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羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜  作者: 長月京子
第十四章:可畏(かい)の使命

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68:伯父と甥

 可畏(かい)は視線を伏せた。答えを明かされたも同然である。

 羅刹(らせつ)の関わる禁術の行使に値するのは。


「陛下の御座(おわ)します(すめらぎ)家、または御門(みかど)家か安倍(あべ)家。そういうことでしょうか?」


「私も尻尾を掴めたわけではないが、おそらく安倍(あべ)だろう」


「では、安倍(あべ)はやはり私のカラクリを知っていたのですね」


 帝はふっと自嘲的に笑う。


「おまえが鬼の子であるという噂を流したのも、彼らだろう」


「――なるほど……」


 隠し通せると思っていたわけでもないが、千代(ちよ)――あの童女が自分と同じ者であるなら、彼らは可畏(かい)の予想よりもずっと以前から知っていたのだ。


 蘆屋(あしや)が鬼封じの札を自分に仕掛けたのも、安倍(あべ)からの入れ知恵があったのだろう。

 滑稽だなと、可畏(かい)の口元にも皮肉げな笑みが浮かぶ。


「だが、可畏(かい)


 帝の声に視線を上げると、彼がこちらに睨みを利かせている。


「自身のことを死者だと言うな。綾子(あやこ)が悲しむ」


「それは陛下の感傷です。母への思い入れは理解しますが、彼女は覚悟を決めて私にこの大役を負わせた」


 可畏(かい)の母である綾子(あやこ)は皇女である。御門(みかど)家に降嫁したが、現在も内親王を名乗り帝の妹であることは変わらない。だが可畏(かい)を産んでからの消息は秘められている。

 表向きは静かな場所で病床にあり、療養を続けているという体裁になっていた。


綾子(あやこ)はおまえを犠牲にしたかったわけではない」


「気休めは良いのです。私はこの立場を理解しております」


 帝が可畏(かい)に一目置くのも道理だった。

 羅刹(らせつ)封印のために、可畏(かい)に背負わせた大役。その成り行きの監視と同時に、帝には幼い甥に課された過酷な使命を、ただ不憫に思う伯父としての感情もあるのだろう。


「私を哀れだと思われるなら隠し事はお控えください。陛下はなぜ葛葉(くずは)や異形のことを私にお話しくださらなかったのですか?」


「そう怒るな、可畏(かい)。おまえに同行して花嫁は無事に異能を取り戻した。そうだろう?」


「はじめから彼女に真実をお話しになれば良かったのです。……せめて私には」


 過去の記憶に触れ、自分を責めていた葛葉(くずは)の姿はいま思い出しても痛々しい。真相を知っていれば、彼女が自責の念に追い詰められる必要もなかった。

 憤りを隠せずにいると、陛下が小さく笑う。


「悪かったとは思うが……、おまえはうまくやってくれた」


「無責任なことを」


「花嫁の罪の意識は晴れて、無事に異能も取り戻した。何も問題ない。結果的には同じことだ」


 可畏(かい)が苛立ちのまま帝を見据えていると、彼はわざとらしく咳払いをする。


「いや、同じではないな。むしろ花嫁の信頼を得られたはずだ」


 まるでそれが織り込み済みであったように、帝が不敵な笑みを滲ませた。たしかに葛葉(くずは)の様子は当初よりかなり打ち解けたものになっている。彼女の心境の変化を狙っていたとでも言いたいのだろうか。


「そうイライラするな、可畏(かい)


 帝が思い出したように、手元にある珈琲カップを手にする。珈琲を口へ含む前にぼそりとした低い呟きがあった。


「私は妹の願いを叶えてやりたい。玉藻(たまも)も同じ思いだろう」


 母の願いは羅刹(らせつ)の封印を叶えることなのだ。可畏(かい)もその願いに異論はない。


(母はそのために自身を犠牲にした)


 苛立ちをおさめようと、可畏(かい)も珈琲カップに手を伸ばした。しばし香りと苦味に意識を向ける。


「陛下」


 ゆっくりと珈琲を飲み干してから、可畏(かい)は再び呼びかける。


「他にも何かご存知であるなら、お話しください」


「……そのつもりだ」

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