<小説裏話>池でマグロを狙うな――非テンプレ作家、SSでPVが跳ねた話
池でマグロを狙うな――。
ある日、家族からそんな言葉をかけられた。
「いやいや、そもそも池にマグロはいないでしょう」と思いつつも、
妙にその言葉が頭に残っている。
おはようございます。雨日です。
季節はもうすっかり秋ですね。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
このエッセイは、ライトノベル未経験の私・雨日が「小説家になろう」で
物語(『秘密を抱えた政略結婚』シリーズ)を書き始めた記録です。
今日は「頑張って執筆しているのに、なぜか『諦めて海に行け』と言われた」出来事について書こうと思います。
◼️ 3時起きは趣味か修行か
小説を書き始めて、11か月。
右も左もわからないのは今も同じだ。
ただ一つ変わらないのは、持ち前の粘着質。
それをフル活用して、仕事の合間に必死に書き続けてきた。
朝は四時から(夏の盛りには三時起き)。
休日は朝から晩まで、ひたすらパソコンに向かっている。
気づけば、積み上げた文字数は下書きを含めて129万字。
自分でも「何に取り憑かれているのだろう」と首をかしげる。
追われるように、ただひたすらに書いてきた11か月だった。
◼️短編という武器
雨日が書いている小説は、なろう的な「テンプレ」から外れている。
当然、受けは悪い。評価も低い。
それでも、取り憑かれたように書き続けてきた。
処女作は50万字。
いま連載している物語は、60万字で完結する予定だ。
「読まれない小説」――それはもう、わかっている。
それでも書くのをやめられない。
けれど最近、雨日はひとつの武器を手に入れた。
それが「短編」だった。
◼️ これは短編ではない SSだ!
そもそも短編を書いたきっかけは、気分転換だった。
連載中の物語は完結に向けて展開がどんどん重くなり、
書いている本人も苦しくて仕方がなかった。
歯を食いしばっても、ペンは進まない。
一日一話が精一杯。
そんな時、思い切って短編に手を出してみた。
――すると、不思議と救われた。
けれど出来上がったのは、やっぱり非テンプレ。
しかも連載中の小説を、ヒロインのパートナーの視点から描いたものだった。
それを読んだ家族は一言。
「これは短編じゃない。SSだ」
SS?
家族の説明に、雨日はポカンとした。
「小説家になろう」に身を沈めて11か月。
それでも、まだ知らない言語がたくさんある。
SSも、そのひとつだった。
SSとは「ショートストーリー(Short Story)」の略。
ただし、なろうや二次創作界隈では、
正式な短編小説というより「おまけ話」に近いニュアンスで使われているらしい。
なるほど――と思いつつも、雨日が書いた“短編”は、
視点を変えて「あの時、この人はこんなふうに思っていた」的なことを、
ネチネチと書き連ねたものだった。
◼️ SSを出すと、なぜか完結作品のPV数が跳ね上がる
視点を変えても、所詮は非テンプレ。
評価は低いまま。
世の中には、短編一本で化け物のようなポイントを稼ぐ作家がいる。
それに比べれば、雨日の作品なんて地を這うようなものだ。
それでも、気分転換としては最高だ。
完全なる自己満足。
これがあるから、苦しくても連載中の小説を最後まで走り抜けられる。
ところが――短編を書くと、不思議な現象が起きるのだ。
完結済みの作品のPVが、なぜか跳ね上がるのである。
雨日の完結した処女作のPVは、SSを出す前は平均で300ほど。
ところが昨日、SSを公開したあと――PVは908まで跳ね上がった。
およそ3倍!
評価をいただかなくても、作品に興味を持ってくださる読者様がいる。
それが、ただただ嬉しい。
テンプレじゃなくても、「なろう」には読んでくれる人が確かにいるのだ。
ありがとう!
そう、大声で伝えたい。
そして、嬉しいのはそれだけではなかった。
まるで“ぶら下がり健康器具”に連動するように、
続編として連載中の作品のPVまで増えているのだ。
わずかでも、日々ブックマークや評価をいただける。
辺境に身を置く者としては、その事実だけで身体が震えるほど嬉しい。
◼️SSを週に1〜2度書くようになってしまった!!
雨日はついに暴挙に出た。
週に1〜2本、SSを書くようになってしまったのだ。
連載を書きながらのSS。
あれだけの文字数を書いても、まだまだ書ききれないことが山ほどある。
――粘着質の成れの果て。
それでも嬉々として書き続ける雨日に、家族は冷ややかに言った。
「釣れない釣り堀で、無駄な努力をするのはやめろ」
◼️「池でマグロを狙うな」――家族はそう言った。
どうやら家族から見ると、雨日の行動は奇妙らしい。
その姿は、池でマグロを釣ろうと竿を垂れる漁師にしか見えないのだという。
池でマグロなんて釣れるはずがない。
それなのに雨日は、せっせと海釣り用の道具を買い足し、張り切って構えている。
「いい加減、魚がたくさんいる養殖場――つまりテンプレに行けばいいのに」
家族は、そう言うのだ。
◼️ 非テンプレ作家の家庭内協議
「テンプレ書けない。どうやって書けばいいかわからない」
そう嘆く雨日に、家族は言った。
「書ける。雨日なら書ける! 129万文字も書いて、テンプレ書けないってどういうことだ?」
――確かにそうだ。
でも、小説を書くには根気がいる。
特に連載を最後まで完結させるのは大変で、好きなものじゃないと続けられない。
それが本音だった。
「それなら、原作を考える」
家族はそう言った。どうやら原作を考えるのは得意らしい。
ただし、それを表現するのは苦手なのだとか。
だから、提案してきた。
「テンプレの原作を考えるから、雨日が書いたらどうか?」
連載は無理でも、短編ならできるかもしれない。
やってみようかな――そう思えた。
今、家族は一生懸命に原作を練っている。
完成は半年後か、一年後か。
その間、雨日はきっと、池でマグロを狙うがごとく、
非テンプレ小説を書き続けている。
いつか、マグロを釣れる日を夢見て。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
今回のエッセイの中で触れた「PVが3倍になったSS」
よろしければ、こちらもぜひご覧ください。
『それでは、殿方に好かれません――乳母が見た姫の輿入れ』
https://ncode.syosetu.com/N9034LB/
姫の乳母視点で描いたSSです。
そして、もうひとつ――
「結婚から三週間、初めて妻に『好いている』と告げた日」
https://ncode.syosetu.com/n7754lb/
寡黙な領主グユウが、政略で嫁いできた妻シリに初めて想いを伝えるまでを描いた、
三週間目の小さな物語です。
どちらも短編なので、お気軽にどうぞ!




