将士の長~い1日!
試合が終わって……
試合の終わった翌日、将士は拳王ジムに顔を出しファイトマネーを貰った。本日はバイトも休みであり、試合でもダメージはさほどなかった。とりあえずは1日のんびりしようと、部屋で横になっていた。
[ピンポーン]
インターフォンが鳴り、将士はドアを開けた。
「将士、遊びに行こう!」
登場したのはアリサである。後ろには、マネージャーが居る様である。
「ちょっとアリサさん、ドラマの撮影!」
「今日はパ~ス!」
「ダメだって~……君からも説得して!」
「僕~?……アリサさん、撮影しないと……」
「え~……将士が一緒なら、別にいいけど?」
「そんな無茶苦茶な……」
「そんな事ならお安いご用!さぁさぁ、君もすぐ着替えて!」
「はい?僕は……」
「いいからいいから、ほら早く!」
「将士、待ってるね!」
将士、強制的に本日はドラマの撮影に同行である。
車に乗り、結局ドラマの撮影場所に行く将士。特に用事が無かった為、将士としては特に迷惑では無かったのかもしれない。
「アリサさん、入りま~す」
ディレクターが伝え、化粧をして着替えたアリサの登場である。現場の椅子に案内されていた将士、そのアリサの姿にびっくりである。
「あれ?中台君だよね?」
「佐伯さん!佐伯さんもドラマに?」
「……一応、これでも主役なんだけど?」
「あ~、すいません。テレビ見ないから……」
「構わないよ。それより、KO勝利おめでとう!」
「ありがとうございます。知っててくれたんですね?」
「まぁね。喜多さんと手塚さん、うるせぇし……」
「あ~、納得……まだまだ、これからですけどね」
「確かにこれからだ。頑張れよ」
「ありがとうございます」
「今日はゆっくりしていきなよ」
「はい」
このまま、将士はドラマの撮影を見学していた。
撮影が始まって約1時間、現場がストップしてざわついていた。
「参ったな~……連絡入れてないの?」
「すいません。こちらの手違いで……」
「これじゃ、撮影出来ないよ~……」
何やら、手違いが有ってエキストラが来ていない様である。
「どうしたんすか?」
「佐伯君……この役のエキストラが来なくて……」
「確か、俺とスパーリングをする役ですよね?」
「そう、そうなんだけど……」
「ぴったりの奴が居ますよ!」
「本当に?」
「はい、そこに……お~い、将士!」
佐伯は将士を呼び、将士は佐伯の元に走って行く。将士は訳が分かっていない様だ。
「何ですか?」
「将士、俺とスパーリングしようぜ」
「やってくれるんですか?是非に!」
「よし、今からやるぞ!」
「はい?今から?」
「そう!スパーリングの撮影!」
「……僕がドラマに?」
「代役だ、頼むよ」
将士がディレクターの方を見ると、ディレクターは両手を合わせて拝む様にしている。
「……僕は、演技出来ませんよ?」
「いいんだよ、俺とスパーリングすればさ」
「は~……失敗しても知りませんからね……」
断れない将士、場所を変えて佐伯とスパーリングである。
ボクシングのリングが用意されている。流石はテレビ局、立派な物を用意している。ディレクターと監督から説明を受け、将士はスパーリングの準備をした。勿論、佐伯も準備をしている。
「何々?将士もテレビデビューするの?」
何故か嬉しそうなアリサである。
将士も佐伯もアップが完了した。さて本番という時、佐伯が将士に声を掛けた。
「なぁ、本気でやろうぜ?」
「はい?元世界チャンプでしょ?」
「だからだよ!リアルが足りねぇんだ!」
「僕じゃ、力が足りませんよ」
「その辺は、俺が上手くやるからさ。将士、本気で来いよ」
「……僕くらいなら、手を抜いても大丈夫だと?」
「それだけの差は有ると思うけど?」
「……いいでしょう。知りませんからね……」
将士の目が戦闘モードに切り替わった。それを分かったのは、佐伯だけである。将士が青コーナーに行く為に振り返ったその背中を見て、佐伯は不敵な笑みをこぼした。どうやら、佐伯は今の将士の実力を直に感じたい様である。
佐伯が赤コーナーに行き、ロープに両腕を掛けた。
「では、本番行きます……用意、スタート!」
スタートの声の後、スパーリング開始のゴングが鳴った。
将士vs佐伯、スパーリング…………
将士は左ジャブを放ちながら、頭を振って前に出る。昨日の試合の疲れも無く、試合さながらの緊張感が有る。動きもそれに近い。将士は本気である。
対する佐伯だが、こちらは左ジャブを放ち、距離を取って左に回る。華麗な動きであり、左ジャブが驚く程に速い。
将士は何度も前に出て行くのだが、その度に佐伯の速い左ジャブで離される。流石に佐伯である。佐伯のジャブに、将士は翻弄されている。
そでも将士は、佐伯の左ジャブをしっかりと観察していた。この辺が、将士ならではなのだろう。試合中に、相手のパンチを覚えていく。将士の本領発揮である。
佐伯の素早いジャブを将士は掻い潜り、そのまま左ボディを佐伯に打ち込んだ。佐伯の顔色が変わり、すぐに将士を離そうとしたのだが、将士はしっかりと踏ん張り返しのパンチを放っていく。
佐伯はこのパンチをかわしながら、将士に細かいパンチを当てる。確かに当たっているのだが、将士はその場所から全く下がらない。細かい佐伯のパンチに対し、1発1発力の有るパンチを返す将士、どっちが優勢か分からない。
将士が左フックを出した時、佐伯はそこに自分の左フックを被せてカウンターを取って距離を置いた。ここでゴングが鳴った。
「カ~ット!」
監督の声が掛かり、撮影終了である。
「バッチリ!良かったよ!流石は佐伯君!……君も、なかなか良かったよ」
撮影は、無事に上手くいった様である。
「……やられたな……流石は現役という所か?」
「クソッ、気合いの入った1発をお見舞いしたかったのに!」
「物騒だな……しかし、これで撮影は助かったよ」
「もしかして、わざと怒らせました?」
「まぁね!」
佐伯は軽く右手を上げ、次の撮影の準備に向かった。
「やられた~……流石は佐伯さんだな……」
将士はヘッドギアを外しながら呟いていた。
「将士!格好良かったよ!」
「アリサさん……ありがとうございます……」
「??……嬉しくないの?」
「いや~……まだまだ遠いと、改めて感じましてね……」
「よく分からないけど、頑張れ将士!」
「はい、ありがとうございます」
この後も、将士は本日は撮影の見学となった。なかなか楽しい1日となった様である。
余談では有るのだが、このドラマが放送された時である。
「喜多、これ将士だろ?」
「おう?何故に将士が?……徳井に連絡しろ!」
「あれ、徳井からラインが……中台君が、何故にドラマに?……だとさ」
「……野郎、大分おいしい思いをしてやがるな?」
「おう、お仕置きが必要だ!」
何故か、喜多と手塚のトレーナー魂に火を付けていた。
流石は佐伯といった所かな?




