天川会長上陸!
将士と哲男には、感謝してもしきれない人!
試合の後のダメージ休暇も終わり、将士にはいつもの日常が戻って来ていた。バイトに練習にと、毎日忙しく過ごしている。
ある日の練習後、将士はシャワーを浴びて部屋に戻ろうとしていた。
「中台君、電話」
「僕ですか?」
「そう、菅原君から」
「すいません」
将士は会長室に入り、篠原会長から電話を受け取った。
「はい、中台です」
「将士、大変なんだよ!」
「どうしたの?」
「天川会長、明日来るんだってさ!」
「明日?……随分急だね?」
「そうなんだよ!川上会長から言われてさ!」
「……もしかして、川上会長とスパーリングでもするの?」
「……多分……」
「分かった、明日は川上ジムに行くよ!」
「頼むな」
電話を切って、篠原会長に受話器を渡した将士。
「中台君、天川会長来るの?」
「明日らしいです」
「そう……なら、明日は川上ジムで練習ね。喜多君に手塚君、どっちか付いて行って」
「俺だな!金髪坊主は見た目が悪い!」
「馬鹿な事言うな!どう考えても俺だろ?」
「どの辺が?」
「全体的にだよ!」
「悪人面なのに?」
「エセイケメンよりマシだ!」
「……中台君、君が決めなよ。どっちと行きたい?」
「俺だろ?」
「俺だよな?」
「……篠原会長」
「「!?」」
「そう?僕か~、ご指名ならしょうがないよね!分かった、僕と行こう!」
「おい、将士?」
「篠原会長はねぇだろ~?」
「いやいや、2人よりは頼りになるって事だよ。2人共、しっかり精進してね」
「「……はい……」」
明日、将士は川上ジムで練習する事になった。
翌日、バイトを終えた将士はすぐに着替えた。
「中台君、そんなに慌ててどうしたの?」
「前のジムの会長が、川上ジムに来るんです!」
「そう……でも、慌て過ぎて怪我しないでね」
「はい、気を付けます!では、失礼します!」
将士はリュックを背負って、走って行ってしまった。
「……池本君とだぶるな……」
杉田オーナー、何となく口元が緩んでいる。
川上ジムに着いた将士、
「お願いしま~す!」
元気一杯に入って行った。
「……うるさいな」
「川上、元気が有っていいだろ?」
「限度が有る!」
「お前の馬鹿には限度が無いのに?」
「お前のが馬鹿だろ!」
「お前には負ける!」
「じゃあ、お前は大馬鹿だ!」
何故か言い争いをしている天川会長と川上会長である。
「お久しぶりです、天川会長!今日はお願いします、川上会長!」
「中台君、元気そうだね?」
「はい!」
「中台だったな、この間はなかなかいい試合だったぞ」
「ありがとうございます。でも……まだまだ、納得とはいきません!」
「その通り!」
後ろから声がし、振り向くと石谷トレーナーが居た。
「この馬鹿にも、それくらいの謙虚さが必要だ!」
「痛いっすよ、辞めて下さい!」
石谷トレーナーに首根っこを掴まれる様に、哲男も登場である。
「すいません、遅れちゃって……」
このタイミングで篠原会長も現れた。
「馬鹿2人はどうした?」
「お留守番です」
「篠原さん、クビにしてないですよね?」
「それは大丈夫、なかなか頑張ってますからね……天川会長、ご無沙汰です」
「おう、元気そうで何よりだ!」
話が終わると、将士と哲男は着替えて揃ってロードワークに出掛けた。福島県に居た頃、いつも2人でロードワークに出ていた。懐かしい光景である。
「大次郎、感無量だろ?」
「まさか!まだまだ2人には、夢を見させて貰うよ」
天川会長、口ではこう言っているが、満更でもない表情である。
ロードワークから帰って来た2人、そのままジムワークに移る。ロープから始まり、シャドーボクシングにサンドバッグ打ちといつも通りである。
「どれ、ミットでも持つかな」
天川会長はミットを持ち、それぞれ3ラウンドずつミット打ちをした。乾いた炸裂音が響き、天川会長の手にも2人の成長が伝わっただろう。
「よし、2人でスパーリングだ!」
川上会長の声で、将士と哲男のスパーリングが行わる事となった。
将士vs哲男、スパーリング…………
将士は頭を振って前に出る。左ジャブを放ち、自分から攻撃を仕掛けていく。
対する哲男だが、足を使って距離を取る。左ジャブを放ち、将士に潜り込まれない様にしている。序盤から、2人の駆け引きが始まる。
距離を取る哲男だが、だからといって消極的ではない。右を上手く組み合わせ、時に間合いを詰めてパンチを放っている。4回戦とは思えない動きである。
対する将士だが、こちらは要所要所で哲男のパンチを避け、哲男の懐に潜って行く。上手く潜れれば、そのまま左ボディを繋ぎ、哲男に楽をさせない。
2人は自分の距離に拘り、それぞれの出来得る事をしっかりとやっている。この攻防は2ラウンドも変わらず、膠着のままスパーリングは終了となった。
リングを降りて来た2人、
「判定なら俺だな」
「大丈夫?僕の勝ちだよ!」
「馬鹿なのか?どう見ても……」
「僕のが優勢!」
「ふざけるなよ!」
「至って真面目だよ!」
どちらが勝ったかで言い争いをしている。
「……どっちも負けだ!」
「流石は哲也、その通りだな」
「「どうしてですか?」」
「誰もが納得出来る様に、KOで決着しろ!」
「出来ない君達が未熟なんだよ」
川上会長と天川会長に言われ、返す言葉の無い2人である。
「さて、俺達もやるか?」
「いいのか?俺は親父ファイトに出てるんだぜ?」
「丁度いいハンデだ!」
「言いやがったな~……」
まさかの川上会長vs天川会長である。2人はこの後、3ラウンドのスパーリングをした。年齢を感じさせない、見事なスパーリングであった。将士と哲男、改めて気持ちを引き締めた事だろう。
翌日、
「おう、身体が痛ぇぞ……」
「……帰る気になれん……」
「しょうがない、もう2·3日ゆっくりしていけ」
「そうさせて貰う……」
身体中が痛く、まともに動けない会長2人であった。
これからの2人に期待!