26.夕焼けに紛れる朱い頬
前書き
すみません、一回26話を投稿しましたが、こっちの方が倉崎さんらしくて可愛いと思ったので、修正して再度投稿しました。
……これは本当に、予想していなかった。
まさか倉崎さんが俺の家に来るなんて。ていうか、いつの間に俺の家の場所を知ったんだ?
(あ、そうか。そう言えばちょっと前に、家まで送ってもらったことあったっけ)
いろいろと嫌なことがあって自暴自棄になっていた時、彼女が心配して家まで一緒に来てくれたんだ。あの日は大雨が降っていて、倉崎さんが傘に入れてくれた。
ああ、こうして改めて考えると、長谷川と同じように、倉崎さんにも世話になりっぱなしだなあ。
「そ、そっか。ありがとう倉崎さん。気を遣ってくれて」
とりあえず俺は、自分を心配してくれた彼女へ礼を述べた。
「あの、中村くん、お腹空いてる?今日作ってきたお弁当あるんだけど……」
倉崎さんはそう言って、肩にかけていた鞄からピンク色のお弁当箱を取り出した。
(そうか、お弁当……)
俺は一瞬だけ、長谷川の方をちらりと見た。
彼女もまた、俺の方へ視線を向けて、無言の内に目を合わせていた。
(……長谷川もシチューを作ると言ってくれてたけど、ここはさすがにな……)
既に倉崎さんは、そのお弁当箱にご飯を詰めてくれている。それを無下にするわけにもいかないし、何より家までわざわざ心配かけてくれた倉崎さんの好意を無駄にすることはできない。
長谷川には悪いけど、ここは倉崎さんの顔を立てよう。
「………………」
長谷川も俺の気持ちを察してくれたらしく、静かにこくこくと頷いていた。その反応を確認した俺は、もう一度倉崎さんへ顔を向けた。
「ありがとう倉崎さん。そのお弁当、いただいていいかな?」
「うん、もちろん!」
「それじゃあ、一緒に一階の食卓に行こうか」
そうして、俺たち三人は共に食卓へと向かうのであった。
……俺はテーブルに座して、お弁当箱を前にしている。
箱は二段重ねになっており、上段ミートボールと肉じゃががあって、仄かにその香りが鼻の奥をくすぐってきた。
そして下段にはお米がぎっしりと詰められていて、中央には梅干しが乗っていた。
実に美味しそうなお弁当だが、俺にはまだ左腕が使えない。長谷川か倉崎さんの、どちらかに食べさせてもらわないといけない。
これが、小さな争いの火種だった。
「いいよ長谷川ちゃん、私が中村くんに食べさせるから、長谷川ちゃんはゆっくりしてなよ」
「い、いえ、先輩もここまで来るのに疲れてるでしょうから、ここはゆずがします。もともと、ゆずがご飯を作って、先輩へ食べさせる予定だったので」
意外とお互いに頑固なのか、どちらも譲る気配がなく、「ここは私が」「いいやゆずが」と言った攻防が展開されていた。
正直言って、ちょっと嬉しいと思ってしまった。自分の世話を嫌がられてないし、二人の女の子が俺のために名乗りを上げてくれてるなんて、端から見るとまるでラブコメ漫画のような展開だった。
こうしてぼーっと二人を眺めていると、改めて二人とも可愛らしい女の子だと認識する。
長谷川も昔、「自分はよくモテる」と自慢してきたことがあったし、倉崎さんは同学年の中で一番可愛いと噂される美少女だ。街で彼女たちが並んで歩いていたら、きっと何人か振り向くことだろう。
(はっ!?な、何をニヤニヤしてんだ俺は)
ぽわぽわしていた自分の頭を、俺は軽く小突いた。
俺が間に入らないと、二人は平行線を辿ってしまう。ぼんやりしてる場合じゃないだろう!
「まあまあ、二人とも待っ……」
俺は二人の真ん中に立って、彼女たちをおさめようとした。だが、それがさらに火を大きくしてしまった。
「中村くんは、どっちに食べさせて欲しいの?」
「え?」
「私?それとも長谷川ちゃん?」
「い、いや、どっちがいいとかそういうのは……」
倉崎さんは、じっと食い入るように俺を見つめた。
その迫力に気圧されて、俺は身体を少し仰け反らせた。
「!」
ふと気がつくと、俺の右の脇腹辺りに、服を掴まれている感触があった。
それは、長谷川だった。彼女もまた、俺のことを切なそうに見つめながら、ぎゅっと服をつまんでいた。
(マ、マジかよ……。どうしよう……)
い、今ここで決めろっていうのか?二人のどっちかを選べって?
む、無理だよ、そんなの俺にはできっこない……。情けないけど、俺は……ぶっちゃけ、二人のことが好きだ。
恋愛的な感情かどうかは分からないけど、少なくとも人間として尊敬してるし、頼りにしてる。俺の世話を進んでしてくれるこの二人に、感謝以外の言葉はない。
心情的には、毎日世話をしてくれる長谷川に傾いているところがあるが、倉崎さんもわざわざ家まで来てくれたり、どんな時も味方でいてくれる。そう接してもらえて、嬉しくないはずがない。今、二人のどちらかを選ぶなんて、俺にはできない。
(かと言って、どうすればこの状況を打開できるんだ……)
一番いいのは、俺が自分一人で飯を食えることだが、生憎まだ腕は痛い……。今も若干ビリビリしているし、動かすとズキッとする。ここで変に無理をして、腕がおかしくなるリスクは避けたい。
だけど、二人のどちらかを選ぶこともできない。優柔不断な自分に腹が立つが、今はそんなことで自己嫌悪になってる場合じゃない。
(よし!こうなったら、もう正直に言うしかない!)
俺はごくりと生唾を飲んで、二人の顔を同時に見ながら、こう叫んだ。
「二人とも、ごめん!」
眼をぎゅっと閉じて、眉間にしわを寄せながら、自分の胸に沸く感情を、そのまま言葉に変換した。
「お、俺は、二人とも好きだ!いつも頼りにさせてもらってるし、本当に二人には、感謝してる!だから、二人のどっちがいいなんて、今の俺には選べない!」
「「………………」」
二人は、ずっと静かだった。咳払いひとつせず、沈黙を貫いていた。
目を瞑っている俺には、彼女たちの反応が全くわからなかった。反応を見るのが怖かった。
(う、うう、怒ってるかな……。それとも、呆れられてるかな……)
い、いや、それならそれでいい!どうせなら、しっかり怒られよう。とにかく、今は本心!本心だけを語るんだ!
「……中村、くん」
倉崎さんが、声を小さくして俺の名を呼んだ。俺はおそるおそる目を開けて、ついに二人の顔を見た。
「………………」
俺の予想に反して、彼女たちは怒っていなかった。それどころか、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにうつむいていた。
(あ、あれ?なんだ?この反応?)
一瞬、なんでこんなことになっているか分からなかったが、次の倉崎さんの質問で、俺はすべてを理解した。
「な、中村くんの、す、好きって……どういう、意味?」
「!?!?」
俺も、彼女たちに負けないくらい、顔を真っ赤にして答えた。
「あ、あ、えっと!これはその!れ、恋愛的なあれとはまた別で!ゆ、友愛?みたいな!つまり、あー、なんていうか、人間として尊敬してる系のやつで!」
しどろもどろで、呂律が上手く回らない。顔も熱くて堪らない。
きっと今、水の入ったやかんを頭に乗っけたら、一瞬で沸騰するだろう。
「………………」
倉崎さんと長谷川は、一瞬きょとんとしていた。だけど、少しするとふっと頬が緩んで、二人ともくすくす笑い出した。
(な、なんだ?)
俺はまたもや二人の反応がよく分からず、そのまま固まっていた。
「ふふふ、ふふ、そっか。中村くんらしいね」
倉崎さんは妙に優しい眼差しを俺へ送りながら、そう呟いた。
長谷川も目を細めて、実に嬉しそうに笑っていた。
「私ね、中村くん。あなたのそういうところが好……」
「………………」
「……そういうところが、いいところだと思うよ」
「……倉崎、さん」
「あーあ、なんか、肩の力抜けちゃった」
倉崎さんは両手を上げて、爪先立ちをし、ぐーっと背筋を伸ばした。そして、「ふうっ」と短く息を吐いてから、両手をだらんと下ろした。
「じゃあ、もう、仕方ないね。今回は二人でやろっか。長谷川ちゃんも、それでいいかな?」
「はい、ゆずは大丈夫です」
「それじゃ、中村くん。席に座って?」
「え?う、うん……」
倉崎さんに言われるがまま、俺は椅子へと腰かけた。すると、二人は台所から二膳お箸を準備し、右手側に長谷川が、左手側に倉崎さんがそれぞれ椅子に座った。
そして、長谷川がおかずの箱を、倉崎さんがお米の箱を各々取り、二人別々に俺へ食べさせてくれた。
「はい、先輩。あーんしてください」
「あ、あーん」
「さ、中村くん。食べて食べて」
「あ、うん」
「先輩、次はミートボールです。あーん」
「あ、あーん」
「そろそろお米欲しいよね?はい、どうぞ中村くん」
「うん」
俺は、この異様な状況に面食らっていた。
長谷川からも倉崎さんからも、雛鳥のようにご飯を与えられている。なんて贅沢なことだろう。こんなこと普通考えられない。
(う、くうう……。なんか、嬉しいような恥ずかしいような……)
俺は肉じゃがとご飯を頬張りながら、膝の上に置いている手の汗を、静かにズボンで拭うのだった。
……お弁当を食べた後、俺は部屋で一人、ベッドに横たわって休んでいた。
その間に、長谷川と倉崎さんは自分たちの食事をしたり、食器洗い、洗濯、掃除と、細々した家事をしてくれた。
自分一人、何もせずにただ休んでいるのは罪悪感があったが、腕が悲鳴を上げているのも事実。今日は二人の好意に甘えて、大人しくすることにした。
そうすると、日々の疲れが溜まっていたのか、二~三時間ほど眠ってしまっていた。
ほとんど眠ったという意識はなく、突然記憶が飛んだような感覚だった。目を瞑ってもう一度開けたら、数時間が過ぎていたような、そういう玉手箱を食らっていた。
「……ん」
俺の目が覚めたのは、自分の上布団を誰かがかけ直したことに気づいたからだった。
ぼんやりした目を擦って、ゆっくりと目を開けると、そこには倉崎さんが立っていた。
夕日の光が窓から差し込んでおり、倉崎さんを含めて、部屋全体が橙色に染まっていた。
「……倉崎、さん」
「ああ、中村くん。ごめんね、起こしちゃったみたいだね」
彼女はまるで母親のような、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、倉崎さんは俺の胸の上に右手を置いた。
なんだか、嘘みたいだ。いつも学校で会う倉崎さんが、俺の部屋にいるなんて。改めて考える間でもなく、ほんと変な状況だ。
「あの、長谷川は、今どこに?」
「一階で、夕飯の支度をしてるよ。シチューを作るんだって」
「そっか……」
「中村くん、今日は私、そろそろ帰るね」
「ありがとう、倉崎さん。今日はわざわざ家まで来てくれて。なんてお礼を言えばいいか」
「いいのいいの。私も何か、中村くんの役に立ちたかったから」
「凄いな、倉崎さんは。本当に優しいよ。いつも俺は、その優しさに甘えてばかりだ」
「ふふふ」
彼女は微笑みながら、キツネのように目を細めた。
「いつか、ちゃんと恩返しをしないといけないね」
「恩返し?」
「倉崎さん、何かして欲しいこととかある?俺にできることだったら、何でもするから」
「……して欲しいこと、か」
倉崎さんはすっと目を伏せて、何かぼんやりと考え込んでいる様子だった。
そして、胸の上に置いていた右手を動かして、胸を撫でるように擦っていた。
「……倉崎さん?」
「………………」
彼女の耳が、茹でたように赤くなっていた。
ぱく、ぱくと、金魚のように口を開いたり閉じたりしていた。
言いたいことがあるのだろうけど、どうやらそれを言えずにいるようだった。
「……長谷川ちゃんってさ、二年生だよね?」
ようやく彼女が口にしたのは、長谷川についてだった。
「え?あ、う、うん。そうだけど」
「それなら、今度、修学旅行あるでしょ?」
「そうだね」
「その時は、誰が代わりに中村くんのお世話をするの?」
「い、いや、特に代理はいないけど……」
「………………」
俺がそう答えると、倉崎さんはゆっくりと……こちらに視線を向けた。
こくっと、彼女が小さく生唾を飲む音が聞こえた。頬にうっすらと、冷や汗が垂れているのが見えた。
その異様な緊張感に飲まれて、俺は思わずベッドのシーツを握った。
「あ、あの」
「………………」
「く、倉崎さん、えっと……」
「……中村くん」
「は、はい」
「代理を……」
「え?」
「代理を、させてくれない?」
「……それは、長谷川のってこと?」
「うん」
彼女の唇が動く度に、夕日がキラキラッと当たって鈍く光った。
「彼女の代わりに、4日間、ここに住まわせて欲しい」
「……!」
「そして、中村くんのお世話を、何から何まで、私がしてあげたいの」
「そ、そんな、倉崎さん、それじゃあ恩返しにならないじゃないか。またまた倉崎さんにお世話になっちゃうよ。しかも、ここに4日泊まり込むなんて」
「………………」
「俺のことは全然気にしなくていいから、君の希望を……」
「……長谷川ちゃんはいいのに?」
「え?」
「長谷川ちゃんは、君と一緒に住んでるのに、私が泊まりに来るのはダメなの?」
「い、いや、ダメってわけじゃ……」
「なら、私にもさせて欲しい。それが、私の希望だから」
「く、倉崎さん、なんで、俺にそこまで……」
「………………」
彼女は、今日ここへ来た時に見せた……いたずらっ子のような笑みを浮かべて、こう呟いた。
「なんでだと思う?」
「え?」
「なんで、ここまですると思う?」
「………………」
……俺は。
俺は、答えられなかった。
そんな勇気はなかった。
ただただ、だんまりを決め込んで、彼女の瞳を見つめ返すことしかできなかった。
「……ふふふ」
「………………」
「今のは、50%、かな?」
「え?」
「ううん、なんでもない」
彼女はそうして、また目を伏せた。
ガチャリッ
ちょうどその時、部屋の扉を開く音が聞こえてきた。長谷川が帰ってきたのだ。
そのタイミングに合わせて、倉崎さんはすっと立ち上がった。
「それじゃあ、いきなり押しかけて来てごめんね。また今度、学校で会おうね」
「う、うん、また……」
彼女はニコッと笑って、俺へ背を向けた。
「長谷川ちゃん、私、もう帰るね」
「ああ、すみません。今日はわざわざ、先輩のためにありがとうございました」
「ううん、いいの。私も心配だったから。それじゃ、またね」
「はい、お気をつけて」
パタンッ
そうして、倉崎さんは出ていった。
彼女の姿が見えなくなると、一気に緊張が解けたのか、身体がずしっとベットに沈んだ。
「………………」
バクン、バクンと心臓が跳ねる度に、身体がつられて揺れていた。
「すみません先輩、遅くなりました」
「あ、ああ……いいんだ」
「?先輩、どうかしましたか?」
「え?」
「だって、なんか……様子が変だなと思って」
「あー、いや、全然……大丈夫さ。ははは」
「???」
俺は笑って誤魔化そうとしたが、長谷川はずっと訝しげな顔をしていた。
今日はなんだか、倉崎さんの夢を見てしまいそうだ。
……私は中村くんたちの家から出て行き、自分の家へと向かった。
日はすっかり傾いていて、空が青空から橙色へと変化していた。
「………………」
胸の奥が、熱くなってる。
じりじりと心臓を焼かれていて、今にも足を止めてしまいそうだった。
(……中村、くん)
長谷川ちゃんが修学旅行でいない間に、私は彼のお世話をする。これは、かなり距離を縮められるチャンスだと思う。
二人きりになれるタイミングも多いし、何よりボディタッチが増える。彼に私のことを意識してもらえる、またとない機会だ。
きゅっ
胸の辺りを、右手で握り締める。それによって、制服のシワが中央に寄せられる。
呼吸が浅くなるのを防ごうと、深呼吸を試みるけど、それは余計に悪化させるばかりだった。
「………………」
ねえ、中村くん。
私ね、もう根っからのお母さん気質なんだと思う。
夏希ちゃんからは、「お母さん過ぎるのはダメ!」って叱られてたけど、中村くんを見てると、構ってあげたくて仕方なくなる。
真っ直ぐで、いじらしくて、抱き締めたくなる。よしよしって頭を撫でてあげたくなる。
『二人とも、ごめん!』
『お、俺は、二人とも好きだ!いつも頼りにさせてもらってるし、本当に二人には、感謝してる!だから、二人のどっちがいいなんて、今の俺には選べない!』
あの時は、本当に中村くん、可愛かった。私と長谷川ちゃんのことを精一杯彼なりに考えて、私たちを傷つけないようにしようとしてて。
それで、口を滑らせて「好きだ」と言ってしまう、抜けてるところもいい。あの時はもう、彼に飛び付きたくなるのを堪えるのに必死だった。
ああ、中村くん。中村くん。私、あなたの全部を受け入れたい。私こそが、あなたの味方なんだって教えてあげたい。
「………………」
中村くんの家へ泊まりに行く4日間の、最後の日。
私は彼へ、100%の告白をしようと思う。
付き合って欲しいと、ずっと私のそばにいて欲しいと、彼にそう伝えたい。
二人でいる時間をたっぷりと過ごしてから告白すれば、きっと成功率も高くなるはず。
彼への想いを、全部ぶつけるんだ。
(あ、そうだ。も、もし、万が一のために……避妊具、用意した方がいいかな?)
数日とはいえ、何日か同じ屋根の下で過ごすのだから、もしかすると……過ちがあるかも知れない。
特に、告白が成功した暁には、私の方から彼を押し倒してしまうかも知れない。そのくらい、私の昂りは激しくなると思う。
(そう考えると、中村くんは長谷川ちゃんと……そういうこと、したりするのかな?)
一瞬だけそのことが不安になったけど、中村くんみたいに誠実な人は、恋人じゃない女の子にそんなことはしないと思う。
それに、中村くんの立場からしたら、長谷川ちゃんにエッチなことをするのは嫌なはず。長谷川ちゃんは、中村くんの右腕を失わせることになった張本人。彼女の罪悪感に漬け込むような真似はしたくないって、彼ならそう考える。
(ということは、二人は物理的な距離は近いけど、本当は一番……恋人になりにくい立場なのかも)
それを理解していくと、ますます私の心臓は高鳴り出した。私の可能性が上がるにつれて、身体全体に熱を帯びていく。
順調に、彼へ好き好きアピールしているけど、ちゃんとそれが伝わってくれてたらいいな。
「………………」
私は一旦、足を止めた。
右手側に、コンビニがあったからだ。
(そうだ、避妊具……ここで買おうかな)
自分の家の近くで買うのは恥ずかしいから、ちょっと遠くのこういうところで買うといいかも知れない。
うう、でもどんなのがいいかとか分からないし、ここから見る限りじゃ、店員さん男の人しかいなさそうだし……。
ああ、そうだ。それに私、制服だ。校章が胸にあるし、学校バレちゃうよ。
ダメダメ、止めとこう。無理してここで買わなくていいよ。また別の機会に、どこかへ買いに行けば……。
「………………」
……ていうか、そもそも。
そもそも、避妊具って、いらないんじゃない?
だって私、嫌じゃないもん。妊娠したって。
お母さん気質だったのが、本当のお母さんになるだけだもの。
私、中村くんの全部を、受け止めたい。
彼に、私の中を満たして欲しい。
二人で一緒に赤ちゃんを育てたら、きっと幸せだと思う。
それに。
──そうすれば、いよいよ本当に、彼を私のモノに……。
ティロリン、ティロリン♪
「!」
コンビニの中から、OLが一人出てきた。
私はその人と目が合って、その瞬間にハッと我に返った。
(わ、私ってば!な、何考えてんだろ!?)
途端に恥ずかしくなった私は、顔を伏せて、逃げるようにその場から立ち去った。
(さ、さすがに妊娠はダメ!親に怒られちゃうって!)
自分の理性が飛びかけていたことに、私は心底恐ろしくなった。そのくらい、私はもう……彼のことが、好きになってしまったんだと。
「……中村くん」
彼の名を、ぽつりと呟いた。
帰る道中に、何度も何度も、呟いた。
夕暮れが、閑静な住宅街を橙色に染めていた。
真っ赤に燃える太陽は、その住宅地の影に隠れて、見えなくなってしまった。
後書き
メスガキちゃん~完結後の、次回作の構想について(ご相談)
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