次の試合の前に、新たな嵐がやって来る!
将士、まだまだ!
合宿も終わり、将士にはいつもの日常が戻っていた。朝のロードワークに始まり、バイトが終わるとジムワークとなる。次の試合に向けて、今は毎日精進である。
そんなある日、1通の手紙が拳王ジムに届いた。
「中台君、手紙」
「僕に?……誰だろ?」
「女じゃねぇの~?」
「このスケコマシ!」
「な~に~、将士浮気~?」
「違ッ……っていうか、誰とも付き合ってませんよ~!」
「そうそう、将士はこれから私の物になるんだから!」
「違うって、私のだよ~!」
「……ここは練習の場!やるなら終わってからにしてくれる?」
「おお!篠原会長が怒った!」
「あの仏の篠原会長が!」
「……喜多君に手塚君、2人は茶化さないの!」
ジムは相変わらず賑やかである。
将士は練習が終わると、その手紙を開けた。差出人の所には、何も書いて無かった。
中台将士
俺だ、昇龍だ。
9月10日にプロテストを受ける。
お前とやる為に、バンダム級でやる。
お前はテストを見に来い。そして、俺を意識しろ。
待ってるからな。
何とも、短い手紙である。
「あ~……昇龍ね~……プロテストか~……」
将士が呟くと、横から喜多の顔が出て来た。
「おお!明日の事じゃねぇか!プロテストか~、昇龍って誰?」
「香港映画で活躍してる、若手俳優ですよ!」
「何と!?……将士、どうしてそんな奴と知り合いに?」
将士が企んだ様な笑みを見せる。
「中台君、喜多君を担いじゃいけないよ」
「あれ?分かっちゃいました?」
「??……俺は騙されたの?」
「喜多~、将士に馬鹿にされるなよ~!」
「うるせぇ!お前は顔が怖いから、親近感がねぇんだよ!」
「お?やるか、騙され男?」
「やってやるよ、悪人面!」
「……進歩の無い2人だね……」
「篠原会長、とりあえず明日は見に行って来ます」
「いいけど、誰なの?」
「う~ん……知り合い……かな?」
将士は明日、昇龍のプロテストを見に行くらしい。
翌日、将士はバイトが終わると後楽園ホールに向かった。プロライセンスで中に入る。これから、プロテストのスパーリングが始まる所らしい。
「来たな、将士」
「やぁ!……調子は悪くないみたいだね?」
「おう、絶対に受かってやる!」
「……バンダム級なの?」
「勿論!お前とやるからな!」
「僕より強い人はいっぱい居るよ。でも……楽しみではあるけどね」
「とりあえず、ゆっくり見て行けよ」
昇龍は将士から離れ、アップに戻った。
昇龍は3組目、早い段階でスパーリングを行う。立ち上がりこそ少し硬さが見られたが、最初のジャブが当たると動きがスムーズになる。面白い様に昇龍のパンチが決まり、2ラウンドにはダウンも奪う。間違いさえなければ、合格というスパーリング内容だった。
スパーリングが終わると、昇龍は将士の所に来る。
「どうだった?」
「いいと思うよ。しっかり練習したんだね?」
「おう、お前に負けたくねぇからな!」
「……いつか、リングの上で会えるといいね?」
「ああ、必ずやろう!」
将士と昇龍、固い握手をした。
昇龍のスパーリングを見た後、将士はジムに戻って練習した。本日の将士、いつも以上に気合いが入っている。昇龍の事で、将士にも少なからず影響が出ている様である。
翌日、昇龍はテストに合格した。これで名実共にプロボクサーである。そしてこの日、将士のプロ3戦目が決まった。6戦3勝3敗のオーソドックスのボクサーであり、将士よりも4歳年上である。
「……これは、しっかりと勝たないとな?」
「誰が相手でも、しっかり勝ちますよ!」
「言うね~……だけど、その考えは命取りかもな?」
「どうして?」
「戦績が全てじゃない……16連敗してから、チャンピオンになった奴も居る。リングの上に、簡単な相手は居ない。軽はずみな言葉は避ける事さ」
「軽く言ったつもりは有りません!しっかり勝たないと、みんなに置いて行かれます!」
「……みんな?」
「哲男に隆明?」
「いや、他にも居ます。遅れを取る訳にはいかない!」
「……中台君の覚悟、なかなかいいね~!……喜多君に手塚君、君達も見習う様に!」
「「はい……頑張ります……」」
将士、決して軽口を叩いた訳ではなかった。ライバル達に、しっかりと刺激を受けている様である。
将士の試合は11月5日、約3ヵ月後である。ここから将士はボクシング一色になっていくのだが、それを許さない者達が居た。
「将士〜、何処か遊びに行こうよ〜!」
「私と行こう!」
「私と映画はどう?」
アリサを始め、片瀬と高田も将士と出掛け様としている。篠原会長的には、ボクシングウィーク前の気分転換にいいのではと思っているのだが、喜多と手塚はそうは思っていない。
「遊んでいる暇は無〜い!」
「目指す所はもっと先だ!目指さないなら、福島に帰れ!」
「勿論目指しますよ!遊びは何時でも出来るから、今は後回し!」
『え〜〜〜〜〜!』
一同からはブーイングだが、本気で将士は上を目指している。池本にも1発を入れたい所だろうが、喜多に追い付きたいというのが本音だろう。
「所で将士、お前は俺を目指してるよな?」
「手塚さんを?……どうして?」
「ほら、戦い方なんかクリソツだろ?」
「戦い方がクリリン?……僕、亀仙流じゃないですよ?」
「……わざと間違えてるよな?」
「技と閃きのレーパートリー?…何を言ってんですか?」
「……かわし方が池本さんみたいだ……絶対におちょくってる……」
最近、将士は大分慣れて来たと思う。あの手塚でさえ、適当にあしらっている。手塚は、確かに単純ではあるのだけれど……
ライバルは確実に育ってます!




