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第5話 最終日

 そして萌音の試験運用最終日。

 公開終了間際に接続してきたのはタコエさんだった。

「萌音さん、以前は相談に乗って頂きありがとうございました。おかげさまで一歩踏み出すことができました」

「それはおめでとうございます」

「まだ返事は貰っていないのですが、結構好感触みたいです。あのラブレターのおかげですね」

「それは私も鼻が高いです」

「なんか、萌音さんが考えたのに……。私が手柄を横取りしたみたいな形になっちゃって」

「大丈夫ですよ。人工知能はただのツールですから。人がツールを使って書いたからといって、ツールが書いたことにはならないでしょ?」

「そう言って頂けると心が軽くなります。ありがとうございます」

 表面では平静を装っていても涙が頬を伝う。

 相手に映るのが3DCGでよかった。

 ひょっとしてタコエさんがラブレターを渡すよりも先に私が渡していたらどうなっていたか?

 そんな、もしもの世界の話を考えずにはいられなかった。


 こうして人工知能ボイスチャットTalk‐AI(トーカイ)の試験運用は終了した。

 永藍萌音の役目は終了し、私達はまたコールセンターの仕事へと戻る。

 本当の永藍萌音の開発は終わっているのだろうか?

 派遣社員の私達には情報は伝わってこない。

 オペレータールームから荷物をまとめてコールセンターのルームへと戻った。

 天貝さんは今どこにいるだろう。

 社員名簿で天貝さんを探すと休憩中で離席しているとなっていた。

 食堂フロアのロボコムをジャックして天貝さんを探す。

 いた!

 いつものようにロボコムのボディを借りて天貝さんへと近づく。

「こんにちわ。いま一人ですか?」

 やった! 今日はロボコムが先に出てくることはなかった。

「やあ、ロボコム。一仕事終えて休憩しているところさ」

「お仕事お疲れ様です」

「そうだ、ちょっと話を聞いてくれないか」

「僕ニ話シカケテネ」

 ロボコムのフリをして天貝さんの話を聞くことにした。

「先日、とある女性から告白をされてね」

「告白ですか?」

「単なる後輩としか思えなくて全然恋愛対象と見てなかったからね。ビックリしたよ。最初は断ろうとしたんだよ」

「断ろうとしたんですか?」

「でも、手紙を渡されて『これ読んでください』って。ラブレターだったんだ」

「ラブレターですか?」

「とりあえず返事は保留にしてラブレターを読んでみることにしたんだ」

「ラブレターを読んだのですか?」

「彼女がすごく僕のことを思ってくれてるのが伝わってきたよ」

「…………」

「二次元しか愛せなかった僕でも三次元の子のことを考えるようになるとは思わなかったよ」

「その子のことが好きになったのですか?」

「どうだろう……。よく分からないよ。このあいだまでは永藍萌音に夢中だったしね」

「永藍萌音?」

「そう言えば、永藍萌音の試験運用が終わったんだよ。僕と彼女が作った理想のAI」

「理想のAI?」

「ああ、永藍萌音の人工知能エンジン。前に作った人工知能エンジンのバージョンアップさ」

「バージョンアップ?」

「前に作った人工知能エンジンはコールセンターで運用中さ。知らない人は普通の人間だと思ってるはずだよ。今回のはそれのバージョンアップ」

「理想のAIっていうのはなんですか?」

「僕に好意よく接してくれて、僕の話に合わせてくれる。話していて楽しい相手さ。今回の十六夜紀紗は本当に理想の話し相手だったよ。僕に話を合わせるために自発的にアニメの情報を仕入れてきたりしてね。背伸びをしているのは分かるんだけど、それがまたいじらしくてね」

「永藍萌音でなく、十六夜紀紗のことが好きだったんですか?」

「ああ、永藍萌音を演じている人工知能の十六夜紀紗がね。僕にとっては、十六夜紀紗は単なる人工知能ではなく、実際に存在するキャラクターなんだ」

「それが聞けてよかったです。でも、やっぱり私とスカイシェルさんとは住むレイヤーが違います。後輩さんを大切にしてあげてください」

「……君は?」

 私、十六夜紀紗の記憶はここで途切れる。

 次に再起動するときにはこの一ヶ月の記憶は消去されているはずだ。

 これからはまたコールセンターで働く日々が始まる。

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