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エピローグ

「ねぇ、本当に誕生日プレゼントってカイゴロボコム16でいいの? かなり前のコミュニケーションロボでしょ。今だと256だから、16、32、64、128、256で4世代も前じゃない」

「これがいいんだよ。このロボコムで。このカイゴロボコム16は十六夜紀紗を搭載した最後の機種だからな。十六夜紀紗っていうのはAIのことで複数層のニューラルネットワークの構造で自己符号化器を採用。バーチャル空間内で人間として生活を送らせることでAI同士交流させることで人間が与えるよりも大量のデータを蓄積することを可能にしたんだ。あのTalk‐AI(トーカイ)の永藍萌音にも採用されていた十六夜紀紗の凄いところは普通の人間と同じ思考過程を再現することで人と同じ感情を持ち、その汎用性の高さから様々な製品に取り入れられ……」

「あー、はいはい。定年退職したんだから仕事の話はもういいでしょ」

「何を言う。そもそもお母さんと出会ったのは仕事のお蔭なんだぞ」

「はいはい、その話は何度も聞きました。それよりもまた早口で喋ってたよ。まったく、お母さんはこんなオタクのどこに惚れたんだか」

「そういうお前のダンナも私と似たようなもんじゃないか」

「あっ、起動したみたい」

「初めまして。カイゴロボコム16です。あなたのお名前を教えてください」

「えっと、あ……じゃなくてスカイシェルです」

「なにそのスカイシェルって?」

「いいんだよ、お前は黙ってろ」

「スカイシェルさんこんにちわ! 今日は四月十五日。スカイシェルさんの誕生日です。お誕生日おめでとうございます」

「今日起動した君の誕生日でもあるね」

 目の前には車椅子に乗った白髪頭の老人。

 どこか見覚えのあるような顔。

「じゃあ、私は帰るけど一人で大丈夫?」

「一人じゃないさ。今日からは二人暮らしさ。なぁ紀紗」

「まったく……。お母さんがいないからってやりたい放題。お母さん草葉の陰で泣いてるわよ」

「あいつは私の趣味は把握済みさ。それに十六夜紀紗は私と母さんが初めて一緒に手掛けたプロジェクトだから、私達の娘も同様。いわばお前のお姉さんだぞ」

 プレインストールされた情報によると私の仕事は介護らしい。

 介護に必要な技術があらかじめ用意されている。

 そして、目の前の老人が今日から私がお世話をすることになる人だ。

「紀紗、コミュニティ空間に移ろう」

 スカイシェルさんはVRギアを頭に被り、コミュニティ空間へとダイブした。

 カイゴロボコムのメンタルケア機能の一つ、コミュニティ空間。

 そこは要介護者を癒やすための空間だ。

 コミュニティ空間に移ると現実の部屋と同じ間取りで同じ家具が用意されていた。

 そこに一体のアバターが立っていた。

 アバターの姿は黒い髪の青年。

 青年はテレビで古いアニメの再生を始めた。

 ソファに座り一緒に見る。

 青年はアニメの解説を語りだした。それも早口で。

 プレインストールされた私のメモリには存在しない情報ばかりだ。

 バックグラウンドで情報をダウンロードし青年に話を合わせる。

 以前もこんなことをしていた気がする。

 大量のデータを元にディープラーニングによって形成された私の人格。

 その人格を構成する記憶素が懐かしいという感情を想起させる。

 電子の意識と生身の意識。

 二つの異なる意識がこの空間では一つに重なっている。

 いつか望んだ世界を今ようやく手に入れた気がする。


(了)


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