喜多との約束!
将士のボクシングはこれから!
放課後、将士は哲男と一緒に天川ジムに行った。勿論、本日も走って向かった。
「「お願いしま~す!」」
「元気がいいね、よろしくね」
「おう、元気は有るみたいだな?……よし、ロードワークからだ!用意しろ!」
「「はい!」」
将士と哲男はすぐに着替えて来る。そのまま、喜多を先頭にして3人はロードワークに出て行った。本日も喜多トレーナーの指導は熱くなりそうである。
ロードワークから帰って来た3人、
「はぁ、はぁ、はぁ……着いて行くのが精一杯……」
「げ、現役の時って…はぁ、はぁ、はぁ……どのくらい走ってたんだろ?……」
「無駄口叩く暇が有るなら、すぐに次に移れ!」
「「はい!」」
将士も哲男も、すぐにロープに移った。
「喜多君、厳し過ぎじゃないかい?」
「このくらい、あの2人なら大丈夫でしょう……俺程度の練習ですからね!」
「喜多君程度は普通じゃないからね!」
天川会長は、少し納得のいかない表情で他の練習生の指導に向かった。
この後の将士と哲男の練習だが、前日同様に厳しい物であった。
将士はロープの後、喜多の指示にてリングに上がり左ジャブや右ストレート、時にワン·ツーを放ちながら見様見真似でシャドーボクシングをする。初めてのシャドーボクシングだが、誰かを追って戦っている様に見え、なかなかの動きになっている。とはいえ、素人が他の素人よりも上手い程度の事である。
哲男は、シャドーボクシングの後にサンドバッグを打つ。昨日の今日という事も有り、かなり気合いが入っている。
「よし、哲男!今日もスパーリングやるぞ!」
「はい!」
本日も哲男は、喜多とのスパーリングを行う。
このスパーリングだが、昨日と同じ映像を見ている様である。何度も放たれる哲男のパンチ、それを触れる事さえ許さずに避けながらパンチを哲男に的確に当てる喜多。時間が進むに連れ、喜多の攻撃時間が増えていき、結果として哲男は喜多にいい様にやられる事となる。
「進歩がねぇな~……やる気有るのか?」
「有りますよ!」
「……口だけ番長め」
「ぐぬっ……」
喜多の皮肉に言い返せない哲男であった。
この後、将士は喜多にミットを持って貰い、本日もミット打ちを行う事となる。将士は息切れを起こしながらも、5ラウンドしっかりと喜多の持つミットを打った。
「はぁ、はぁ、はぁ……喜多さん……」
「何だ?」
「あの……はぁ、はぁ、はぁ……僕も喜多さんとスパーリングがしたいです……」
「俺とスパーリング?……お前が必死に練習したら、最終日に相手してやるよ」
「本当ですか?」
「俺はな……確かに嘘は付いた事は有るが、ボクシングでの約束を破った事は無い!……お前の頑張り次第だ」
「はい、サンドバッグ打って鍛え直します!」
「おう、そうだな」
将士は喜多に頭を下げ、リングを降りてサンドバッグを叩き始めた。
本日の喜多は、この後に大橋とスパーリングを4ラウンド行った。このスパーリングだが、哲男と喜多のスパーリングを見ている様で有った。喜多に触れる事も出来ない大橋に対し、一方的にパンチを打ち込んで行く喜多、天川会長は本日も頭を抱えていた。
「参るよな~……一応、うちのジムの筆頭なんだけどな~……」
天川会長はぼやきまで言っていた。
練習終わりとなり、将士は片付けをしている。本日は哲男も手伝っており、天川会長と喜多と4人での片付けとなっていた。
「しかし……哲男は弱ぇな!」
「今だけですよ!」
「口と実力が伴ってないしな」
「喜多君は厳しいね~……まぁ、確かに菅原君はやる事いっぱいだけどね!」
「そうなんですか?」
「菅原君、一緒に頑張ろうよ!」
「そうだな……」
片付けが終わると、喜多は将士と哲男をリングの上に上げた。そして一緒にリングに腰を降ろした。少し後に、天川会長もリングに上がって腰を降ろした。
「哲男、目標は何だ?」
「来年、全国制覇……何としても……」
「菅原君、なかなか大きな目標だね」
「はい、絶対にやってやりますよ!」
「今年はベスト16だったのに~?……しかも、結構なポイント差だった筈だけど~?」
「ぐぬぬっ……返す言葉も有りません……」
「相変わらず、喜多君は厳しいね~……中台君は?」
「僕は……卒業までにプロになりたいです」
「高校の試合は出ないの?」
「……今からやっても、精々県代表くらいだろうし……長くやってたいんです」
「大丈夫じゃないか?哲男程度で出られるんだぞ?」
「ちょっと喜多さん、酷いですよ~!」
「でも……喜多さんもアマチュアの経験無いんでしょ?」
「確かにねぇけど……将士は走り込みも意外にしっかりしてるし、プロからでも有りかもしんねぇな……哲男のがあっぷあっぷだったもんな?」
「鋭い指摘……でも、中台は確かに走り込みは大丈夫だよな!それに、意外にパワーも有るし!」
「中台君はパワーも有るの?」
「そりゃあもう、4人掛かりでやっても動かなかったし」
「「4人掛かり?」」
「ちょっと菅原君!」
「哲男、どういう事だ?」
「中台がさ、喜多さんから貰ったバンデージを蹴っ飛ばされて、そいつに馬乗りになって殴って……」
「辞めてよ菅原君」
「将士、殴ったのか?」
「はい……成り行きで……」
「そうか……まぁ、今までが有ったから仕方ない事かもしれんが……これからは殴っちゃダメだからな!……俺達ボクサーの拳は、リングの上で使う為に有る。リングの外では、絶対に使うなよ!」
「……ごめんなさい……」
「中台君、喜多君は怒ってないからね。ただし、今回だけだけどね……菅原君も心得ておいて欲しいんだけど、ボクサーは周りが遊んだりしてる時に、どうやって殴り倒すかを練習してるんだ」
「そこからは、俺が伝えます……みんなが遊んだり趣味をやったりする時間を削って、俺達は己の拳を磨いている。徹底的に人を倒す事を極め様と練習してる訳だ。一般人から見て俺達が強いのは当たり前、至極当然の事だ……だから、絶対に外で拳は握るなよ」
「「はい!」」
「……喜多君、なかなかいい事を言う様になったね……成長したよ!」
「失礼な!俺は昔から、しっかりと常識は有りましたよ!」
「そっか~……だから喜多さんは、僕と最初に会った時に蹴りと投げ技しか出さなかったんですね?」
「馬鹿、将士!黙れって……」
「喜多君……暴力を振るったのかい?」
「あれは……不可抗力です」
「……罰として、明日から1週間は中台君と後片付けね!」
「え~……」
「喜多さん、ご苦労様です!」
「……お前が余計な事を言うからだろ!哲男も片付けだ!」
「は?俺も?」
「当たり前だ!な、将士!」
「僕は別に……でも、菅原君と居ると楽しいな!」
「よし、決定!」
「いやいや、天川会長?」
「よろしくね、菅原君!」
「マジですか~?」
この日から暫くの間、喜多と哲男も後片付けを手伝う事になった。なかなか楽しい日々は続いている。
ボクシングは暴力ではない!