ガンボアとボクシング！
試合は終わりましたが？
試合が終わり勝ち名乗りを受けると、将士はガンボアとガンボアのセコンドに頭を下げてリングを降りて行った。ガンボアは将士がリングを降りるのを見て、その後でリングを降りて行った。
控え室に戻った将士、
「やったな！」
「はい！」
「ナイスファイト！」
「ありがとうございます！」
喜多も篠原会長も、今日の試合は満足そうである。将士からも笑顔が溢れており、それだけ本日の試合が厳しかった事を物語る。
シャワーを浴びて着替えた将士、そのまま会場の外に出た。
「やったな、将士！」
「おめでとう、将士君！」
「ありがとう！……2人共、暇なの？」
「「試合前にもやった！」」
将士、なかなかジョークが上手くなった。
「しかし、見事なKOだったな！」
「刺激されたよ！」
「いや、いっぱい打たれたし……まだまだこれからだよ」
「そうだな。あれじゃ、まだまだこれからだな！……そして……あの試合で評価してる様じゃ～……お前達も、たかが知れてるな？」
「なっ！？……喜多さん、必ず見返してやりますからね！」
「俺も、絶対認めさせてやりますからね！……よし、哲男君走って帰ろう！」
「おう、気合いだ気合い！」
哲男と隆明は走って帰って行った。
「素直というか何というか……」
「篠原会長、あいつ等もこれからですからね」
「……喜多さん、僕もこれから練習したいんですけど……」
「「お前は休め！！」」
「うっ……ごめんなさい……」
将士の場合、休ませる事の方が大変な様である。
一方のガンボアだが、こちらもシャワーを浴びてから着替えた。そのままゆっくりと会場の外に出た。勿論、セコンド陣と一緒である。
「……負けたな」
「ああ……将士は強かったよ……」
「その割に、すっきりした顔をしているが？」
「そりゃあ……大切な事を思い出させてくれたからね……」
「大切な事？」
「そう……私は、ボクシングが大好きだって事さ。ボクシングが好きで好きでしょうがなかった。強くなる自分が好きで、強くなるとボクシングの奥深さが分かって更に好きになって……そうして私は、ボクシングの虜になって行った……それこそ、ボクシングが全てだったのに……」
「いつの間にか……かな？」
「そう、いつの間にかだね……いつの間にか、ボクシングが義務になっていた……生きる為、家族を養う為……理由は色々有るけど、肝心の戦う理由を他人に預けていた……勝てる訳無いさ、真っ直ぐにボクシングと向き合ってる将士にはね……」
「今はだろ？……これからは違う」
「……ああ、勿論だ。私はボクシングが好きだ。だから、もっともっと強くなる。強くなって、また将士と戦う！」
「そうだ！そして、今度はリベンジだ！」
「勿論！……そして、将士に伝えないと……」
「伝える？何を？」
「私がボクシングを好きで、それを気付かせてくれた事を感謝していると……とっておきの右ストレートと一緒にね！」
「痺れるな～！よし、あの憎たらしい顔面に叩き込んでやれ！」
「イエッサー！必ず、実行します！」
「……イエッサー……懐かしいな……ルイスとの練習の時、お前の口癖だったのにな……」
「ルイス……今頃、私を笑っているかもな？」
「いや、喜んでいるさ」
「そうか？」
「ああ……ルイスは、お前が間違いに気付いた時、必ず優しく諭していた……ルイスは、お前を笑う事はしない」
「なら……どうしても、将士にリベンジしないとな？」
「ああ、ルイスもそれは同感だろう」
「よし、早速反省会だ！」
「……今日は、軽くしろよ」
「大丈夫、朝のロードワークまでには終わらせるさ！」
「！？……参ったな～……」
どうやら、ガンボアも一皮剥けた様である。この試合が、ガンボアを更に強くする事は間違いないだろう。ルイスも、きっとそう思っている。
宿舎に戻った将士、喜多と篠原会長とはジムの入口で別れた。部屋の鍵を開けると、
「将士、おめでとう！」
「あれ？アリサさん？……どうしたんですか？」
「試合終わったから、心配で来たんでしょ～！」
「それはそれは……誰が心配なんです？」
「もう！……それより、今日はおめでとう！」
「ありがとうございます」
「ま～さし！」
「KOおめでとう！」
「高田さんに片瀬さん、2人共どうして？」
「女狐が来てるかもって思って！」
「大正解！」
「邪魔者の癖に……」
「？？？……女狐？ジャーマンポテト？……動物園にでも行きたいんですか？」
「「「全然違～う！！」」」
「それよりほら、将士は疲れてるんだから！」
「そうそう、2人には帰って貰って！」
「帰るのは、あんた達！」
「違うよ、私が残るの！」
「残るのは、あたし！」
3人が言い争いを始めた。将士は疲れた顔をしたかと思うと、こそ～っとドアを開け、1人で部屋に入って鍵を掛けた。
[ドンドンドン！]
物凄い勢いでドアが叩かれる。
「将士、開けなさいよ！」
「私だけが残るから！」
「ご飯の用意とか有るでしょ？」
「……間に合ってます。それでは、僕は寝るのでお休みなさい……」
将士は少し大きめに呟くと、そのまま奥に行ってしまった。その後も何度か3人はドアを叩くが将士からの返事はなく、諦めて帰って行った。
その頃将士は、今までの疲れと試合の疲れが重なり、着替えもせずに眠りに着いていた。
1つ忘れている。
夏雄、7ラウンドKOで見事に日本チャンピオンを奪取した。橋本トレーナーもかなり喜んでおり、試合後に将士達とこの喜びを分かち合うつもりでいたのだが、
「あれ？……橋本さん、みんなは？」
「……知らない……帰った……のかな？」
「まさか！？……俺のタイトルマッチですよ？」
「だよね～？」
夏雄、すっかり忘れ去られている。それに気付いたのは、ここから30分後である。少し可哀想である。
新たなライバル……に、なりそうですかね？
