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羅刹の花嫁 〜帝都、鬼神討伐異聞〜  作者: 長月京子
第十一章:真相への道

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53:豪商の裏にかかわる者

 葛葉(くずは)の疑問はもっともだと言いたげに、可畏(かい)が不敵な笑みを浮かべた。


「はじめこの一帯にあったのは鬼火の噂だけだった。鬼火については特務部にも以前から聞こえていたが、異形の出現もなくこれといって被害もなかった」


「鬼火だけであれば、人に危害を加えなかったということですか?」


「そうだ。第三隊がここを拠点に調査を開始したのは異形の被害が出るようになってからで、鬼火の噂とは時期的に差がある」


 可畏(かい)がふたたび卓の上にあった柄鏡(えかがみ)へ視線をおとす。


「鬼火と異形にはそれぞれ別の事情がある。鬼火は妙のことを示していたが、異形はその鬼火の噂に重ねて仕掛けられた事件だ。鬼火とは別の目的をもっている」


「仕掛けたというのは、……千代ちゃんですか?」


 葛葉(くずは)がおそるおそる訪ねると、可畏(かい)が苦笑した。


「千代独りの犯行なら良かったが、そんなに単純な話じゃない。これは羅刹(らせつ)の花嫁を手に入れるために仕掛けられている。術師である蘆屋(あしや)もそう言っていた」


「はい。それはわたしも聞きました」


 異能と呪符の攻防の中で、葛葉(くずは)もそれは理解していた。


「だが、はじめはおそらく私を誘き寄せるために仕掛けていたんだろう。異形による死者が頻発すると、特務部も看過できなくなる。その異形を討伐できないなら、なおさらだ」


「でも、なぜ御門(みかど)様を?」


「邪魔になるからだ。羅刹(らせつ)の角を手に入れた者にとって、私は障害になる」


 葛葉(くずは)は突然つながった成り行きに、前のめりになった。


「では、今回の事件は羅刹(らせつ)の行方にも関わっているんですか?」


「そうだな。おそらく繋がっている」


 そこまで認めて、可畏(かい)が吐息をついた。


「私を誘き寄せる罠で、羅刹(らせつ)の花嫁が釣れると思ったのだろう。あの婚約披露で花嫁(おまえ)の所在を掴んだのは相手も同じだ」


 深紅の赤い瞳に自嘲的な色が浮かんでいる。


「ここに葛葉(くずは)を伴ったことは、相手にすれば絶好の機会となったわけだ。おまえを帝が目隠しのために用意した住まいから出すべきではなかった」


「そんなことはありません!」


 咄嗟に口を開いてしまい、葛葉(くずは)はすぐに「あの」と尻込みする。


「わたしは御門(みかど)様と第三隊に伴って、現場ですごく勉強ができました」


 至極当然のことを言ってしまい、あわてて付け加える。


「それに、その、大事なことを思い出しましたし」


 焦って余計な墓穴を掘ったと思った瞬間、可畏(かい)も同じことを思ったらしく苦笑する。


「それは感謝されることなのか? おまえにとっては忘れることで正気を保っていた最悪の記憶だったはずだ」


「うぐ……、それはそうなのですが。知らないままでいるよりは良かったと思います。御門(みかど)様が私を信じてくださっていることは心強いですし、夜叉(やしゃ)の正体もわかりましたし……」


 しどろもどろと取り繕うと、可畏(かい)がふっと小さく笑った。


「でも、まぁそうだな。おかげで羅刹(らせつ)の花嫁としての力にも目星がついたし、同時におまえには何の罪もないことが証明できる」


「え?」


 可畏(かい)の表情からさっきまでの自嘲的な雰囲気が拭われていた。


「でも、御門(みかど)様。わたしはまだ何も……」


 葛葉(くずは)は戸惑うが、覇気を取り戻した可畏(かい)の様子を見ていると不思議と気持ちが前を向く。

 自信に満ちた彼の雰囲気は、いつでも葛葉(くずは)に意欲を与えてくれた。


「そのうちわかる。おまえには活躍してもらう」


「は、はい!」


 条件反射のように返事をすると、可畏(かい)がおかしそうに笑った。


「だが、一筋縄ではいかない相手だ」


 深刻さを思い出すように、可畏(かい)が厳しい表情をした。


「千代か蘆屋(あしや)を足止めできていれば良かったが、どちらも逃した」


「でも三河屋は捕まえたわけですし」


「多少は役立つだろうが、三河屋では羅刹(らせつ)の行方までは届かない。彼も利用されていただけだ」


「それは、いったい誰に?」


 三河屋は金回りのよい豪商である。その影響力で妙の消息もうやむやにできたのだ。利用する側ではなく利用される側というなら、もっと力のある誰かが後ろにいるのだろうか。


 聞いて良いことなのか迷いながら葛葉(くずは)が尋ねると、ちょうど四方(しかた)が戻ってきた。盆の上には湯気のたつカップが見える。


「閣下には珈琲をご用意しました。葛葉(くずは)殿はこちらを」


 温めたミルクを勧めながら、四方(しかた)が餡パンの入ったカゴを葛葉(くずは)の方へ寄せる。


「好物なのにあまり食べておられませんね。遠慮せずどうぞ」


「ありがとうございます」


 可畏(かい)の話に聞き入っていて、まだ餡パンを半分ほど食べただけだった。今も誰が三河屋を利用していたのか気になっている。


 葛葉(くずは)は餡パンを頬張りながら、話の続きが気になるという目で可畏(かい)を見た。よほど意欲が視線にこもっていたのか、可畏(かい)が頷いた。


「おまえが狙われていることも明らかになった。この際話しておこう」


「良いのですか? 閣下」


 四方(しかた)の様子では、どうやらそれは機密事項のようである。彼が飲み物をもって話を遮ったのも故意だった。


「彼女は部外者ではないからな。警戒できるならそれに越したことはない」


「たしかに」


 異論はないようで、四方(しかた)も頷くとすぐに元の席についた。


「豪商である三河屋の弱みを利用できるとすれば、財界につながりのある人物だ」


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