始まるA級トーナメント!
将士の戦いが始まる……
試合当日、将士は喜多と共に会場入りした。今回の試合は珍しく、Sフライ級とバンダム級でのA級トーナメントの1回戦が組まれている。開催プロモーターは西田拳闘会であり、本日のメインは隆明のA級トーナメント1回戦である。
「俺の興行に入れてやるよ。良かったな手塚~!」
「俺にだけ、何なんすか?」
「だってよ~、篠原さんには頭上がんないし、容姿じゃ喜多とはいい勝負だろ?」
「おい、お前のKO負けだ!」
「俺は何なんすか?」
「見た目も財力も俺の勝ち!いうなれば下僕だな!」
「おい!そこの大馬鹿大将!今すぐに息の根を止めてやる!」
手塚は本気で西田会長の首を羽交い締めにした。少し経つと、西田会長が泡を吹き始めた。それを見た喜多と篠原会長、嫌々ながら手塚を止める。
こんなやり取りが有り、本日の試合となった。色々と複雑では有る。
「うちの馬鹿がすまん!」
徳井が拳王ジムに来て、頭を深々と下げたのは言うまでもない。
試合会場に入ると、将士はすぐに着替えた。着替えて軽くアップを始めると、すぐに隆明もやって来た。
「立ち止まれないね?」
「勿論!哲男君が待ってるからね!」
「俺は、この後に階級を上げるよ。将士君と哲男君の勝った方に挑戦する。Sフライ級の日本チャンピオンを手土産にね!」
「それは先だね。僕は、哲男君とやる権利をまずは勝ち取る事に専念する。どうせ、会場には来てるだろうしね」
「だろうね。お互い、気合い入れて行こう」
「うん、頑張ろう!」
2人は右拳を軽くぶつけ、それぞりれのアップへと移って行った。
試合は始まり、どんどんと進んで行く。喜多と手塚は将士と控え室に居る。
「そういえば、将士の試合の時は、そんなに時間が狂わねぇよな?」
「手塚も思ったか?そうなんだよ、運がいいよな?」
「どうしてですか?」
「逆算してアップするだろ?遅れると、なかなか調整が難しいんだ。手塚みたいな奴は、下手すると試合前にへばっちまう」
「おい、俺はそんなに馬鹿じゃないぞ!」
「肩で息して入場してた癖に」
「……お前、細かい所まで見てるな~……だから、女にモテねぇんだよ!」
「お前よりはマシだ!」
「将士~、こんな重箱の隅をつつく様なボクサーになるなよ」
「お前みたいな大雑把がいいとは限らん!」
「詰まるとこ、最高のパンチを打ち込めばいいんだよ!」
「そこまでの過程が大事なんだよ!分かる?頭が必要なの頭が!」
「やるか~?」
「やってやるよ!」
「辞めないか、馬鹿!」
篠原会長が勢いよくドアを開け、喜多と手塚を注意している。
「今日は中台君の試合!全く君達は……」
「だって、喜多の馬鹿が……」
「お前のが馬鹿だろ?」
「辞めなって!……中台君、今日は僕もセコンドに入るからね」
「ありがとうございます」
「この2人じゃね~……」
「そりゃないっすよ!」
「上手くやりますって!」
「……漫才なら、上手く出来るかもね」
「「篠原会長~……」」
「流石は篠原会長、納得の答え!」
本日の将士のセコンド、大丈夫の様である。
試合が進み、遂に将士の出番である。係員に声を掛けられ、将士は篠原会長·喜多·手塚と共にリングに向かった。
リングに上がった将士、軽く観客席に頭を下げたのだが、その際に客席に哲男の姿を見付けた。将士に気合いが入った。
リング中央でレフェリーより注意事項を受け、一旦各コーナーに別れた。
「中台君、気合い入ってるね?」
「はい。僕の大切な人が確認出来ましたから」
「アリサさん?」
「馬鹿だな手塚~、高田さんか片瀬さんだろ?年齢的にさ?」
「……中台君、この2人が馬鹿だって事は証明出来たね?」
「はい、充分です」
「「何故?」」
少しのやり取りの後、セコンド陣はリングを降りる。将士は堀藤の方に視線を向ける。堀藤の視線とぶつかる。
「カーン」
試合のゴングが鳴った。
1ラウンド…………
将士は左ジャブを放ちながら前に出て行く。頭を振り堀藤に的を絞られない様に、自分から攻撃を仕掛けていく。
対する堀藤だが、将士から距離を取って左ジャブを放つ。打ち合いはなるべく避け、徹底的にアウトボクシングに徹するつもりの様である。
追い掛ける将士、かわす堀藤。いつもの将士の試合と変わりはなさそうだが、違うのは堀藤の動きである。今までの相手より確実に切れが有る。なかなかのスピードであり、これこそ堀藤のスタイルである。
本来なら、このスピードで翻弄される事だろう。堀藤自身も、このスピードが有ればプロでやっていけると思っていたに違いない。確かに、普通ならこのスピードは凶悪な武器である。
問題なのは、対戦相手が将士である事である。将士の合宿でのスパーリングパートナーには喜多がおり、佐伯との経験も積んだ。ガンボアとの経験も有り、隆明とも一緒に合宿している。更に付け加えるなら、将士の目標である哲男もアウトボクサーである。ここで躓く訳にはいかない。
この追い掛けっこが暫く続くかと思われたが、1分30秒を過ぎた時、将士のパンチをかわした堀藤がコーナーに詰まった。将士に誘導されたのである。
次の瞬間、将士は一気にギアを上げた。ガードの上からでもお構い無しに、将士は堀藤にパンチを打ち付けていく。堀藤はガードするので手一杯になっている。
将士はパンチを頭に多く打ち、空いたボディに左を突き刺した。刹那、堀藤は右フックを放つのだが、将士はこれを頭下げながら右フックを被せた。
堀藤の頭が激しく跳ね上がり、前のめりに倒れる。
「ダウン!ニュートラルコーナー!」
レフェリーに言われ、将士はニュートラルコーナーに歩いて行く。レフェリーはカウントを始めるかと思ったが、両手を交差させて試合を止めた。
1ラウンド2分14秒、将士は見事にKOで勝利した。同時に、A級トーナメントの1回戦も突破である。
勝ち名乗りを受けた将士、哲男の方に右手を上げた。哲男は軽く右手を上げ、将士に返事をしていた。分かっているのは、当事者の2人と篠原会長だけである。後1つ将士が勝てば、この2人が激突する。
これからが大切!