第3話 恋のお悩み相談
次の相手は珍しく会社の製品についての質問だった。
本来ならコールセンターにかけるべきなのだが、こちらの方へとかかってきた。
これはコールセンターのいつもの仕事と同じでテキパキと対応した。
コールセンターでは過去のお客様からの質問をまとめたナレッジベースというデータがある。お客様からの質問をキーにナレッジベースから検索すればどう答えればいいかがすぐ出てくる。
コールセンターのナレッジベースは会社の製品についてだけだが、今回のTalk‐AIでは、それを発展させて色々な分野の知識をナレッジベースに登録している。
永藍萌音を演じるときは知らない知識を検索するのに新しいナレッジベースが活躍している。
永藍萌音の中の人がコールセンターから集められたというのは、お客様と話をすることに慣れているというのが大きいが、ナレッジベースをよく使い、検索のコツも分かっているというのもあると思う。
でも今日の質問はナレッジベースには存在しなかった。
質問の内容は――ロボコムはどうして3が無いのですか――だ。
【ロボコム】というのはこの会社の製品でコミュニケーションロボのことだ。
人の話を聞き取って会話もどきをするロボット。
初代のロボコムは聞いた言葉を返すのがメインの機能で、人工知能ならぬ人工無能。
もちろんただ聞き返すだけでは会話にならないので会話の元になるような情報も仕込まれている。
バージョンアップしたロボコム2では更にキーワードを元にネットから情報を収集してきたりするようになった。
その次のバージョンアップではロボコム4になった。
3が抜けている。
言われてみれば確かに。
ナレッジベースにない情報で、電子化されたマニュアルを検索しても答えは出てこなかった。
分かりませんと答えるか、適当にでっち上げた自分の見解を出すか?
その時、ふっと頭をよぎったのは来春発表予定の新製品ロボコム8のことだった。
1、2、4、8……。
倍々に増えている。
これが答えか!
確かにこの会社製品はテレビなんかでも4の次は8だったりする。
正式なソースは見当たらなかったので萌音ロングの見解としてナンバリングは倍々に増えていくという趣旨の回答をした。
その次の相手は女性だった。
タコエと名乗るその女性との会話はお悩み相談だった。
「実は好きな人がいるんです」
「どんな人ですか?」
「同じ職場の男性なんです。私、入社2年目なんです。去年、新人研修が終わって配属されたのが今の職場で、同じプロジェクトの先輩と一緒に仕事をしているうちに好きになってしまって」
「羨ましいです。私も恋がしたいです」
「私、学生時代は勉強ばかりで男性とお付き合いしたことがなくって……。それどころか、同性の友達もいなくて恋愛相談出来る相手もいなくって……」
「私でよければいくらでも相談に乗りますよ」
「この想いを伝えるのにどうしたらいいか分からなくって。告白しようにも口べたでうまく喋れないし」
「ラブレターなんかどうですか?」
「ラ、ラブレターですか!? 私、理系の人間なので文学的なものは苦手で」
「では、私がいい文面を考えてみます」
そう言って私は、いつかスカイシェルさんにラブレターを渡すことにしたときのために考えていた文面を伝えた」
「……と、こんな感じでいかがでしょう?」
「素晴らしい! 感動しました。こんな短時間でどうやって書いたんです?」
「古今東西のラブレターを解析して人に響く文面を抽出して再構築しました」
もちろんこの瞬間に行ったわけではなく、家に帰ったときに考えたものなんですけどね。
書き方について嘘はついてないし。
「これ使ってもいいんですか?」
「もちろんOKです。でも、細部は相手に合わせてアレンジしてくださいね」
「ありがとうございます。相談に乗って頂いて助かりました」
うん、人の恋路を応援するのは気分がいいな。
今日はスカイシェルさんの声も聞けたし、私も自分の恋愛がんばろっと!
「恋愛相談なら私にお任せ」
萌音ポニーのコマキさん。コマキさんは結婚して一児の母である。
「旦那と付き合う前は帰るときに偶然一緒になったり、偶然同じ係になったりして、『ああこの人が運命の人なんだ』って思ったもんだよ」
「わぁ、運命の人……」
「でもそれは幻想」
「えっ!?」
「この世に偶然というのはないの。付き合いだして色々話せるようになってから暴露したのが、あれは偶然を装った必然だったってこと。何度か顔を合わせるようにするための旦那の計画だったの」
「それじゃあ幻滅したんじゃ……」
「そんなことはないよ。旦那のこと好きになってたしね。幻想も本人が気づかなければリアルってことだよ」
「そうなんですね……」
「つ・ま・り、待っていてもラッキーは転がってこないってこと。自分から動かないとね」
いいことを聞いた。さすが人生の先輩。
萌音ツインのスズカさんもメモを取っている。
萌音ソバージュのカニエさんは、それくらいするでしょという顔をしている。
とにかく、永藍萌音のままでは自分をアピールすることはできない。
なんとかして、個人的にスカイシェルさん、いや天貝さんに接触する方法を考えなければ。