将士の武者修行!
更に上へ……
7月も半ばとなり、かなり暑くなって来た。夏である。毎日毎日が最高気温の更新であり、今年は例年よりも暑い様である。
「中台君、明日から沖縄ね」
「はい?沖縄?」
「そう、僕の知り合いのジム生達と合宿!……お付きは……やっぱり喜多君だね」
「やっぱりっすか?だよな~、手塚じゃ心配だもんな~!」
「篠原会長、何で俺じゃねぇんすか?」
「手塚君でもいいけど、貯金有るの?」
「「貯金?」」
「中台君のは出すけど、トレーナーは自腹だからね。そう考えると、やっぱり喜多君でしょ?手塚君、貯めて無さそうだもんね?」
「うぐっ……残金1452円……」
「は~、どうしてそうなんだよ~……あれ?待ってくれよ……俺、金出すの?」
「そりゃそうだよね?手塚君、無いんだから!」
「そうっすね、しょうがねぇっすね!」
「おい、金髪馬鹿坊主!調子込むな!」
「いいから黙って、金出して行って来い!」
「……あの~、僕の話なのに……」
「ごめんごめん、最近2人は西田菌にやられてるんだよ~」
「「ちょっと篠原会長!」」
どうやら、明日より将士は沖縄で合宿となる様である。
練習が終わると、すぐに空港の近くのホテルに移動した将士と喜多。喜多はここでも自腹である。
「……払いたくねぇな~……」
「まぁまぁ喜多さん、会長命令だし!」
「……出さねぇ奴は、言う事が穏やかだね~……」
「うわ~、僻み全快……」
「何だ?文句有るのか?」
「文句しかないですね」
ホテルのロビーで揉めている2人、
「ここで何やってんだ?」
「あれ?池本さん?」
「どうしてここに?」
「どうしてって……明日、沖縄に行くんだよ」
「「!?」」
「俺達もです!」
「篠原会長が合宿だって……」
「な~るほど……篠原さん、やるな~……で、何で揉めてんだ?」
「いや~、篠原会長がトレーナーは自腹だって……」
「小せぇ奴だな~!旅費も宿泊代も俺が出してやるよ」
「本当っすか?」
「俺が嘘言った事……」
「い~っぱい有りますよ!」
「それより、チケット取ってねぇだろ?」
「うお!……忘れてた……」
「よし、今から取りに行くぞ!付いて参れ、タツヤ!」
「……その下り、まだまだ続くんですか?」
どうやら、この合宿は池本も参加の様である。どんな合宿になるかである。
ホテルも夕飯も、池本の奢りである。喜多は遠慮無しにご馳走になっている。
「お前は若いんだ、遠慮するなよ」
将士に向かって、優しい池本である。
ホテルで1泊し、翌日の朝一の便で沖縄に飛んだ3人。飛行機の中でも暇はしない様である。
「喜多、CA軟派しろよ!」
「嫌ですよ!」
「どうして?」
「絶対、戻って言うでしょ?」
「誰に?」
「俺の奥さんに!」
「……事実を少し増長するだけじゃねぇか」
「それが困るんですよ!徳井も被害に合ったでしょ?」
「何の被害だ?記憶にねぇぞ?」
「これだよ……全く……」
ボクシング以外は、何処まで本気なのか分からない池本である。
暫く飛行機に乗り、やっと沖縄に着いた。
「やっと着いた~……どんな合宿なんですか?」
「僕は……とりあえず、やれる事をやります!」
「いや~、選手の方が優秀だね~……ま、すぐに分かるさ」
3人は話ながら歩いていると、
「ヘイ、池本!」
「ヘイヘイ!」
池本を呼ぶ2人の男が居た。
「あれ……もしかして……」
「おう、俺のジムの選手だ」
「え?アメリカの?」
「タツヤ、それ以外に何が有る?」
そんな話をしていると、
「メンソール、純也!」
「おお、尚武!」
「相変わらず、凶悪な顔をしてるさ~」
「お前の顔より幾分かマシだ!」
「そうでもないさ~、純也が怖くて、誰も近付かないさ~!」
「お前の顔のせいだろ?」
「「あっはっはっはっは~!」」
「……将士、絶対文句言ってるよな?」
「間違いないと思うけど……どうして肩組んで笑ってるんだろ?」
尚武と池本、不思議な関係である。
一応付け加えておく。その昔、池本はパンチドランカーの治療の為に沖縄に居た事が有る。その時に世話になったのが、こちらの伊礼尚武である。池本の数少ない、古い友人である。伊礼ボクシングジムの会長でもある。当時は違うジムのトレーナーをしていた。
「こっちが、アメリカの教え子さ~?」
「おう、トム·ソーヤとハックルベリー·フィンだ」
「……トマソン·デュークデス」
「I am クリス·ペタス」
「相変わらず適当さ~、純也、少しは真面目にやるさ~!」
「あ、あの、中台将士です!お願いします!」
「おお、純也とは似ても似付かない真面目さ……俺は好きさ~!」
「ほう、ホモだったのか?」
「何でそうなるさ~?」
空港から賑やかである。そのまま尚武に案内され、伊礼ボクシングジムに着いた。そこには、伊礼ボクシングジムの選手が5人居る。
「今日からここで、5日間の合宿さ~!地獄を見せてやるから、そのつもりでね!」
「尚武が話すと、緊張感ねぇんだよな~!」
「純也は一言多いさ~」
「喜多さん、地獄を見せるって?」
「ここは沖縄だ。暑いし湿気も高い。おまけに、砂浜ばっかりだからな」
「ああ、確かに……キツそうだな~……」
「……顔が笑ってるぞ?」
「だって、やり甲斐有るじゃないですか?」
「そうそう、喜多も参加な!」
「はい?どうして?」
「馬鹿だから!」
「理由になってねぇっすよ!」
「じゃあ、ひ弱だから……もしくは、エセイケメンだからかな?」
「……手塚に吹き込んだでしょ?」
「おう、気にするな!」
「これだよ……」
「喜多さん、敵わないですね?」
「将士、嬉しそうだな?」
アメリカの選手2人と地元の選手5人、そこに将士が加わって合宿となる。何も起こらない方が難しいかもしれない。
「……やっぱりやるんすか?」
「当たり前だよな?」
「勿論、やって貰うさ~!」
とりあえず、やはり喜多は参加の様である。
過酷な合宿……