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夕暮れの古町

作者: なと

夏の日差しは人間を燃やして

金魚だけの世界を作ろうと炎天下

郷愁を感じつつも木陰で休み

雲水さんが隣でこうべを垂れ

見知らぬお経の声が道端の暗がりから聞こえて

不意に蝉は鳴き止んだ

風鈴の音が鳴りやまない熱帯夜の夜の耳の奥

向日葵は太陽に向かって吠えているのかもしれない

真夏の幻聴とは

懐かしい郷愁の唄がラジオから聞こえる

昭和歌謡は寂しい夜に寄り添う満月のように

昔町を想っても時代は戻りはしないというのに

問わず語りをあの曲がり角で男は背中で語るとさめざめと

酔いどれ知らず夕べの事は忘れたと知らぬ店で知らぬ顔






遠き町、野辺送りを霧雨の中どんな人生どんな亡骸

道は何処まで続くのかと終わらぬ人生を後悔して

紅葉に聞くあの人は何処へ行ったのかと見知らぬ街

赤子の掌のような赤がひらりひらりとあの俳優の散り際は

遠い街、酔いつぶれた人の影が過去を問いかけ罪を問いかけ






雨降る路地に雨傘が踊る雨のパレード

街並みは薄暗い朝でも電灯は点る遠い街

駅のホームに暗い影、大人のなりそこないが闇に泣く

哀歌はお酒に溶けてゆく寂しさだけがこの町で知った人生

久遠の刻を生きてきた古い街並み今日は雨で黒い影となり孤独の唄

陽だまりのない雨の日は居場所を求め町を行く





ハレとケとどちらも皆に忘れられそうで

カレンダーの中で蠢いている

仏滅の日には緋色の着物を着て百合の花でお百度参り

常世への道しるべは雨音に掻き消されそうになり只ぼんやりと

夏は終わらないと書くと本当に終わらないようで扇風機は廻る

煩悩を捨てることが本当に正しいのか青空は知らない







まだ扇風機は廻っている曇天の空にビーズの雨

あの家はまだ風鈴を片付けないよ最後の希望

夜道を霧雨が濡らしてゆくコンクリートは美しく

赤い着物でゆっくりと首を絞めてゆく

最後に見たのは口紅だけが色鮮やかで

回転木馬は舞い散る櫻の下で花びらまみれになって行く

極楽とはこういう処かもしれぬ






廊下の隅からもういいよの声聞こえて

振り返ると花蝋燭が散らばっていた

静かに夏と秋を行き来して

冬も何事もなかったかのように紛れ込む迷宮入りの事件

泣きながら想い出を匣の中に入れて神社の裏の土に埋めたら

次の年中身がすべて櫻の花弁になっていた

宿場町の道は遠い過去へ続いている夢幻





亡くなった祖父の書斎の裏の部屋に硝子細工だらけの隠し部屋アリ

御経を唱えて開ける鍵のついた抽斗には地獄経の経典

亡くなった人の燃える匂いを火葬場で何の花に喩えよう

あの神社では夜も灯りを絶やさずに悪いものから遠ざける

人絶えし神社にて社の蜘蛛の巣払った日に玄関に落ちていたビー玉の群れ





田んぼの蓮は白い花をつけて

すべてのたましひの卵を守って梅雨の雨

朝顔は夕べの夢を忘れないからあんなに青い

財布お守りの真鍮の蛇がすり切れる頃に又、祭りの頃になる

夜の雨は大人たちを子供にする壁の福笑いの面を被って

宿場町の夜は安らかではしゃぎまわる子供の声の幻聴聞こえる







田んぼの蓮は白い花をつけて

すべてのたましひの卵を守って梅雨の雨

朝顔は夕べの夢を忘れないからあんなに青い

財布お守りの真鍮の蛇がすり切れる頃に又、祭りの頃になる

夜の雨は大人たちを子供にする壁の福笑いの面を被って

宿場町の夜は安らかにはしゃぎまわる子供の声の幻聴聞こえ紙







サイダーのガラス瓶を集めて真言の文字が彫られた壜はアタリ

雨の日の車の音は少し湿気があって布団の中でうすく眠る

走馬灯を仏壇の部屋に置いて

秋になっても風鈴の鳴る家は幸せになれる

神社の赤い鳥居に赤い紐を巻きつけて

線香花火を仏壇に供えると吉夢が見られる

ゆめまぼろし






仏壇の陰を探してビー玉を凡て座敷に転がす万華鏡

泡沫の遊びをしようと首に赤い縄を真っ黒の喪服で

歩道橋から見下ろすテールランプに線香花火の火の玉を落とす

下駄箱の靴の中に櫻の花弁が敷き詰められ花子さんの想い

街を鬼百合を片手に踊り歩く

雨も降ってきてお葬式の野辺送りは始まる

凡てが幻






銀河鉄道が駅から出発する

駅の車掌さんが切符を切る

アンドロメダまで行く

永遠の命を求めて

永遠とは何だろう

時間軸の変な世界か

此の世の境界線を星々が打ち砕くとき

僕は安らかに眠っているのだろう








雲は流れてゆく

どこまでも白い雲が

青い空の中をゆったりと

顕微鏡で覗いたミドリムシは

心太が食べたいという

夏だからか

墓石の上に心太を置いてきた

祖父が好きだったから

私はゼリーを食べる

どれも透明だ

白衣の先生は

怪しい実験をやっていて

美術室の手の模型が

夕陽の教室のなか

動いていた







あの灯りの中に真実という生き物がいると云う

何時から此の世で真実が

生きていけれるようになったのだろう

今まではホルマリン液の中でしか生きられなかったのに

その時計には針がなかった

それでも生きているという

ホルマリン液の中の魚の骨が

小さな匣の中の嬰児に話しかけ

わずかに外で風が吹いた







夏が孤独を感じている

閉じ込めた冷蔵庫の中青くなって

青は空と同じだから寂しくないねと言ったら

そうですね夕陽は赤いですけど

とおかしな返答が帰ってきた

真昼の部屋に金魚だけが生きている

私はすでに半分死んでいる

神棚の恵比寿様が嫁になれと言って

小判を口から吐きだしている

掃除が大変だ









信号機はぴつたりと電信柱にくっついて

何時か足が生えて歩き出すような気が

夏の宿場町に雪洞ぶら下がる頃

新しい昔が羽化してゆく

嬰児の頬赤く人であらざりし者

誰も居ない闇に向かって語り掛ける刻がくる

夢の終わりはまた夢か

荒れ野を行く列車の踏切が

脳裏に浮かんでは消えて






時計の奥にはあの日の記憶遠い想い出

非常階段の鍵は錆びていました

人の忘れし旧校舎の階段の踊り子

夕焼けの中で苛烈な娘はしおらしく

潮騒の音聞こえし酒壜の

中には貝の欠片かな

横断歩道の信号機は人を支配して

闇夜にも雨の日も立ちんぼのまま

人混みの中で孤独を感じる

都会の夜は寂しい






朝焼けに背を伸ばし日差しのにほいを嗅ぐ

朝見たノートは夜の闇に埋め尽くされて

三毛猫の鳴き声鈴の音のやうに朝日で埋め尽くされる

心に闇を抱えし者、身の程知らずに春の気配を抱きたくて

春の夢は何処迄も幸福で永遠は此処にあるのかと

櫻の花は花嵐となって不幸せだった人を攫ってゆく






夕暮れ時は電柱を見上げる

其処に幸福が在るという訳でもないのに

掌を握ったり開いたりして

誰かを抱けるほど強くないのに

風は孤独を思い出させる

宿場町に居たらもっと違う風

雨の日の宿場町は寂しい

寂しい人たちが集まって

夜を愛でたりする宗教が

あってもいいじゃないか

辛い夕陽に光るなみだ







気が付いた服の中に紛れ込む蝉の抜け殻

いつの間に羽化したんだろう

灼熱のお参りは思考を鈍感にさせ

色々どうでもよくなるくらい

蝉はうじゃうじゃと念仏を唱えている

陽炎は炎天下をゆらりと揺らめき立ち

夏という幻影をますます彼岸の向こうへと誘う

賽銭箱の隅に彫られた真言は

何を伝えるのか







走馬灯地獄、枕の下に眠りつつ

枕はそっと薄目を開けて主が寝たか確認すると

自由気ままな回転木馬を万華鏡のように

極彩色の吉夢を見せる気まぐれに

昭和に戻ったような通り道に

木々に囲われた大きな公園があって

子供達は暗がりで遊んでいる

流石に宿場町の子

私も交じって暗いブランコで

遊ぶのだ







真昼の太陽の亡骸は夜の常夜灯に宿って

人々の営みを不思議そうな顔をして見つめている

昔の人は神様を大事にした迷信多き世に

神棚の大黒様は夜に見つめてくる

遠雷が聞こえる夜は布団を頭から被って

ひたすら雨音が遠ざかるまで

呪詛のような御経のようなものを唱えて







夜の宿場町には寂しい人が集まって

お酒を飲んでいるただ影のやうに

風が孤独を運んできて心臓のあたりで泣いている

夜のテールランプが目に沁みる

影はそっと寄り添って柔らかい足の指で

土を踏むようにこころを黒色に染めあげる

夢の古町は夜色のコートをかぶって

幸福駅までの旅に出る

永遠を求め







秋の寂しい風は人を孤独にして

両手に抱えた星屑と満月だけが友達だ

ブリキの玩具がもの悲しそうに

同じ動きを繰り返し

ひなたに転がっている

枯山水のような荒れ野を眺めて

此処は何時の時代だろうと

昭和をどこまでも歩いてゆく

櫻並木を見た日は幸せで悲しい夢を見る

起きると頬を涙が伝った






夏の子は冬でも夏を探します宿場町の片隅で影踏みをして

櫻を見ては亡き人を想います夢の櫻は骨壺の灰を散らすように

冬の常夜灯は寂しい人を照らす孤独は懐かし町の街角で人を待つ

夜の枕は暗闇の中の星々を贄として人間を操ろうと万華鏡の夢を見せ

消えません夏だけは、財布の中身が空になろうとも






やたら喉の乾く水ばかり飲む前世は魚か人魚

冬の朝焼けに逃げ場など何処にもなく

仏間の影で暗闇を探して押入れの中で暮らす夏の子

夏のため息は味噌汁の中から唐辛子が浮かんでいて

赤い夢を見た浜辺の炎に照らされて交わる熱帯夜の夜

冬なのに夏を探して玄関の金魚鉢の前から一歩も動けず






夏の日差しは人間を燃やして

金魚だけの世界を作ろうと炎天下

郷愁を感じつつも木陰で休み

雲水さんが隣でこうべを垂れ

見知らぬお経の声が道端の暗がりから聞こえて

不意に蝉は鳴き止んだ

風鈴の音が鳴りやまない熱帯夜の夜の耳の奥

向日葵は太陽に向かって吠えているのかもしれない

真夏の幻聴とは







家に取り憑いている座敷童とは自分の事か

夕べ見た夢は海でヒトデを拾って夜空に浮かべる

神社の境内に敷き詰められた白い石を

赤く塗ってゆくまじないごと

此の世が暗黒になって仕舞えばいいのに

常夜灯は今日も夜道を照らす

古い町の匂いに誘われて

誰も居ない道の真ん中で横になる





夜歩く風は西より貝を鳴らすような不思議な家鳴り

猫の足跡は呪いの様な黒い影、青い古町

常夜灯の下、真っ赤な糸であやとりをやる悪い遊び

秘密めいたおまじない

洗面台で合わせ鏡をしてしまう大人たち

お多福のお面を被ったまま夜の宿場町を散歩してしまう

幽霊の顔はきっと自分と瓜二つ

秘密の町



仏壇の陰を探してビー玉を凡て座敷に転がす万華鏡

泡沫の遊びをしようと首に赤い縄を真っ黒の喪服で

歩道橋から見下ろすテールランプに線香花火の火の玉を落とす

下駄箱の靴の中に櫻の花弁が敷き詰められ花子さんの想い

街を鬼百合を片手に踊り歩く

雨も降ってきてお葬式の野辺送りは始まる

凡てが幻

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