タイトルマッチへ!
将士と哲男のタイトルマッチ、遂に……
天川会長の訃報があったとはいえ、試合が延期となる訳ではない。その事は将士と哲男が1番良く分かっている。天川会長に成長した姿を見せる為、2人は毎日を自分に厳しくしていた。気合いも相当入っているらしく、2人揃ってスパーリングパートナーを圧倒している。仕上がりも順調の様である。
試合前といえば減量となるのだが、天川会長の一件が有って2人の集中力は凄い事になっている。減量を苦とも思わず、毎日を濃密に過ごしている。
2人共に、試合1週間前にはウェートをクリアしていた。この試合に賭ける並々ならぬ2人の思いが感じられる。最後の仕上げの1週間、2人共に準備万端といった感じで練習を終えた。
試合前日、本日は計量日である。将士は喜多と、哲男は石谷トレーナーと計量会場に向かった。会場の入り口で4人は顔を合わせる事となる。
「石谷トレーナー」
「おう、来たな?」
「勝たせて貰いますよ!」
「結果を見てから言った方がいい。口だけになるぞ?」
「心配ご無用」
「いや、口だけになるな」
石谷トレーナーと喜多はすぐに言い合いを始めた。将士と哲男は視線を1度合わせると、すぐに視線を逸らして計量の場所に向かった。
「待てよ」
「慌てるな」
石谷トレーナーと喜多はすぐに後を追った。
計量となり、将士から登る。
「中台選手、リミットいっぱいクリア!」
続いて哲男、
「菅原選手、リミットいっぱいクリア!」
2人揃って計量は1発クリアである。そのまま記者会見が開かれた。着替えをしながら記者の質問に答える2人。
「2人は高校からの友達との事ですが、明日は遠慮しちゃうなんて……」
「失礼だな?親友相手に手を抜く程、俺は馬鹿じゃない」
「僕は哲男君だから、思いっ切りやれる!……最も、今までもやってたけど」
「ぬるい戦いをするつもりはない」
「哲男君には感謝してる。ボクシングを教えて貰って、更にタイトルマッチだし」
「必要ねぇな!ベルトの取り方は教えてねぇ!」
「大丈夫、そこは僕が勝手に学ぶから!」
2人の視線が激しくぶつかる。どちらも視線を逸らさない。既に戦いは始まっているという事だろう。
この状態を見て、記者達はこの戦いに期待した様である。
「お2人共、握手をお願いします!」
記者に言われた2人、
「あ、待ってて」
将士は後ろを向いて手をタオルで拭いて振り返る。
「……握手は辞めとく。馴れ合うつもりはない」
哲男は言い放つと、会場から出て行った。
将士喜多と一緒に会場から出て行き、そのまま食事を取る。
「将士、哲男は準備万端だな?」
「ポケットに入ってた手、硬く握られてたでしょうね」
「分かってればいいさ。こっちも万端だからな」
「はい、勿論です」
将士には、哲男の事が分かっているらしい。
食事が終わると、将士は喜多と別れて帰路に着いた。その際、明日の試合会場である後楽園ホールに立ち寄った。そこには、既に1人の人影が有った。
「やっぱり、哲男君も来てたね?」
「将士も来るだろうと思ったよ」
「天川会長の時以来だね?」
「いや、初めてさ」
「???」
「ボクサーとしての将士と向かい合うのは初めてさ!」
「確かに!僕達は同じジムだったもんね?」
「ああ……いつも思ってた……お前と戦ったら、どんな試合になるか……」
「僕も、哲男君と戦ってみたいと思ってた」
「どうやら、お互いが想ってたみたいだな?」
「その様だね」
「きっと、天川会長も……」
「思ってたと思うよ」
「だよな?……明日、必ず俺が勝つからな!」
「いや、勝つのは僕さ!」
「天川会長に届けるぞ」
「勿論!」
将士と哲男はがっちりと握手をした。2人の目は、いつも以上に輝いている。明日の試合が楽しみである。
この2人の様子を見ている者達が居た。
「川上会長、面白くなりそうですね?」
「篠原もそう思うか?」
川上会長と篠原会長である。
「2人がどれだけボクサーらしくなったのか。明日、分かるだろうな」
「ボクサーとして、どれだけの時間を過ごして来たのかが問われますね?」
「まぁ、哲男の圧勝だろうがな」
「いや、中台君のKO勝ちですね」
「哲男の成長を甘く見るなよ?」
「その言葉、リボンでも付けて返しましょうか?」
「……自信有りだな?」
「そっちもでしょ?」
「……天川、見てるかな?」
「見てますよ。目を輝かせながら」
「……少し早いと思わないか?」
「いや、物凄くですね」
「だよな〜……育ての親が、見届けなくてどうするんだろうな?」
「本当に……無責任ですね?」
「……池にでも、後で殴って貰うか?」
「いい案ですけど、池本君は殺しても死ななそうですよ?」
「……確かに無理だな」
「でしょ?」
「……明日、楽しみだな?」
「はい、素直に楽しみです」
川上会長と篠原会長も明日の試合は楽しみの様である。きっと、天国の天川会長も楽しみだろう。
そんな時、天川会長の墓の前に居る者達が居た。
「……天川会長〜、中台君と菅原君がタイトルマッチですよ〜……見届けなくてどうするんですか〜?天川会長〜……」
「徳井〜、そろそろ泣き辞めよ」
「だって〜、池本さ〜ん……」
「大丈夫だって。天川会長は見てるよ」
「でも〜……」
「……解決屋に頼もうかな?」
「何か言いました?」
「何にも言ってねぇよ!いいから帰るぞ!」
「待って下さいよ池本さ〜ん!」
徳井はまだ、立ち直っていないらしい。
所で池本君、違う物語の人達に頼もうとしないでね。
「仕方ねぇだろ?徳井がこうなんだから!」
「何ですか〜?」
「何でもねぇよ!」
意外に面倒見の良い池本である。
「意外とは何だ?意外とは!」
きっと、天川会長も楽しみにしています。
……徳井には困ってるかも……