将士の戦い!
将士の試合が近い!
隆明とのスパーリングが、将士にとっていい刺激となった様である。成長しているのは自分だけではない。その事を肝に命じ、将士はプロ2戦目に向けて練習に没頭している。
減量が佳境に入るこの時期、ボクサーなら誰もが経験する壁にぶつかる。身体からエネルギーが無くなり、日に日に衰弱していく。自分が弱くなっているのではないかという事と、果たして試合に辿り着けるかという不安。更には、必要以上に相手を過大評価してしまい、無事に戻って来られるかという恐怖なんかもある。この時期のボクサーは、そんな不安や恐怖を払拭する様に、ただひたすら練習に没頭する。中には、その過程で自我をコントロール出来ない者も出て来る。甲斐や佐伯でさえ、駆け出しの頃は苛々したり八つ当たりした事も有った。
しかし、ここでも隆明とのスパーリング効果が有った様である。更には、哲男の試合を直に見た事も影響したのだろう。自分に活を入れる事は有っても、誰かに当たる事は将士にはなかった。
5月も最終日となると、将士のウェートは残り約1kgとなっていた。この時期のスパーリングは、疲労と減量で酷い物である。将士も例に漏れず、納得のスパーリングとはいかない。
「やる気有るのか!?」
手塚から度々厳しい激が飛んでいた。
喜多はというと、大した言葉は吐かない。スパーリングの相手をし、その時に将士のやろうとする事を全部潰していくだけである。こちらは将士に対して、無言の激を飛ばしていた。
6月10日、この日、将士はリミットに達した。
将士の性格からいって、早めにリミットまで落とす事は得策だと思う。特に練習をサボる事はしない為、少しでも早くエネルギー補給が出来た状態での練習が好ましい。付け加えるなら、将士は試合になったら割り切る方ではない。練習で積み重ねた物が出るタイプである。練習で手応えの無い状態は、少しでも早く改善したい。この辺、篠原会長は良く分かっている。
6月20日、将士の練習も仕上げとなっている。
この頃になると、少なからずエネルギー補給が出来ている事と、上手く疲れを抜く事も出来ている。その辺は将士のスパーリングからも確認出来、サウスポーのパートナーを含めた誰とも、なかなかの戦いをしている。時折ではあるが、喜多や手塚にもクリーンヒットする場面が見られ、将士も少なからず手応えは感じている様である。
6月23日、この日も将士の練習は変わらない。スパーリングを中心として、最後の仕上げとなっている。
将士の顔も大分締まっている。戦う男の顔になって来た。濃密な時間を過ごした様である。
この日、少し事件が起きる。
「すいませ~ん、入門お願いしま~す!」
何と、アリサが拳王ジムに入会したのである。
「身体を鍛えるのが目的!」
「……真意は?」
「将士となかなか会えないからさ~……」
「中台君は明後日試合だから、今は絡まないでね!……喜多君に手塚君、アリサさんは要注意ね!」
「「はい、了解!」」
「ちょっと~、3人で酷くない?」
アリサの行動の速さには、有る意味尊敬である。芸能界を[うるさいなら辞める]と言っていたが、本当に辞めそうである。
これだけなら、それ程の事件にはならなかった。アリサが入門をして30分後、
「すいません、入門を……」
「私もお願いしたいんですけど……」
やって来たのは、高田と片瀬である。高校卒業し、東京の短大に入学した2人。将士がこのジムで練習している事を知った為、本日入門に来たらしい。
「あ!アリサが居る!」
「将士にちょっかい出さないでよね!」
「あら~?将士はそれを望んでるのに~?」
「「んな訳有るか!?」」
ここに来て、厄介な事が勃発の様である。
当の将士だが、この騒ぎに全く気付いていない様である。サンドバッグを叩きながら、ひたすらに自分のパンチを確認していた。
6月24日、計量日である。
将士は喜多と計量会場に向かった。本来なら、本日は手塚の筈で有ったのだが、
「おう……腹が……昨日の西田さんとの飯で……」
下痢を起こし、本日はジムで大人しくしている。
「……トレーナーがこれじゃ……」
篠原会長の嘆きが聞こえる。
計量については、将士は特に問題はなかった。1発で計量をパスし、対戦相手と握手をすると足早に会場を後にした。
「どうした、将士?」
「馴れ合いをするつもりは無いので……明日は、僕のライバル達にしっかりと僕の今を見せるので」
将士の言葉とは思えない。それだけ、将士はボクサーとしてしっかりと歩んで来たという事だろう。喜多も少しだけ、将士を頼もしく感じた様である。
ジムに戻った将士、最後の確認の為に軽めにジムワークをし、明日の試合の為に帰った。しっかりとエネルギー補給をし、ゆっくりと休む。試合への備えは万端の様である。
6月25日、試合当日。
将士は喜多と手塚と会場入りした。本日の第7試合に将士が組み込まれている。会場に着くと、将士はすぐに着替えてアップをする。気合い充分といった所だろうか。一旦身体を作った将士、少しクールダウンしていた。その時、
「よう!」
「客席から見てるね!」
哲男と隆明である。
「やぁ!今日は僕の番だからね!」
「期待してるぞ!」
「将士君、頑張って!」
哲男と隆明、軽く将士の拳に自分の拳を当て、控え室から出て行った。
「ライバル達が見てるんだ」
「腑抜けた試合は出来ねぇぞ?」
「やるつもりは無いですよ!」
「中台君、今日はしっかりと見せ付け様ね!」
「はい!」
係員に言われ、将士達は控え室から出て行った。遂に、将士のプロ2戦目が始まる。
どんな試合を見せてくれるのか?




