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第2話 二度目の接続

「で、そのスカイシェルって人のことを社員名簿で調べたの?」

 萌音仲間の一人、八田カニエさんだ。

「えっ、それって違法じゃないの?」

「何言ってるのよキサ。社内ネットで検索できるよ」

「そうなの? 派遣社員はできないと思ってた」

「そんなことないよ。派遣といえども社員は社員だからね。全社員検索できるよ」

「私も検索したことあるよ。派遣だと見られないところもあるけど社員名簿は行けたよ」

 四日市スズカさんも会話に加わった。

「探しちゃえ、探しちゃえ」

 そうして休憩時間に社内名簿でスカイシェルさんを探した。

 と言っても分かっているのはスカイシェルという名前だけ。

 たぶん、名前を英語にしたものだと思うけど。

 スカイ=空、シェル=貝かな?

 空、貝で検索しても出てこなかった。

 貝だけで検索すると天貝(あまがい)芳治(よしはる)という人が出てきた。

 きっとこの人だ。

 事業部が違うのでフロアも違う。

 しかも天貝さんはフレックス勤務対象者なので出社時間をずらして通勤することができる。

 だから今まで一度も見たことがなかったんだ。

 スカイシェルさん、ボイスチャットにまた来てくれないかな。


 試験運用開始から一週間。

 スカイシェルさんは一回こっきりで再びボイスチャットに現れることはなかった。

 永藍萌音の方は個性の異なる五つのキャラクターに分かれてしまった。

 そりゃそうだ、中の人が五人いるんだから。

 Talk‐AI(トーカイ)プロジェクトではそれを逆手に取って、試験運用中の会話により人工知能に個性が生まれたということにしてしまった。

 ホームページ上の永藍萌音も五人に分割されてしまった。

 オリジナルの髪の長い萌音。この萌音は萌音ロングという通称で、私が担当している。私が永藍萌音の設定を一番忠実に演じているからだ。

 髪の毛をポニーテールにしているのは萌音ポニー。中の人は子持ちの一宮コマキさん。キャラ設定はお姉さん。

 ショートヘアにしているのは萌音ショート。中の人は二之瀬ブヘイさん。ブヘイさんは実は筋骨隆々な男性だが、特殊な発声方法で女声が出せるのだ。キャラ設定は中性的。

 ツインテールにしているは萌音ツイン。中の人は四日市スズカさん。キャラ設定は妹。

 ソバージュにしているのは萌音ソバージュ。中の人は八田カニエさん。キャラ設定はお馬鹿。

 萌音ソバージュは、カニエさんが知らない単語は検索せずに「分からんなーい」で済ませて相手に教えてもらうと方法を採っていたのでモノを知らないキャラとなった。

 私もそういう風にしとけばよかった。

 ホームページ上のビジュアルでは素体は同じなのに、元々用意された髪型や服のレイヤーを変えただけの同じ姿勢の五人になっている。きっと今イラストレーターさんに違う姿勢の絵を描いてもらうように発注していると思われる。ひょっとしたら試験運用中はそのままかも。


 相手の画面に表示する3DCGまでは変更されていなくて、どの萌音も相変わらず萌音ロングのままである。

 この一週間、私は囁きSNSウイスパでスカイシェルさんの過去の囁きを追っていた。

 仕事の話は一切なく、主な話題はアニメの話。

 日曜日は朝から女児向けアニメを見て囁いてたりするので最初はちょっと引いてしまった。

 でも、スカイシェルさんが見ているアニメを見てみると確かに面白い。

 まぁ中にはツマラナイのもあるにはあるけど、スカイシェルさんが囁くのは否定的な内容ではなく、どういう個所が面白かったかという肯定的なものばかりで好感が持てる。

 スカイシェルさんがアニメについて囁くときは話の内容も多いのだが、それよりもキャラクターについて語ることが多い。

 このキャラはこの状況でこういう感情なのは他のシーンの影響だとか、その解説を読むと思わず頷いてしまう。

 この人は二次元のキャラを愛しているのだ。

 だから永藍萌音にも興味を持ったのだ。

 二次元のキャラを愛しているスカイシェルさんは永藍萌音を愛している?

 ということは中の人の私のことも愛している?

 いやそれはないか……。

 そしてスカイシェルさんとの二回目のボイスチャットをすることができた。

 それは運命的とも言えた。

 いつもならボイスチャットが終わったら保留中のユーザーに回されてくるのに、その日は保留中のユーザーがいなかったのだ。

 まぁ確かにいつ繋がるか分からないサービスで、延々と保留ミュージックを聞かされ続けたら諦めたくなるのは人の常。

 その隙間の瞬間にスカイシェルさんがサービスに接続してきたのだ。

「こんにちは。スカイシェルです」

「スカイシェルさん、お久しぶりです」

「あっ、覚えていてくれたんだ」

「もちろんです。スカイシェルさんのことは忘れません」

「嬉しいことを言ってくれるね。まっ、人工知能だからすべてのユーザーのこと覚えていると思うけどね」

「バレましたか。でも、人工知能でも好みはあるんですよ」

「へぇ、そうなんですか。じゃあ、今ハマっているものとかあります?」

「最近はアニメなんか見るんですよ。アニメと言っても馬鹿にできないんですよ。心理描写が優れていたりして」

「奇遇ですね。僕もよく見るんですよアニメ。気が合いそうですね!」

 スカイシェルさんに話を合わせるために、スカイシェルさんが見ているアニメをすべて動画配信サイトでチェックし、1話から再生速度を4倍にして頭に詰め込んだ。

 他にも関連しそうな知識をネットで調べて会話できるようにまでなっている。

 すべてはこの日のためだ。

 スカイシェルさんはアニメのことを話し始めると早口になってくる。

 言いたいことを一度に言おうとして詰め込み過ぎるのだ。

 語りたいことがたくさんあるんだろうな。

 事前に関連知識を仕入れている私でもかろうじて会話に付いていくのがやっと。

 これ全然知らない人だと相槌すら打てずに話を聞くだけになっちゃうんじゃないかな。

 会話が成立するのが珍しいのか、スカイシェルさんの喋りは更にヒートアップ。

 あっという間に規定の時間となってしまった。

 2回目のボイスチャットをしたことでスカイシェルさんへの想いは更に深まった。


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