で見られる未来が見える。
だから今日も、働きながら、地域の活動をしながら、
裏では誰にも言えない顔で、小説の世界を駆け回っている。
役員の愚痴を書きたいわけではない。
(前置き長い)
スランプを恐れてストックを書き続けている話を書く。
◇ 小説のストック(下書き)は34話
現在、雨日の連載中の小説のストックは34話。
これを多いと感じるか、少ないと感じるかは人それぞれだろう。
しかし、雨日は思う。
「少ない・・・!」
ストックは50話くらいあってようやく安心できる。
むしろ60話あってもいい。
なかなか、そこまでいけない。
予約中の文字数は10万6千文字。
最近は一話が長くなってきた。
困る。
ストック貯めたいのに。
4,000文字を超えてしまう時がある。
“いつ敵が襲ってきても良いように”くらいの備蓄がほしい。
だから、今の雨日は常に焦っている。
もっと書かないと!
もっと未来の自分を助けないと!
追われている・・・気がする。
しかし家族は言う。
「34話もあるなら十分じゃない?」
いや、違う。
“十分”の基準が違う。
雨日にとって34話は、
冷蔵庫にゆで卵が1個だけ残っているような不安感。
“もうこれ、明日どうするの?”という焦燥。
◇ゆで卵1個で生きろと言うの?
だから、朝から晩まで書くのだ。
脇目も振らずに。
ほこりが積もっていようが、洗濯物が呼んでいようが、
ストックは待ってくれない。
そんな中、家族は平然と言ってくる。
「34話もストックあるなら、新作も書けるでしょ?」
「この前、テンプレ書いてみたいって言ってたじゃん?」
いやいやいやいや。
雨日は思う。
どこをどう考えたら、34話で“余裕”になるのか。
ストックが34話“しか”ないのに、
「テンプレの新作も書け」など、どうかしている。
例えるなら、
・貯金が34円しかないのに「旅行行けるよ!」と言うようなもの
・米びつに米が34粒しかないのに「炊けるよ!」と言うようなもの
◇家族よ、その余裕は幻だ
挙げ句の果てに、家族はさらにとんでもないことを言ってくる。
「それだけストックがあるなら、人気作家の小説も読めるだろ?」
「カクヨムで交流もできるじゃん?」
「一日一話更新しても、一ヶ月以上ストックあるんだぞ?」
いやいやいやいやいや。
その“あるんだぞ?”の言い方、なんなの。
なぜ誇らしげなの。
雨日は思う。
そんな呑気なわけがないだろう!!
ストック34話とは、作家にとっては“ただの呼吸”みたいなもの。
そこから先の未来は常に霧の中。
そんなキリギリス生活してられないのだ。
なのに家族は言う。
「余裕じゃん?」
余裕なわけがない!!
余裕だったら、こんなに髪振り乱してキーボード叩かない!
家族にとって34話は“山”なのだろう。
雨日にとっては“溝”である。
飛び越えたら落ちるやつである。
◇ ストックに取り憑かれた底辺作家
「そもそも、なぜそんなにストックを書くの?」
家族から、核心をついた質問をされ、雨日は黙りこんでしまった。
なぜ、こんなに取り憑かれたようにストックを書き続けているのか?
自分でもよくわからない。
世の中には、小説以外にも面白いことが山ほどある。
それなのに雨日は、ある時は唸りながら、ある時は泣きながら、
毎日小説を書いている。
考えた末、ふと気づいた。
雨日が一心不乱にストックを書き続ける理由――
それは、いつかスランプに陥るかもしれないという“恐怖”だった。
もし筆が止まったら?
もし連載が滞ったら?
そのとき、ごく少数の、細い綱のようなファンが悲しむだろう。
それが怖い。
だから雨日は、家族に話した。
「スランプで小説が書けなくなる時が来るかもしれない。
今はどんどん出てくるけれど、いつか、一字も書けなくなるかもしれない。
それが怖いんだよ」
すると家族は、迷いも揺らぎもなく断言した。
「それは絶対にない」
ーーなぜ、本人ではないのに、絶対だと言い切れるのか。
君は雨日の生態をどこまで理解しているというのか?
疑問は尽きない。
家族はさらに言う。
「ずっと書けるよ。心配するな」
そう言われても、雨日は心配だ。
連載は少しずつ切ない方向へ進み、書くのが辛くなっている。
だからこうして――エッセイに逃げているのだ。
雨日は思う。
ーーやっぱり、いつかスランプになるかもしれない。
そして極めつけに家族が言った。
「今日のエッセイも、誰も共感しないよ」
ーー本当だろうか?
今日も雨日は、
誰にも共感されないかもしれないエッセイを黙々と書いている。
これから出勤だ。
行ってきます。
カクヨムで惨敗した処女作が、
昨日、なんと 注目度ランキング34位 に入りました。
まさにーー
捨てる神あれば拾う神あり。
*『秘密を抱えた政略結婚 〜兄に逆らえず嫁いだ私と、無愛想な夫の城で始まる物語〜』**
https://ncode.syosetu.com/n2799jo/
<完結>




