積み重ねは大切!
ボクシングは1日にして成らず!
毎朝のロードワークだが、こちらは既に日課となっていた。毎朝、喜多は将士の母親のやっているお弁当屋の前の駐車場に行く。先に来ている将士と哲男、喜多が来ると一瞬に準備運動をやり、学校法人有田までの往復約10kmを3人で走る事となる。
最初こそ、将士と哲男は喜多に着いて行くだけで精一杯であったのだが、高校生の2人はしっかりと成長をしている様であり、いつの間にか喜多に着いて行くのが当たり前くらいになっていた。なかなかの走り込みが出来ている。
喜多と一緒に練習をする様になって2週間、将士も哲男も今が1番の成長期で有る為、喜多にとっては当たり前の結果となっているのかもしれない。
そんないつもの朝を終え、将士と哲男は学校に向かった。本日は途中まで喜多も一緒である。
「喜多さん、北高に顔出して下さいよ!」
「哲男、本当に馬鹿だな……俺は北高と何の関係も無いぞ?」
「元世界チャンピオンだから、来るだけで高校は有難いんじゃないですか?」
「……俺は迷惑だ」
「菅原君、喜多さんにも色々用事が有るんじゃないの?」
「将士は違うな~!そう、俺は忙しいの!やる事たくさん、人気者の喜多君だからね!」
「……そんな人気、聞いた事無いですよ?」
「僕も無いな!」
「お?俺に歯向かうのか?……今日の練習……」
「わ~、ごめんなさい!喜多さんは人気者です!」
「……いやいや、喜多さんの人気は聞いた事が無いですよ~!」
「将士は頑固だな?」
「別に、本当の事……」
「ちょっと待て、それ以上は俺にもダメージが残る……終わりにしよう」
「所で、喜多さんは午前中は何してるんですか?」
「流石は中台!俺も知りたいな!」
「そうだな~……パチンコかゲーセンか……時に釣りかな?」
「……ダメな大人の見本だな……」
「でも、喜多さんらしくない?」
「待て将士、俺らしいってそんなにダメ人間に見えるのか?」
何気ない会話だが、意外に喜多はダメージを負ったらしい。将士は悪気は無いのだが、喜多に致命的な一撃を喰らわした様である。
学校に着いた将士と哲男、それぞれのクラスに別れた。ここで、今までと少し違う事に気付く。
将士は今まで、4人の男に絡まれていた。誰もが関り合いに成りたく無く、他の者は将士を遠巻きに見ているだけであった。
しかし、将士が屋上で4人のうちの1人をボコボコにした事がクラス中に知れ渡った。顔を晴らした男が授業を受けているのである。知れ渡るのは当たり前の事なのだが、これでいじめの問題が解決とはならなかった。
やられている時、将士に誰も手を差し伸べなかった。そこに将士の反撃という形で将士はこの4人から抜け出す事が出来たのだが、今度は将士を怒らせると何をされるか分からないとの事で、クラスでの将士の対応は殆ど変わらなかった。人間とはそんな物、過度の期待は持たない事が賢明である。
それでも、将士と哲男の関係は変わる事はない。いや、前以上に親密になった様である。休み時間に哲男が将士の所に行くだけでなく、将士から哲男のクラスに行く事も増えていた。端から見ると、ずっと昔からの親友にも見える。2人にとって、楽しい学校生活となっている様である。
「菅原君、はいお弁当!」
「お~、いつもありがとうな!お母さんにもよろしく言っといてくれ!」
「うん、お母さんも張り切ってるよ!」
「……旨い!やっぱり最高!……中台、この唐揚げゴチな!」
「ちょっと、菅原君にも入ってるでしょ?」
「ほら、俺はこの後ジムだしさ!」
「それは僕も同じ!……全く……」
楽しい学園生活の一部の様である。
そんな本日の放課後、2人は今日も走って天川ジムに向かった。
天川ジムに着いた2人、
「中台、先に行っててくれ……あれ?バンデージは……」
「分かった、先に入ってるよ……お願いしま~す!」
「うん?誰だお前?」
将士が入ると、目の前には金髪で坊主頭の物凄く人相の悪い男が居た。
「あ、あ、どうも、失礼しました……」
[バタン!]
将士はジムのドアを勢い良く閉めた。
「どうした、中台?」
「……中に指名手配犯が居る……」
「何?……もしかして、ここに逃げ込んだのか?」
「そうかもしれない……喜多さん居ないのかな?」
「いや……誰かを人質に取られて、喜多さんも手が出せないのかも……」
「だとしたら、少し面倒だね……」
[ガラガラ!]
ジムのドアが開き、中から喜多が顔を出した。
「お前等、どうしたんだ?早く中に入れよ」
「喜多さん、大丈夫ですか?」
「中に指名手配犯が居るんでしょ?中台が……」
「指名手配犯?…………くっくっく、指名手配犯か……それは面白い!あっはっはっはっは!」
「どうした?」
「うわぁ、出た!」
「おう、さっきの」
「何だよ、手塚さんじゃねぇか……喜多さんの同僚だよ」
「違う違う、俺の下僕!」
「この野郎……お前、一発KOしてやろうか?」
「出来ない事は口にするなよ~!」
「お前ごとき、簡単にKOだ!」
「言いやがったな、この金髪極悪人面男!」
「何だと!このスケコマシ口だけインチキ男め!」
「うるさい!ジムの外で騒ぐな!……中台君に菅原君、早く中に入んなさい。この2人の馬鹿が染つるよ?」
「「ちょっと~、天川会長~!」」
どうやら、将士が指名手配犯と間違えた男は、喜多と一緒にジムを経営している手塚勝也だった様である。確かに目付きの鋭い悪人顔であり金髪で坊主という出で立ち、将士から見たら凶悪犯人に見えたのかもしれない。篠原会長の指示の元、手塚は本日から3日間で天川ジムに来ていた。
本日の練習も、いつもとは変わらない。基本、ロードワークは喜多と共に将士と哲男も着いて行く。本日は、そこに手塚が加わった。
「気合い入れて行くぞ!」
「「はい!」」
「……お前が仕切るなよ」
「だってさ~、喜多じゃ物足りねぇだろ?馬鹿だし腑抜けだし!」
「この野郎……お前よりも腑抜けてねぇし、馬鹿はお前の専売特許だろ!」
「知ってるか?……馬鹿って言った方が馬鹿なんだぜ!」
「……誰からの受け売りだよ?」
「西田さん」
「……馬鹿の総大将じゃねぇか!」
「そこは納得」
「喜多さんと手塚さんて、仲悪いの?」
「いや、喧嘩する程とっちらかんて言うだろ?」
「喧嘩する程仲がいいね……菅原君、家に帰っても勉強してね」
「うっ……頑張ります……」
この後だが、ロードワークは喜多と手塚が競り合う形で行われ、着いて行く将士と哲男は天川ジムに帰った時にはぐったりであった。
まだまだ頑張らねばならぬ2人である。
金髪坊主の悪人面……
これから何かやらかしそうです……