親友という物!
哲男は日本チャンピオンに!
試合が終わり、哲男はシャワーを浴びて着替えた。着替えが終わると、リュックを背負いチャンピオンベルトを持って控え室を出て行こうとしていた。
「今日はゆっくり休めよ」
「分かってますよ~……今日はありがとうございました」
「「おう」」
哲男、川上会長と石谷トレーナーに頭を下げてから控え室から出て行く。そのまま、試合会場の外に行く哲男、
「やったね!」
「おめでとう!」
声を掛けたのは、将士と隆明である。
「おう、ありがとな!」
「これで、将士君とのタイトルマッチだね?」
「まぁな!」
「……僕は、頑張ってA級トーナメントをクリアするよ」
「当たり前だろ?やっと対戦出来るんだからな!」
「……俺も、バンダムに上げるつもりなんだ」
「「マジ!?」」
「うん……もう暫く後だけど、Sフライ級だとキツイんだよね……」
「そうか~……俺に憧れたのか~!」
「哲男君、それは無いと思うよ」
「何だよ将士、そうかもしれないだろ?」
「……全然無いよ……でも、2人の関係には憧れてる」
「無い物ねだりか?」
急に話に入って来たのは夏雄である。
「夏雄さん、お久しぶりです」
「おう、将士も元気そうだな?」
「はい」
「何だよ、羨ましいのか?」
「馬鹿なのか?俺は先にチャンピオンだぞ?……最も、だ~れも見ててくれなかったけどな?」
「うわ~……器小せ~……」
「小さいとは何だ?」
「……すいません……僕が頑張り過ぎたから……」
「そうだよ将士君。将士君が凄い試合したから、誰もが忘れたんだよ!」
「ちょっと待て、それだと俺のが小物に聞こえる」
「「小物じゃん!」」
「おい!」
「まあまあ……兎に角、夏雄さんも哲男君も日本チャンピオン。凄い事だよ!」
「将士、哲男のベルトを頂くんだろ?」
「そうだけど、今は祝ってもいいんじゃないですか?」
「奪うつもりではいるのね……油断ならんな、将士!」
「……これが羨ましいんだろ?隆明君?」
「はい」
「「どうして?」」
「本当の親友だからさ。次に戦うかもだけど、それでも今の喜びを共有出来る。きっと、戦った後も同じ様に話が出来る。だから羨ましいのさ」
「大丈夫だよ。隆明君とも、僕はそうだから。哲男君は、案外冷たいけどね?」
「んな事有るか!?俺は優しい男だ!」
「なら、ベルトを僕に頂戴よ!」
「出来るか馬鹿!」
なかなか楽しい会話である。哲男はこのまま、夏雄が送って行く事になった。
将士と隆明、一緒に歩いている。
「凄かったね?」
「うん……元々、哲男君は凄かったけどね」
「最後のパンチ、将士君はどう思う?」
「……1発なら、対策は有るだろうけど……繋げるからね……厄介だね」
「顔が笑ってるよ?」
「だってさ~……強い男と出来るんだよ?それも、それが哲男君!楽しみでさ~!」
「怖さは無いの?」
「きっと有るよ。でも……それも忘れるくらいに楽しいと思うよ。哲男君なら、それもきっと分かってると思う」
「……俺も、そこに加われる様に頑張らないと」
「そうなったら、物凄く楽しそうだね?」
「それは確かに!」
将士と隆明、それぞれに決意新たにといった所だろうか。
石谷トレーナーと川上会長、2人で帰路に着いていた。
「お疲れ様です」
「池!?」
「どうした?」
「いや、久しぶりに帰って来たら、まさかのタイトルマッチだったんで……ライセンスで入りました」
「そうか、いいタイミングだな」
「はい」
「池本、お前から見て、哲男はどうだ?」
「なかなかなボクサーですね。ライバルも居るし」
「将士だな。なかなか厄介だぞ?」
「でしょうね……しかし、あの2人は本当に親友ですね」
「そうだな」
「甲斐と佐伯みたいだよな?」
「あの2人は捻くれてるからな~……素直な分、将士と哲男の勝ちかな?」
「それは一理有るな!」
「池本、お前の親友の定義は何だ?」
「トレーナー、難しい事聞きますね~……そうだな~……その存在が、お互いにとって必要ってとこでしょうかね?必要な時に近くに居たり手を差しのべたりもしますが、時に大きな壁ともなり得る。それでも、終われば笑顔で話をするのに、必要以上に悔しく思う。意識せずにはいられない存在ですね」
「池にとってのラリオスみたいにか?」
「あいつは……そこに馬鹿を付けないと……何たって、海を渡ってボコボコになりに来たんですからね。それも、自分には何の得も無いのに……」
「池本、逆の立場なら、お前もそうしたんじゃないのか?」
「何言ってんですか?俺はもっと賢いですよ!」
「いや、お前も変わらん。俺達と一緒で、ボクシング馬鹿だ」
「会長程馬鹿じゃないですよ!ねぇ、トレーナー?」
「失礼だぞ、池!」
「……2人程、俺は馬鹿じゃない!」
「ちょっと、トレーナー?」
「石谷、聞き捨てならんな?」
「事実ですよ、事実!」
「お前のが馬鹿だ!」
「会長でしょ?」
「総じて、2人は俺より馬鹿って事で!」
「「おい!」」
何はともあれ、哲男は本日、日本チャンピオンになった。戦績は9戦9勝7KOである。なかなか立派な戦績である。そして、川上ジムとしては佐伯以来のチャンピオンである。その才能は、池本も認める物である。
また、環境も良い。強いライバルがおり、お互いに高め合って行ける。これからの成長にも期待出来る。
問題は、将士も同じ環境であるという事だろう。厳しいボクシングの世界、生き残るのはどちらか1人かもしれない。出来る事なら、納得の試合をして欲しい物である。
それぞれ、思う所は有る様子……