更なる高みへ!
いや~、色々と忙しいですね~……
少し休みが欲しい……
試合が終わって2週間の休暇を取った将士。ゆっくりとして欲しい所なのだが、本人はどうしても落ち着かないらしい。
「あの~……軽く動いても……」
突然ジムに顔を出し、こんな事を将士は言っている。
「ダメだって言ってんだろ?諦めて休め!」
「しつけぇと、手塚のお守りさせるぞ?」
「おい!おかしいだろ?」
「いや、嫌な事としては至極当然!」
「な~に勝ち誇った顔してんだよ?」
「いやなに、俺は常識人だと思ってな」
喜多と手塚のやり取りは別として、将士の練習は解禁とはならない様である。
休暇中の将士、しれっと西田拳闘会に顔を出した。
「将士君、どうしたの?」
「いや~……少し環境を変えて身体を動かそうと思って……」
「そう、珍しいね?」
「隆明、騙されるなよ」
「叔父さん、どうしたの?」
「篠原さんから連絡有ったよ。練習解禁出来ないから、そっちに行くと思うよってね」
「うぐっ……流石は篠原会長……」
「中台、休む事もボクサーとしての仕事だ。強くなる為、しっかりと休め」
「……分かりました、そうします」
将士は帰ろうとしたのだが、
「何だ?俺の所に移籍したいのか?喜多と手塚じゃ無能だもんな!篠原さんだけじゃ、やっぱり心もとないか?」
「……出たよ、うちの1番の問題児……」
「叔父さん、あの人は追放がいいよ」
「確かにな……中台はどう思う?」
「僕は……意外に、あの人が居るから今が有る様に思うんだけどな~……」
「お?中台は分かってるね~!それに引き換えこの2人は……」
「おう?文句有るのか?馬鹿?」
「叔父さん」
「本当の事言って何が悪い?こいつのせいでだな、どれだけ迷惑が……」
「……徳井さん、いつになく荒れてるね?」
「実はさ……空手に負けない様にって言って、100人組手ならぬ100人スパーリングをやったんだよ……」
「おう!なかなか面白かっただろ?」
「馬鹿!何処が面白いんだ?」
「……何が有ったの?」
「日本チャンピオンから世界チャンピオンクラスまでズラリ……100人目はヘビー級の世界チャンプを用意しちゃって……」
「甲斐さんが対象だよね?」
「勿論……最後は酷い物さ……もうボロボロ……」
「ダウンしなかったとはいえ、結構押し込められてる時が有ったし……甲斐もまだまだだし、徳井の指導も甘い事が分かったな?」
「馬鹿、脳ミソ詰め込んで来い!どうしてあれで、最後まで続くと思ってんだよ?普通なら、1ヵ月は安静だ!」
「で、甲斐さんは?」
「納得いかないらしく、佐伯さんと山合宿中……」
「……意外に甲斐さんも、西田さんと変わらないんじゃない?」
「それは一理有るかも……」
西田拳闘会、色々と話題には困らないみたいである。
結局練習の出来ない将士、そのまま街に繰り出した。とはいえ、やる事は無い。ただぶらつく感じである。
「おう、将士」
「あれ?哲男君?」
街中でタイトルマッチをやった2人が出くわす。
「どうしたんだ?」
「やる事無くて……練習禁止されちゃって……」
「何だよ、お前もか?俺も禁止」
「そうなんだ……ご飯でも食べてく?」
「折角だし、そうだな」
将士と哲男は近くのラーメン屋に寄る事にした。
テーブルに座り向かい合う形になる。頼んだラーメンはすぐに来る。
「しかし、引き分けとはな~……」
「何?哲男君はチャンピオンベルト有るでしょ?僕なんて、ダメージしか残ってないんだからね」
「それは、将士が弱いからしょうがない」
「負けてないからね!僕が弱いなら哲男君だって!」
「……そうかもな。まだまだだよな、俺達」
「そうだね。まだまだ、色々と未熟だね」
「……試合の後、あの声……」
「天川会長だよね。多分、見てたんだよね」
「やっぱりそうか。だとしたら……」
「きっと、これで満足したら怒られそうだよね?」
「……スパーリングに付き合わされたりしてな?」
「有り得るね!」
「だろ?」
2人は笑いながら、ラーメンを食べた。
食事が終わった2人、近くの公園のベンチに座った。
「なぁ将士、世界チャンピオンから見たら、俺達はどうなのかな?」
「……どうだろ?現役なら甲斐さんだけだし、甲斐さんは自分の事でいっぱいだろうし……」
「元世界チャンプからなら、文句しか言われねぇけどな」
「カレー屋のおっさんからなら、訳の分からない事を言われるよ」
「あ~、確かにな……あの人、何で会長出来るんだろ?」
「周りが優秀なんじゃないの?」
「確かに優秀だけど、それだけじゃ……」
「天川会長は、運だけはいいって言ってたね」
「……運は強そうだな~」
「それより、元世界チャンプからダメ出しされるなら、きっと現役からはもっと厳しい事を言われるよ」
「だな!まだまだ、しっかりとやらないとな?」
「本当に!頑張ろう!」
「おう、しっかり頑張って、次はお前をKOだ!」
「そっくりそのままお返しするよ!」
「今度は……」
「もっと上の場所で……」
2人は立ち上がると、強く握手をした。
「約束は守れよ」
「勿論だよ!」
「天川会長に……」
「僕達の成長した姿を届け続ける!」
「目指すぞ!」
「世界チャンピオン!」
熱くなった2人、そのまま右拳を少し強くぶつけて別れた。
この日、2人は世界という言葉を出した。生半可な気持ちでは出せない言葉である。その言葉を出したという事は、それだけ意味が有る。直接拳を交えた2人、しかし、まだまだボクサーとしての完成は先の様である。
若い2人は、まだまだこれから!