奇妙な異物
私は冒険者ギルドの新人職員である。いまは頼れる同性の先輩の元で受付業務の研修中だ。
その先輩は優しく仕事ぶりもすこぶる有能なのだが、時々奇妙な言動をする。むしろ世界全体が妙な状態になることがある。
それがどういうことなのかをこれから話そう。
その日も私は冒険者ギルドの受付業務を行なっていた。すると一人の男性がギルドに入ってきた。
依頼者ではなく新しく冒険者になりたいという志願者だー男性の格好が粗末な布製の服に腰に帯剣していることから一目でわかった。
やがて受付に近づいた男性は予想通り「冒険者になりたいのですが、登録をお願いできますか。」と尋ねてきた。
「はい,冒険者登録ですね。それではまずは身分を証明できるものはありますか。」
いざという時は先輩が補助してくれるため,私が対応にあたった。ここまでは普通だった。
話がおかしくなるのはここから先だ。
「運転免許証しかないんですけど、これでいいですか。」
私は運転免許証という聞き慣れぬ言葉と男性が机の上に差し出した四角く平べったい板に面食らった。
男性の驚くほど精巧な顔を描いた絵と細かく解読不能な文字が刻まれたものが運転免許証というものらしい。
確かに描かれた絵のうまさからすると身分証明に使えそうだが,運転免許証が存在が何なのか私は知らず、文字も読み取れないからどうするべきかと逡巡した。
私が困惑しているのを見かねたからか先輩が対応にあたった。
しかし,その反応はこんな正体不明の物体では冒険者登録できないと拒否するものではなかった。
「はい、運転免許証ですね。これで問題ありませんので書類の記入をお願いします。それから車両をお持ちの場合、怪物討伐に赴く際に森の中には車両で入らないようにしてください。」
「不整地走行が可能な車種なら荒地は走れても、森だと木々が進路を妨害しますし、怪物のブービートラップに引っかかるリスクもあります。それにエンジン音や排気ガスで怪物に気づかれますので」
先輩はどうしたのだろうか。なぜ運転免許証という未知の物体を受け入れているのか。当たり前の存在とは思えない。
それに車両とは何なのだ。時折街中を四輪で走る金属やプラスチックなる未知なる素材でできた見慣れぬ乗り物が走っているが、あれが車両なのだろうか。
確かに馬車よりも便利そうだったが、あんな乗り物が開発されたという話は寡聞にして知らない。なぜ車両というものがあって、疑問なく受け入れられるのか。
また、これはなにも男性と先輩に限った話ではない。今併設している食堂で冒険者の方が話しているが,その内容も奇妙だ。
「ガッハッハ! ドラゴンが地面で寝転んでいる隙にガールグスタフ無反動砲の対戦車榴弾とkord重機関銃を浴びせてたおしてやったぜ!」
カールグスタフと重機関銃とは,大砲と火縄銃の一種らしい。しかし、私が知っている大砲と火縄銃とは明らかに形状や性能が異なる。
そもそも連射できる火縄銃なんて未だ開発されていないはずだ。
どうやら時折この世界には本来存在してはならない奇妙な異物が存在し,その事実を当たり前に受け入れる人間がいるようだ。
どうしてかはわからないが、この奇妙な現実を受け入れて生きるしかない。
私はため息をつきながら,ボールペンなる器具を使って冒険者登録に必要な書類の制作を始めるのだった。