表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜  作者: 長月京子
第十三章:平屋の小芥子(こけし)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/77

66:枕元に立つ小芥子(こけし)

(息苦しい……)


 何かにのし掛かられているような重さを感じて、葛葉(くずは)は目を覚ました。

 胎児のように丸くなった姿勢で眠っていたようだ。視界には闇があるだけで布団の温もりに包まれている。


(寝付けないと思っていたのに)


 小芥子(こけし)が気になって仕方がなかったが、どうやら杞憂だったようだ。可畏(かい)にもらった香水の効果だろうか。あっけなく眠りに引き込まれて、布団に潜り込んだまま安眠を貪っていた。


(やっぱり疲れていたのかな)


 夢見心地のままぼんやりとそんなことを思う。布団の中で丸くなったまま、葛葉(くずは)は息苦しさを解消しようと身動きして、異変に気づいた。

 寝返りを打つことができないのだ。


(なに? 体が動かない)


 息苦しさが増していく。掛け布団の重みだと感じていたものが、異様な圧迫感で体を締め付けている。


(金縛り?)


 横向きで布団に潜り込んでいるため室内の様子が視界に入らない。けれど、確実に掛け布団の向こう側に何者かの気配を感じた。


(もしかして小芥子(こけし)がやって来たんじゃ……)


 ぞおっと背筋が凍る。恐れで鼓動が早鐘のように打ち始めた。

 辺りを見ようとしても首を回すことすらできない。声もでない。ただ布団の中で横たわったまま自分の鼓動だけが響く。


――目を覚ましましたか?


 とつぜん耳元で囁きがあり、びくっと意識が反応するが体は金縛りの影響下にあって微動だにしない。

 小芥子(こけし)が襲って来たのかと、鼓動が最高潮に激しくなった。


――どうか、そのまま聞いてください。


 恐れで失神しそうだったが、聞こえてくる声は澄んでいて柔らかい。


(女性の声?)


 小芥子(こけし)だったとしても、悪いものではないという可畏(かい)と和歌の言葉を思い出す。体が動かず気配を確かめることはできないが、葛葉(くずは)はゆっくりと呼吸をして気持ちを立て直した。どどどっと太鼓の連打のように鳴っていた鼓動が鎮まり始めると、いくぶん恐怖がゆるんで冷静な自分が戻ってくる。


(大丈夫。わたしは特務部の一員として、この怪異を解決する)


 できると意気込んだ途端、ふっと金縛りが解けた。息苦しさがなくなり体も動く。辺りの様子を確かめる勇気が必要だったが、葛葉(くずは)は覚悟をきめて潜り込んでいた布団から顔をだす。


「ひっ!」


 枕元にひっそりと小芥子(こけし)が立っていた。室内は暗く、本来ならはっきりと見えるはずがないのにすぐに存在がわかる。

 暗闇の中でうすらぼんやりと燐光を放っているのだ。


(ほのかに、蒼く光ってる?)


 目を焼くほどの輝きはないが、可畏(かい)の放つ蒼い火と通じるものがある。

 葛葉(くずは)小芥子(こけし)に目を奪われていると、背後で気配がした。 ぎくりとして振り返ると、敷かれた布団の脇に誰かが立っている。

 小芥子(こけし)と同じように、あるかなしかの燐光を放つ美しい女性だった。


(やっぱり付喪神?)


――お願いがあって参りました。


 胸に響く澄んだ声だった。葛葉(くずは)は少し警戒を緩めて、女性の美しい顔を仰いだ。


「わたしに何を?」


――助けてほしいのです。あの子を。


「あの子って?」


――罪を贖うために、我が身を捧げた吾子(わがこ)のことです。


 はらはらと美しい女が涙をこぼす。


――わたしはただ、あの子に生きて欲しかっただけ。たとえ鬼の子となろうとも。


 蒼く光る涙が闇の中で弾けた。振り絞るような女の声。後悔に苛まれているのがわかる。


――どうかお願いします。


 あの子を助けてと女が繰り返す。


――生きて……


 声がかき消えて辺りが暗闇と静寂に呑まれた。葛葉(くずは)が瞬きをしても、もう女性の姿が見えない。かき消えた声は生きてほしいと繰り返したかったのだろうか。


 葛葉(くずは)小芥子(こけし)に目を向けるが、すっかり夜の闇に同化している。かろうじて影が判別できるだけで、さっきのように姿を見分けることができない。


(あの子って、誰だろう?)


 手探りで小芥子(こけし)に触れると葛葉(くずは)はしっかりと手でつかんだ。女性の訴えに揺さぶられ、すっかり恐れが失われている。


(この小芥子(こけし)御門(みかど)様のお母様のものなら……)


 胸に浮かんだ予感があった。可畏(かい)に関わることなら見逃すことはできない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▶︎▶︎▶︎小説家になろうに登録していない場合でも下記からメッセージやスタンプを送れます。
執筆の励みになるので気軽にご利用ください!
▶︎Waveboxから応援する
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ