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変われる拳!  作者: 澤田慶次
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将士のスパーリング!

そろそろ、喜多と手塚の出張も終わりです。

手塚が天川ジムに来て早くも最終日となった。勿論、喜多も天川ジムでの最終日となっている。この期間、手塚は喜多と一緒に将士と哲男と朝のロードワークを行っていた。朝からなかなか厳しい物になっていた。

「いや~、朝からご飯が旨い!」

「うるせぇぞ、お前の口には旨いか凄く旨いかしかねぇだろ?……しかし、将士のお母さんの料理は本当に旨いな~!」

「2人共、そんなに褒めないでよ」

「いや、本当に美味しいですよ!中台が羨ましいな~!」

「菅原君は、お弁当も食べてるでしょ?」

「そうだけどさ~……土日は弁当無いし、夕飯は毎日という訳にはいかないしさ……」

「あら、菅原君さえ良ければ、いつでも夕飯どうぞ?」

「本当ですか?」

「ダメに決まってるだろ?なぁ、喜多?」

「おう、ダメだ!」

「どうしてですか?」

「「弱ぇから!」」

「ぐはっ……」

「……息ピッタリ……」

「将士、大変だね」

朝のロードワークの後の食事も、意外に大変そうである。

ここで、将士と哲男の変化を少し伝えておきたい。喜多とロードワークを始めたばかりの頃、何とか走り切る事が出来た状態だった。それこそ、学校に遅刻ぎりぎりという感じである。

しかし今の2人は、シャワーを浴びて着替えて朝食を食べて、楽しそうに話ながら学校に向かっている。[継続は力なり]という言葉がピッタリと当て嵌まりそうである。


将士と哲男の学校生活も変わって来ていた。

将士が明るくなった事は何となく分かるのだが、哲男も同様に明るくなっていた。2人はお互いに友達となり、学校生活が楽しくなっている様である。しかも、放課後は一緒に天川ジムで練習である。休み時間も一緒におり、本当に仲が良いと感じる。更に2人の変化として、昼休みは弁当を食べると2人でボクシングの研究をしている。研究といっても、お互いにファイティングポーズを取りながらどうステップインするかとか、パンチをどう返すか等を話しながらゆっくりと動いている程度である。それでも、2人には大切な時間の様である。

学校生活はこの2人以外にも変わった事がある。将士と哲男に普通に話し掛ける者が出て来た事である。

将士については、元々穏やかな性格の為に絡まれる事がなくなった事でクラスメートから声を掛けられる事は時間の問題であったと思われるのだが、哲男が将士と関わる様になってから哲男の表情が柔らかくなった事も事実である。その柔らかい表情が離れていたクラスメート達の距離を縮めていった。2人は、普通に学校生活を楽しめる様になったのかもしれない。

それでも2人は、休み時間は一緒におり、毎回ボクシングの話をしている。本当にボクシングが好きな2人の様である。


放課後、将士と哲男はいつも通りに天川ジムに走って向かった。

「「お願いしま~す!」」

「やぁ、今日も早いね!」

「おう、よろしくな!」

「気合い入れるぞ?」

「「はい!」」

将士と哲男は着替える。

「よし、2人でロード行って来い。コースはいつも通りだ」

「喜多、アップ付き合え!」

「本当に馬鹿だな?俺もアップするんだよ」

「ほらほら、2人はロード行って!」

「「は、はい……」」

将士と哲男は天川会長に急かされ、少し困惑しながらロードワークに出て行った。

しっかりと汗を掻いて戻って来た将士と哲男、

「よし、2人はアップしろ!」

「将士は喜多、哲男は俺とスパーリングだ!」

「「……はい、準備します!」」

将士と哲男はすぐに着替え、スパーリングの準備をする。天川会長は、この状況を笑顔で見ていた。

最初は哲男と手塚のスパーリングである。哲男のボクシングはアウトもインもそつなくこなす万能タイプ、ファイタータイプの手塚とのスパーリングは少し楽しみではある。

しかし、結果は予想通りである。駆け出しの哲男と元世界チャンピオンの手塚、普通に考えれば哲男に分は無い。スパーリング結果も言わずもがなである。徹底的に手塚に殴られた哲男、唯一の救いはKOされなかった事くらいである。

「将士、哲男であれだぞ?……本当に俺とやるのか?」

「勿論ですよ!やります!」

「……普通はびびるんだがな~……まぁ、そうじゃないと困るんだけどな!……よし、リングに上がれ!」

「はい!」

将士と喜多はリングに上がった。


将士と喜多のスパーリング…………

将士はガードを上げ、頭を振りながら喜多に向かって行く。勿論左ジャブも放ち、自分から先に手を出している。少なくとも、将士の心の成長が見て取れる。更に付け加えるなら、頭を振る動きがスムーズである。余程空いた時間で練習したのだろう、なかなか様になっている。

一方の喜多だが、こちらはいつも通りである。しっかりと距離を取り、左ジャブから試合を組み立てている。動きも華麗であり、将士は何処まで持つかと誰もが考えていた。

このスパーリングだが、見ている者の予想通りの展開となっていた。喜多の左ジャブを何とかしようと将士は頭を振るのだが、喜多はこれを意に返さずに左ジャブを的確にヒットさせる。喜多にとっては、多少の幻惑は苦にもならない様である。

それでもパンチを放ち何とか喰い下がる将士なのだが、相手が悪過ぎる。元世界チャンピオンであり、現在も練習をこなしている喜多である。1ラウンド中盤から、将士はタイミングの良い喜多の右ストレートも何発も貰い、喜多にいい様に打ち込まれた。


インターバルに入ると、

「おい、ボクシング教えるのはいいけど、少しは手加減しろよ」

手塚に声を掛けられた喜多だが、一瞬手塚を睨むとすぐに目線を将士の方に向けた。

「何だよ?」

手塚は不満そうである。

一方の天川会長だが、こちらは将士に声を掛けた。

「大丈夫かい?」

2·3度頷く将士、

「思い切り…いいね?」

「ふぁい!」

マウスピースを着けたまま、将士は大きく返事をした。

この時、将士の事で気付いたのは2人しか居なかった。あれだけ喜多のパンチを貰い元気に返事が出来ている事、普通に考えると不思議である。天川会長は[あれ?]と感じており、実際にスパーリングをしている喜多の表情は厳しくなっていた。勿論、気付いているのはこの2人である。


2ラウンドが始まると、喜多はギアを1つ上げた。物凄いスピードであり、左のブローの切れも凄い。これだけで相手をKO出来そうである。

対する将士だが、こちらは1ラウンドと変わらない。ガードを上げ左ジャブを放ちながら、頭を振って前に出て行く。喜多と対峙してそれでも前に出て行く。素晴らしいスピリットである。

それでもスパーリングの流れは変わらない。喜多の的確なパンチを何度も将士は貰い、時にカウンターで喜多の右ストレートを貰う。喜多のペースは揺るぎ無い。確かに揺るぎ無いのだが、少しおかしな事になっている。流石に手塚も気付いた様である。

「どうしてだ?……何で……」

手塚は呟くが、周りは分かっていない。

手塚が呟くのと同時に、喜多は更にギアを上げる。厳しいパンチを何発も将士に入れ、スピードで翻弄していく。ここまで来ると、喜多に追い付ける選手は殆ど居ないのではないかとも感じる。

蜂の巣の様になっている将士に見えるが、しっかりとパンチを返していた。勿論当たる事は無いのだが、それでも将士はパンチを返している。ここまで来ると異様である。

それでも喜多である。特に顔色を変える訳でもなく、将士にしっかりとパンチを当てて行く。伊達に元世界チャンピオンではない。

2ラウンドも2分を過ぎた頃、喜多は踏み込んで左ジャブを放った。これを将士は喜多から見て左側に避けた。喜多は続けて右ストレートを放つ。高速のワン·ツーである。決まったと思われたが、将士はウィーピングでこのパンチを避けた。そのまま将士は反撃に移ったのだが、

(ボディか?…させるか!)

喜多はすぐに伸ばした右腕を曲げ、ボディを守った。次の瞬間、将士の左はスリークウォーターから喜多の顔面目掛けて放たれる。

(やった!)

将士が覚えているのはここまでである。

喜多はこの将士のパンチを首を捻っていなし、そのまま右アッパーを将士に喰らわせた。

「うわぁ……ご愁傷様……」

手塚は呟いていた。

「やり過ぎだよ、喜多君!」

「中台、大丈夫か?」

天川会長と哲男がリングに上がり、将士のマウスピースとヘッドギア等を外しリングの外に出した。

「やられたな、ムキになりやがって」

「うるせぇ、しょうかねぇだろ!」

手塚に言われ、喜多は少しムカついている様である。

なかなかなスパーリングを見せた将士、少しこの先が楽しみになって来ました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすが一切手を抜かない喜多さん。 池本さんの教えが生きていますね!
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