強引な一撃!?
まだまだ続きます!
……そして、私の仕事もまだまだ続きます……最近、より一層忙しい……
4ラウンド……
リング中央でグローブをぶつけると、先に仕掛けたのは将士である。先程のラウンドのダメージが無いかの様に、自分から前に出て攻撃を仕掛けていく。
対する哲男だが、距離を計る様に丁寧に左ジャブを放ち、さながら闘牛士の様に将士の攻撃を交わしていく。
実際には、将士にはダメージは残っている。端から見ると元気に見えるが、将士は哲男にプレッシャーを掛ける為に攻めている。その証拠に、将士の攻撃は単調であり、哲男はその時々でカウンターを合わせている。
それでも将士は止まらない。自分の事を良く分かっている。この戦い方が通じなければ、将士にはもう何も無い。将士は必死に歯を食い縛って抵抗していく。
試合は少し奇妙な展開となる。有効打は哲男の方が上である。明らかに哲男優勢なのだが、試合を押しているのは将士である。打たれてなお、前に出る。ガード越しでパンチを防がれているが、続けて攻撃を仕掛ける。
哲男はしっかりと足を使い、将士の攻撃を丁寧に処理していく。対峙している哲男には、将士の攻撃はそれだけ警戒する必要が有るとの事だろう。
このまま試合は膠着し、哲男が有効打を当てていくのだが、押していくのは将士という構図のままラウンドは終了となった。
赤コーナー……
「強いな?気持ちも含めて?」
「ええ、最高にやりますよ」
「しかし……」
「勝つのはこっちです!」
石谷トレーナーと哲男の会話に、川上会長はご機嫌の様である。
青コーナー……
「やられてるな?」
「ボッコボコだな?」
「……嬉しそうですね?」
「「んな事ねぇって!!」」
「……中台君、池本君は覚えてる?」
「……忘れ方が分かりません」
「なら、彼の様にだね。ビデオでも見ただろ?」
「……頑張ります」
篠原会長が珍しくアドバイスを送った。試合にどう影響するかである。
5ラウンド……
このラウンドも4ラウンドと変わりはない。グローブを合わせてすぐ、将士は哲男を追い掛けていく。パンチを振るい、歯を食い縛り、前に前に出ていく。
一方の哲男だが、こちらはしっかりと足を使い、将士と極力打ち合わない様に外から射ぬいていく。こうなると、哲男のペースと言わざるを得ない。
このまま哲男が試合をコントロールするかと思われた1分過ぎ、試合は大きく動き出す。
哲男が右のカウンターを出したのだが、このパンチを将士は首から上に力を入れ、おでこで受けた。何度もパンチを受け、タイミングを覚えたのだろう。ドンピシャでパンチをおでこで受けていた。
力が入った状況でおでこにパンチを当てると、暫くは打った方の手が痺れる。場合によっては骨折もある。更に、出したパンチは跳ね返る形になり、出した方に隙が生じる。
瞬間、将士は一気に前に出て行く。駆け引きも何もない。純粋に前に出ていき、自分の武器を振り回していく。
対する哲男だが、すぐに反撃は無理と判断し、丁寧にブロックしてからバックステップを踏んだ。しかし、これがコーナーに詰まる。将士はここまで考えていたのかと思う程、哲男の足が殺される場所に哲男は立たされていた。
将士は更に攻撃を仕掛け、ガードの上でもお構い無しに哲男を叩いていく。それでも哲男のガードは固いのだが、そんなガードを将士は右のアッパーでこじ開けた。ガードが割れた哲男に対し、将士はそのままスリークォーターからの左アッパーを放った。スマッシュである。
このスマッシュを防ぐのは無理と思った哲男、首を捻っていなしたのだが、将士はここに右のパンチをコンパクトに被せた。戻って来た哲男の首に、この上ないタイミングで将士のパンチがヒットする。
腰が少し落ちた哲男、将士は攻撃の手を辞めない。このまま将士が押し切るかと思われた時にレフェリーが試合を止めた。ラウンド終了のゴングが鳴っている。
お互いに視線を一瞬合わせ、各コーナーに戻って行った。
赤コーナー……
「やられたな?」
「……クソッ!」
「哲男、時には強引な1発も必要なんだ」
「学んで来い学んで来い。この試合の後、お前は必ず強くなってる!だから、しっかり学んで来い!」
「学んで来ますけど、勝つのは俺です!」
川上会長の言葉に、哲男はしっかりと返した。
青コーナー……
「少しは分かって来たね?」
「はい!そして、ここからという事も!」
「うん、それでいい」
「「……俺達を置いて行かないで下さいよ~」
「君達は、もう少し勉強ね」
篠原会長の考えを将士はしっかりと受け止めている。喜多と手塚はもう少し勉強して欲しい所である。
6ラウンド……
リング中央でグローブを合わせると、一定の距離で2人は睨み合い、動きを止めていた。2人の目が、今までよりも一層輝いている。
2人の考えている事は酷似している。
将士は哲男に1撃を返したとはいえ、かなりのパンチを貰っている。自分のペースで試合が出来ていない。内心、かなりヒートアップしている筈である。
対する哲男だが、こちらはコツコツと当てたダメージをほぼ1発でチャラにされたのである。穏やかである筈がない。
睨み合いが数秒続くと、すぐに2人は動き出す。
将士は先程よりも前に出るスピードが速い。持てる力が続く限り、徹底的に哲男を追い掛けるつもりらしい。
対する哲男だが、こちらのスピードも上がっている。更には、先程のラウンドよりも将士との距離が若干だが近い。哲男も勝負に来ている。
ダメージの有る中、2人はお互いの全てをぶつけている。今まで練習や試合で学んだ事、格上のボクサー達とのスパーリングから得た物、もしかすると、2人が出会って感じた物をもぶつけているのかもしれない。
将士の拳には、明らかに向上心という魂が宿っている。試合の中でも成長し、上へ上へと進んでいる。
一方の哲男だが、こちらはプライドという魂が宿っている。ボクシングでは誰にも負けない。例えそれが親友であったとしても、ここだけは譲れない。その気持ちが哲男を成長させている。
お互いがその拳に自分の中で1番固い物を宿し、その拳を交錯させていく。将士と哲男の左フックがお互いを捉えた時、6ラウンド終了のゴングが鳴った。
赤コーナー……
「気持ちで負けるなよ?」
「言われなくても!」
石谷トレーナーの言葉に哲男は答えたのたが、その目は更に輝きを増している。
川上会長は哲男の成長を確かに感じていた。
青コーナー……
「激しくなって来たけど、勝つのはこっちだからね」
「勿論です!」
「珍しく、篠原会長が燃えてるな?」
「本当に!」
「君達、しっかりサポート!」
「「はい!」」
少しお茶らけている様に見えるが、将士の目の輝きも増している。篠原会長も将士の成長を感じている様である。
熱くなって来ました!!
……私の仕事の情熱は……言わないでおこう……気持ちが萎える……




