ライバルと親友!
手塚、何もしなければいいんだけど……
ロードワークを終えた将士と哲男、そのままジムワークへと移る。
「オラオラ、ぼやぼやするなよ!」
「偉そうに……肩で息してる奴がでしゃばるなよ」
「うるせぇ!お前何て、足が縺れてたじゃねぇか!」
「縺れてねぇよ!この脳ミソ筋肉!」
「しっかり味噌が入ってるよ、ムッツリ男!」
「カニ味噌だろ?西田2世!」
「おい、それは酷ぇぞ!」
「しょうがないだろ、本当の事なんだから!」
「本当じゃねぇ!」
「黙れ!しっかりトレーナーをやれ!」
「「……すいません……」」
「本当に……2人揃うといつもこうなんだから……中台君に菅原君、気にせず練習ね!」
「「はい!」」
喜多と手塚、どうやら色々と意識し合っている様である。
この2人の競り合いが有り、本日の天川ジムは凄い事になっている。
「おい、そこのお前!俺がミット持ってやるよ!」
金髪坊主の手塚の凄みに誰も断れず、練習生は片っ端から手塚のミットをやる事になった。勿論、手塚のミットの後は誰もがヘトヘトである。
これに対しての喜多だが、
「よし、こっちもミットだ!」
との事で、こちらも片っ端からミットをやらせていた。本日の練習生は、いつも以上に大変である。
「よし、将士ミットやるぞ!」
「哲男は俺だ、用意しろ!」
喜多は将士を、手塚は哲男を見る様である。
このミット打ちだが、どちらもかなり絞られる事となる。流石は元世界チャンピオンといった所だろうか、喜多と手塚のミットは見事な物である。
本日の将士と哲男の練習が終わり、将士はいつも通りにアルバイトタイムとなる。
「哲男、お前も少し残ってろ。見るのも勉強だ」
喜多の言葉で哲男は将士の手伝いをする事になった。
本日のスパーリングだが、大橋は喜多と手塚と2ラウンドずつ行う事となっている。天川会長としては、手塚ともスパーリングをする事で渇を入れたい考えも有る様である。
スパーリングだが、喜多はいつもと変わらない。左ジャブを主体に大橋を中心にサークリングをし、スピードの有る華麗なフットワークで大橋のパンチをかわしていく。本当にジムの良い手本となっている。2ラウンドのスパーリングは、大橋はいつも通りに一方的に殴られる形となった。
「か~……喜多程度にこれかい?」
「おい手塚、お前も同じ様な物だろ?」
「はぁ?俺なら1ラウンドKOだ!」
「こっちのセリフだ!」
「君達中心のスパーリングじゃないんだよ、さっさと用意して」
天川会長に急かされる様に、喜多と手塚は交換した。
手塚とのスパーリングだが、こちらも一方的である。手塚は元々ファイター型であり、駆け引き等は殆ど皆無である。愚直に前に出て、力の限りパンチを打ち込むのが手塚である。このファイトスタイルで手塚は世界チャンピオンとなっている。ちょっとやそっとで何とかなる訳ではないのだが、手塚は手を抜くのが物凄く下手である。それはスパーリングにも現れており、大橋は1ラウンドから手塚に激しく殴られる形となった。これが2ラウンド続いたのである。
「……手塚程度が相手なのに……」
喜多は頭を掻いていた。
「おうおう、俺程度とは気に入らないね……何が不満だ?」
「だってさ~……お前、サーシャにガッツリ負けてんじゃん」
「あれはな、ジャッジのミスだよ!俺の勝ちだ!」
「はぁ~……負け惜しみだな……」
「この野郎……リングに上がれ、潰してやる!」
「違うな、俺がお前を潰すんだよ」
喜多はグローブを着けながらリングに上がる。
「天川会長、いいんですか?」
「中台君、心配かい?それより、あの2人のスパーリングを見る方が勉強になりそうじゃないか?」
「確かにそうですけど……」
「大丈夫だよ、2人共に元世界チャンピオンだからね」
「中台、一緒に見ようぜ!」
「うん……」
いきなり、喜多と手塚のスパーリングが行われる事となった。
このスパーリングだが、かなり激しい物となっていた。喜多も手塚も身体が温まっており、最初からエンジンが掛かっている。2人の最初の30秒を見ただけで、大橋とのスパーリングは力をかなりセーブしていたのが分かる。
距離を取って回る喜多に対し頭を振って前に出て行く手塚、お互いの左ブローの強力さも合間って、1ラウンド中盤には誰もが言葉を失っていた。
このまま2ラウンドが終わり、喜多と手塚はリングを降りて来た。
「チッ、KO出来なかったか……喜多程度を……」
「馬鹿か?俺のセリフだろ?……なぁ将士、俺の勝ちだよな?」
「脳味噌無いのか?俺のが優勢だっただろ?」
「ただ単に前に来てパンチ振るっただけだろ?殆ど当たってねぇし、俺のが確実に当ててたよ!」
「ガードしてたね!俺のパンチのがヒットしてたよ!」
「どの辺にヒットしたんだよ?」
「その気に入らねぇ面にだよ!」
「……君達は……これさえ無ければいい選手なんだけどね~……中台君に菅原君、真似しちゃだめだよ」
「「はい!」」
「「おいおい、お前等……」」
本日も、かなり賑やかな天川ジムである。
片付けが終わり、喜多と手塚は将士と哲男と帰る事にした。手塚のホテルは喜多と同じであり、明日からの朝のロードワークは手塚も参加の様である。
「手塚、飯でも食って帰れよ」
「お前はどうすんだ?」
「俺か?俺は将士の家だよな~?」
「お母さんが用意してるから……菅原君もどう?」
「いいの?やったぜ~!」
「ならば……俺も参加だな!俺が参加しないと、寂しいだろ?」
「いや、それは無い!その辺のラーメンでも食ってけ!」
「酷ぇな~、いいだろ?」
「将士に迷惑だ!」
「そんな事無いよな、将士?」
「そもそもだな~、将士って何勝手に呼んでんだよ?失礼だろ?」
「それなら喜多さんも……」
「いいんだよ、俺は別格なんだから!」
「別格馬鹿なだけだろ?」
「この金髪坊主~……手塚、後ろから呼ばれてるぞ?」
「え?俺?」
手塚が後ろを向いた瞬間、
「走れ!手塚を置いてくぞ!」
喜多はいきなりダッシュし、将士と哲男がそれに続いた。
「お、おい、待てよ!」
手塚は困惑した感じだが、少しするとすぐに走り出した。
将士達が一気に走って帰って来ると、家の前には将士の母親が居た。
「あらあら、みんなどうしたの?」
「はぁ、はぁ、母さんただいま……はぁ、はぁ」
「はぁ、はぁ、ご馳走になります。はぁ、はぁ」
「鍛え方が足りないな!」
話をしていると、すぐに手塚がやって来た。物凄い形相である。
「将士、菅原君、下がって!」
「「え?」」
「何処の凶悪犯か知りませんけど、家にはお金は有りませんからね。それでも引かないなら……喜多さん、存分に拳を握って下さい!」
将士の母親は、将士と哲男を自分の後ろに隠しながら、手塚に向かって言葉を発した。
「あの、母さん……」
「いいから、家の中に!……さぁ、帰る帰らない?警察呼ぶわよ!」
「…………なぁ、俺はそんなに悪人面か?」
「……普通に怖いが……これはお前に少し同情する……」
喜多は手塚の肩を2·3回、軽く叩いた。
「???……知り合い?」
「ええ、俺のジムメートです……一緒にジム経営してて……」
「え?SKT拳王ジム?……あれって……SKTの略じゃないの?」
「違いますよ!俺はスーパー○イ○人ですか?……見た目なら、手塚の方が合ってますよ」
「「確かに、金髪だし」」
「余計なお世話だ!」
「いいですか?Sは篠原会長、Kは俺でTは手塚のT!見た目怖いけど、結構いい奴なんですよ。馬鹿は確かですけどね!」
「将士、菅原君、本当?」
将士と哲男は同時に頷いた。
「……ごめんなさい、将士がお世話になっています」
将士の母親は手塚に頭を下げた。
「いやいや、分かって貰えれば大丈夫ですよ!」
「お詫びと言っては何だけど……夕飯でもどうですか?」
「有難いな~、お言葉に甘えて……」
「甘えるな!お前は遠慮がねぇんだから!」
「何だよ、別にいいだろ?」
「喜多さん、どうしたんですか?」
「俺達の分が減る!」
「器が小せぇな~」
「お前が普通じゃねぇからだ!」
「何だと?」
「やるか、この野郎!」
「菅原君、また始まったよ?」
「いつもこんな感じだよ……東京でもこうなのかな?」
「……中に入ってご飯食べましょ」
「そうだね、菅原君行こうよ!」
「おう、腹減ったな!」
3人は家の中に入って行く。
「「置いてくなよ~!」」
すぐに喜多と手塚も後を追った。
まだまだ将士のボクシングはこれからではあるが、それでもこの道は楽しく間違いでは無いと感じる。将士自身も変わって来ており、これからが楽しみではある。
「旨ぇ!最高だな!」
「な、うるせぇだろ?」
「喜多さんもこんな感じですよ?」
「中台、違う意味で大変になりそうだな?」
喜多と手塚は、少し問題児の様である。
万国共通、手塚は悪人面!