哲男への挑戦!
仕事、物凄く大変です……
問題が解決する前に新たな問題……仕事は良く考えた方がいいですよ……
将士に後輩が出来、拳王ジムは更に活気付いて来た。後1つ将士が勝てば、ジム始まって依頼のタイトルマッチである。将士は元より、喜多と手塚の指導にも熱が入って来る。
そんな時にジムに電話が入った。対応したのは篠原会長、一言二言話をし、そのまま電話を切った。この時、将士は陽介とロードワークに出ていた。汗をびっしょりに掻いて2人がジムに戻って来た。
「待ってたよ。中台君、喜多君と手塚君と会長室に来て」
将士は着替え、喜多と手塚と会長室に入った。陽介は会長室のドアに耳を付け、中の話を聞こうとしている。
「……相手が棄権だって。中台君、次はタイトルマッチだよ」
「……はい?」
「「……来た〜〜〜!!」」
「やったな、将士!」
「よし、打倒哲男だ!」
「……え?喜んでいいんですか?」
「「勿論だ!!」」
「……中台君、程々にね」
このタイミングで会長室のドアが開く。
「中台さん、やったっすね?」
「陽介、お前にも分かるか?」
「遂にタイトルマッチだ!」
「……あの〜、勝たないと意味無いし……」
「そうだ、勝たないと意味は無い!」
「よし、ロードワーク行くぞ!」
「……行って来ましたけど?」
「いや、気合いを入れ直してだな〜……」
「そうだ!俺達も走るからな!」
「俺もやるっす!」
「「よし、お前も来い!」」
「ほら、将士」
「行くぞ」
「中台君、ごめんね」
「……行って来ます……」
思わぬ所で将士の日本タイトルマッチが決まった。ついでに、思わぬ所で2度目のロードワークである。
この日の練習だが、将士よりも喜多と手塚の方が気合いが入っていた。ジム始まって以来のタイトルマッチ、当然と言えば当然かもしれない。
「ミット、お願いします!」
もう1人、陽介も気合いが入っている。
この熱量は暫く続く事となる。将士はマイペースと言いたい所だが、タイトルマッチが決まった事で確かに気合いが入っている。良い事ではある。
そんなある日、拳王ジムに訪れた人物が居た。
「よう、元気にやっとるか?」
「天川会長!」
「「お久しぶりです!」」
「お元気そうですね」
「中台君を始め、みんな元気そうだな?」
「はい!」
「手塚は、頭以外は元気ですよ」
「弱虫喜多、うるさいぞ」
「弱虫とは何だ?」
「本当の事だろ?」
「……篠原君、この2人は進歩が無いね〜?」
「それは、僕もそう思います」
「「篠原会長〜」」
「天川会長、変わらないですよ。僕も喜多さんも手塚さんも」
「中台君は変わったね。タイトルマッチを控えてるし、堂々と話をする様になった」
「そうですか?」
「そうだよ。最初は本当、大丈夫かと思ったからね」
「酷いな〜……」
「しょうがないだろ?何とかしようとしてなかったんだから」
「喜多さんまで……」
「そんで、喜多が将士を助けたんだよな?」
「ば、馬鹿手塚……」
「へ〜、喜多君が助けたね〜……どうやって?」
「ほら、篠原会長が余計な事を……」
「余計って、どういう事?」
「いや、それはその〜……なぁ、将士?」
「手は出してないですよ。足は出したけど」
「馬鹿、将士!」
「ほ〜、聞き捨てなりませんな〜……喜多君、今日から1週間はジムの掃除と戸締りね」
「はい?」
「黙ってやる!」
「はい……」
思わぬ所で、喜多はとばっちりを貰う事になった。
この日、天川会長は暫く将士の練習を見ていた。その視線は何処か遠い昔を見ている様な、それでいて、自分の息子を見ている様な、そんな眼差しであった。
暫く見ていた天川会長、篠原会長に声を掛けて拳王ジムを後にした。この後、天川会長は川上ジムに顔を出した。哲男の事も気になるらしい。川上ジムでも哲男の練習を見ていた天川会長、そのまま地元に戻って行った。
タイトルマッチまで約3ヵ月、将士も哲男も練習が佳境に入った頃である。1本の電話が拳王ジムに入った。
「はい、拳王ジムです」
[喜多か?]
「何だ、もっちゃんかよ」
[喜多、中台は居るか?]
「ロードワーク中」
[そうか……伝言、頼んでいいか?]
「どうした?変だぞ?」
[いや、大丈夫……頼めるか?]
「おう、構わねぇよ」
[悪いな……天川会長、今朝亡くなった……]
「はい?冗談が過ぎるぞ?」
[……冗談なら、どれだけいいか……]
「……本当の話なんだな?」
[すまん……返し方が分からない……]
「分かった。将士には伝えるよ……お通夜は何時だ?」
[3日後……]
「哲男は?」
[これから……]
「俺から連絡入れとくよ。川上会長にも話さないとだしな」
[……悪い……]
思わぬ訃報である。天川会長、身体を悪くしていたらしい。それでもボクシングが好きで、会長業とトレーナー業をやっていたとの事だったのだが、心不全という形で朝に亡くなっていたとの事だった。
喜多は川上ジムに連絡を入れ、篠原会長と手塚にも事の顛末を伝えた。ロードワークから帰って来た将士にも事情を話し、喜多は将士を連れて一路、福島県まで移動した。
地元の最寄りの駅に着いた将士、母親が迎えに来ていた。
「将士、案内するよ」
「……ありがとう……」
「喜多さんも一緒に」
「ありがとうございます」
将士の母親の車に乗り、将士と喜多は天川会長の家に向かった。将士達が天川会長の家に着くと、橋本トレーナーが出迎えた。橋本トレーナーの目は真っ赤である。
「もっちゃん、ご苦労様」
「いや、大丈夫……中台、悪いな」
「いえ……天川会長、中に居るんですね」
「おう、会ってけ」
話をしていると、タクシーが1台入って来た。乗っているのは、哲男と川上会長である。
「おう、将士」
「哲男君……一緒に、天川会長に会ってこうか?」
「……そうだな……」
それ以上の会話をせず、2人は中に入り天川会長と最後の別れをした。暫く2人は、天川会長の側から離れなかった。2人にとって、天川会長の存在はそれ程大きかったのだろう。
「2人共、暫く俺と天川の2人にしてくれ」
川上会長が将士と哲男を部屋から出し、天川会長と最後の別れをしていた。暫くの間、川上会長は天川会長に話をしていた。川上会長としても、天川会長の存在は大きかった様である。
お通夜と葬式を出た将士と哲男、何処となく心ここに在らずといった感じである。葬式には、石谷トレーナーや篠原会長、手塚も参列していた。その他にも大勢の人が押し寄せ、天川会長の人柄が伺える物となっていた。
葬式が終わり、将士と哲男は天川会長の家から少し離れた所に立っていた。何をやるでもなく、ただ突っ立っているといった感じである。
「馬鹿2人、何してんだ?」
「「……池本さん」」
「何しょぼくれてんだ?」
「……いや、天川会長……」
「この間、僕の練習見てたのに……」
「嬉しかったんだろうな〜……自分の育てた選手が、巣立って行ってタイトルマッチで激突!……自慢だろうな」
「でも……」
「やっぱり……」
「今のまんまじゃ、天川会長は浮かばれねぇな。当の本人達がこれじゃあな〜……」
「「……………………」」
「は〜、少しは気合い入れろよ!天川会長が安心して見てられる様に、新たに頑張る時じゃねぇのか?」
「「池本さん……」」
「池の言う通りだ。天川があの世で自慢出来る様に、お前達はしっかりと試合をする義務が有る。天国の天川に届ける義務が有るんだ!」
「その通り!2人には、情けない試合をしない様に、これから精進して貰うよ。最も、それで勝つのはうちの中台君だけどね」
「馬鹿を言うな!勝つのはうちの哲男だ!」
「ほら、本人達はどうなんだ?」
「……天川会長に僕のベルトを巻いた姿を見せる!」
「馬鹿言え!俺がベルトを天川会長に届けるんだ!」
「負けないよ!」
「こっちこそな!」
将士と哲男、どうやら闘志に火が付いた様である。
この後、2人は握手をしてそれぞれのジムに戻って行った。遠く福島の地で、大恩有る人との別れを経験した2人。それでも、2人はきっと強く歩いて行く。
「池本さん、ありがとうございます」
「俺達じゃ、どう話していいのか……」
「お前等は成長しろ!馬鹿が度を超えて来たぞ」
「「すいません……」」
「所で徳井は?」
「……あっち……」
「まだ泣いてます……」
「……あいつはあれでいいのかもな……」
徳井の意外な一面である。
将士と哲男、天川会長が納得する様な試合をきっと見せてくれるだろう。
ゆっくりとやっていきます。
すいませんが、進み具合が悪いのは勘弁して下さいね。




