対決、アマチュア世界チャンピオン!
遂に対決!
試合当日、将士は喜多と夏雄と会場入りした。橋本トレーナーは寝坊であり、
「絶対に天川会長に言ってやる!」
夏雄は大分怒っている。
会場に入ると、将士はすぐに着替えた。試合までは充分に時間が有るのだが、しっかりと試合に備えたいといった所だろうか。
「前座君、よろしく頼むよ!」
夏雄は将士に声を掛けた。本日のメインイベントは、夏雄の日本タイトルマッチである。
「加藤さん、何試合目ですか?」
「はい?メインだよメイン!」
「……何で?」
「俺のタイトルマッチだからだよ!」
「……お笑いか何かの?」
「ボクシングだよ!」
将士、緊張は無い様である。
試合が進み、そろそろ将士の試合である。ここで、将士の控え室に馴染みの顔が表れた。
「よう、将士」
「将士君、ファイト!」
「ありがとう……2人共、暇なの?」
「「んな事有るか!?」」
哲男と隆明の登場である。
「負けんなよ!」
「まだまだ、俺達の勝負はこれからだからね!」
「勿論。その為に練習して来たからね」
口調は穏やかだが、確かに将士の顔に気合いが入った。
「じゃあ、客席に居るからな!」
「今日は、将士君の活躍を見とくよ!」
2人は客席に向かった。いよいよ、将士の試合である。
リングに上がった将士、青コーナーである。すぐに赤コーナーに目を向けると、ガンボアと目が合った。ガンボアと将士、ボクサーとして出会うのは初めてである。ガンボアも将士も、鋭い目をしている。準備万端、そういった感じである。
リング中央に歩み寄る2人、レフェリーから注意事項を受けて各コーナーに戻る。本日のセコンドは喜多と篠原会長である。
「やるだけだぞ」
「思いっ切りね」
将士は静かに頷く。
「カーン」
試合のゴングが鳴った。
1ラウンド…………
将士は頭を振り、左ジャブを放ちながら前に出て行く。左ジャブの速さも頭の振りも、何より踏み込む速さも今までよりも1段上がっている。
対すりガンボアだが、オーソドックスから左ジャブを放ち、左に回って行く。基本に忠実なボクシングであり、その左ジャブですら一級品である。
将士はガンボアの左ジャブをガードし、強引に距離を詰めて行く。距離が詰まると、将士はすぐに左右のブローを放ってガンボアを攻撃する。
この攻撃に、ガンボアはカウンターを合わせて距離を取る。何度も将士は距離を詰めるが、ガンボアは悉くカウンターを合わせては距離を取る。
素晴らしい技術である。将士は明らかに、スピードもパワーも増している。ましてや、将士は元々出し惜しみをするタイプではない。最初から練習で積み重ねた物を、遺憾無く出している。普通なら、その空振りの風切り音や踏み込みの速さに対戦相手は面喰らう筈である。距離をいつもよりも多く取ったり、それこそパンチの数を減らして様子を見るといった作戦を取るだろう。
しかし、ガンボアはいつも通りである。自分の距離をしっかりと作り、距離が詰まればカウンターを打ち込む。勿論、将士が攻撃を辞めれば、すぐに攻撃を仕掛けて来るだろう。流石である。
ここで、将士の成長も垣間見れる。打たれても引かず、ガンボアを追い掛けて行く。カウンターを貰っても怯まず、自分から前に前に出て行く。
詰める将士と距離を取るガンボア、そのまま1ラウンドは終盤まで流れる。懐に入った将士に対し、ガンボアは左ショートアッパーを放った。このアッパーに将士は左フックを被せる。2人のパンチがお互いの顔面をかすめ、お互いの腕が絡み合った所で終了のゴングが鳴った。
青コーナー…………
「見ました?捉えられそうですよ!」
「おう、それでいい」
この短い2人の会話に、篠原会長はご満悦そうな顔である。
赤コーナー…………
「このまま、いつも通りだ」
「……何故に笑顔で話してる?既に顔は傷付いてるのに……」
「向こうを気にするな」
優勢な筈のガンボアサイド、少し怪しい雰囲気を醸し出している。
2ラウンド…………
将士は変わらず前に出て行く。自分から攻撃を仕掛け、常に先手を取って行く。先程と違う所といえば、少し前傾姿勢という所だろうか。見事なカウンターを何発も貰ったのに、将士は攻撃に重きを置いている様である。
対するガンボアだが、こちらは1ラウンドと変わりがない。丁寧に左ジャブを放ちながら、自分の距離を崩さない。その左腕で、ガンボアはしっかりと相手との距離を計っている。恐ろしいまでに、冷静なボクサーである。
1ラウンドと同じだと思われた1分過ぎ、試合が少しずつ動いて行く。確かにガンボアは将士にカウンターを当てるのだが、将士が全く止まらない。1ラウンドの時は、カウンターが当たると多少は動きに影響が有ったのだが、今の将士はパンチを喰らいながらでも前に出て行く。将士の顔面は既にパンチの跡が有り、始まったばかりだとは到底思えない。それでも、明らかにパンチを貰っている将士がガンボアを押している。
これに苛立ちを覚えたのはガンボアである。自分のパンチが軽いと言われていると感じたのだろう。ガンボアは将士のパンチに対し、踏み込んで右のブローを打ち込んだ。
この右ブローは見事に決まったのだが、そのまま将士は踏み込みながら左フックをガンボアに叩き込んだ。この試合、将士のブローが初めてクリーンヒットした瞬間である。
そこから、両者足を止めての打ち合いとなった。共に一歩も引かず、リング中央での打ち合いが展開される最中、レフェリーが割って入った。2ラウンド終了のゴングが鳴っている。
青コーナー…………
「これからこれから!」
「おう、これからだぞ!」
「はい!」
「中台君、大振りに気を付けて」
「はい!」
将士の顔とは裏腹に、雰囲気はとても明るい。
赤コーナー…………
「無理に付き合うな」
「……少し効いた……」
「回復しそうか?」
「問題無い」
「自分の距離、分かるな?」
「大丈夫だ」
思ったよりも、こちらは慌てている様である。
熱い戦い!




