将士、プロ2戦目!
将士のプロ2戦目が決まる。
将士の東京での生活もすでに1ヵ月が過ぎた。将士も大分慣れ、東京を少しは楽しめる様になっていた。だからといって、ボクシングが疎かになる事な無い。喜多と手塚に激を飛ばされながら、毎日をボクシングで塗り潰していた。
そんなある日、
「中台君、試合ね」
「はい!……何時ですか?」
「6月25日、デビュー戦みたいな試合をしない様にね」
「はい、頑張ります」
「大丈夫っすよ!喜多じゃなくて俺が見ますから!」
「お前が見たら、勝てる物も勝てねぇよ!」
「負け惜しみか?」
「昔から思ってたけど……本当に馬鹿だな!」
「お?無能君、俺が結果出すのを恐れてるのか?」
「……調子に乗るなよ、金髪極悪人面!」
「うるせぇ!エセイケメン!」
「……中台君、不安だろうけど頑張ってね」
「はい、頑張ります」
将士のプロ2戦目が決まった。
試合が決まったからといって、将士の練習が変わるという事は無い。スパーリングは喜多と手塚を筆頭に、拳王ジムのプロやアマチュアがやってくれる。その他の練習は、天川ジムの頃と殆ど変わらない。
毎日をどれだけボクサーとして生活出来るか、どれだけボクサーとして精進し、どれだけ自分に厳しく出来るか、詰まる所これだけである。将士は強くなる為、毎日必死に練習している。
5月に入り、試合に照準を合わせて行く。
今回の相手だが、プロ3戦目で2戦2勝のサウスポーである。残念ながら、将士はサウスポーとの対戦経験が無いのだが、拳王ジムにはサウスポーのプロが居る。将士はほぼ毎日、そのボクサーを含めて8ラウンドのスパーリングをしていた。勿論、喜多と手塚もそのスパーリングに参加である。
スパーリングが終わると、すぐに篠原会長がミットを持つ。
「勝つ気有るの?」
「倒すパンチ!」
「遅い遅い!」
篠原会長、気合いの入ったミット持ちである。練習終わりには、将士はヘトヘトである。
「将士、勝つ気がねぇならさっさっと帰れ!」
「有りますよ!」
「なら、休まずロード行って来い!」
「今から行こうと思ってたんですよ!」
将士は喜多と手塚に急かされる様に、ジムから出て行った。
「喜多君に手塚君、厳し過ぎないか?」
「大丈夫っすよ、将士ですからね!」
「そうそう。甘いくらいですよ!」
「……まぁ、あれくらいで参っちゃ困るけどね」
将士の育成について、厳しく行う事は全員の理解の様である。
4月が終わろうとしている4月27日、この日将士は篠原会長からボクシングのチケットを貰う。
「早めに練習上がって、試合を見て来る様に」
「将士、見る事も勉強だからな!」
「今日は特別だ!」
篠原会長だけでなく、喜多と手塚からも意味が有りそうな言葉を言われた。将士は練習を急ピッチで終わらせ、試合会場に向かった。
(……後楽園ホールなら、プロライセンスで入れるけど……)
将士は少し、疑問を抱いている様である。
試合が始まる少し前に将士は会場に着いた。チケットを見せてすぐに中に入った将士、丁度プロテストのスパーリング中である。将士は観客席に腰を降ろし、スパーリングをゆっくりと見ていた。
プロを目指しているボクサー達が最初に通る登竜門、近い将来のライバルが居るかもしれない為、将士は集中してスパーリングを見ている。そのスパーリングだが、1人の選手に将士は目を奪われる。ジャブの切れやフットワークのスピード、何よりパンチを当てるタイミングが他の選手よりもずば抜けている。そのスパーリングが終わると、その男はリングを降りて将士の方に走って来た。
「やぁ、将士君!」
「隆明君、流石だね!」
「どうだった?」
「次はデビューだね?」
「中台君、そんなに褒めないでよ。隆明はまだまだだからね」
「徳井さん、お久しぶりです」
「叔父さんはきついな~……でも、確かにこれからだけどね」
「中台君、今日は敵情視察かな?」
「敵情視察?」
「……菅原君のデビュー戦でしょ?」
「そうなんですか!?……そうか~、哲男君の試合か~……何故に敵なんですか?」
「……隆明、中台君は天然なの?」
「俺より叔父さんの方が分かってんじゃないの?……将士君、これ」
隆明から本日の試合の組み合わせを見せて貰った将士。第4試合に哲男の試合が組み込まれている。
「……バンダム級……僕と同じ階級か~……」
「俺はSフライ級の予定……近い階級だし、スパーリングとかお願いね!」
「うん、こちらこそ!」
「親友が敵になった感想は?」
「敵じゃないですよ!拳を合わせるまで……いや、合わせても僕と哲男君は友達です!」
「……それで戦えるの?」
「全力で僕の全てをぶつけるだけです。哲男君も、きっとそうします」
「……俺も、階級上げた時は全力でぶつかるからね!」
「勿論!お互いに全力でね!」
将士と隆明は握手をした。
プロテストが終わり少し経つと、試合が始まる。メインイベントは日本タイトルである。川上ジムのボクサーがタイトル挑戦である。
試合は順調に進み第4試合、哲男の出番となった。
哲男がリングに上がるが、身体はかなり絞れており、しっかりと作り込んだ事が分かる。それだけでも期待なのだが、試合はその期待以上であった。立ち上がりからスピードに乗っている哲男、素早いワン·ツーから30秒程でダウンを奪うと、立ち上がった相手にラッシュを掛ける。結局そのままレフェリーが試合を止め、1ラウンド1分2秒で哲男のTKO勝利となった。
試合後、哲男が将士の元に来た。
「よう、将士!」
「哲男君、ナイスKO!」
「おう、お前に遅れは取れないからな!」
「……バンダム級なんだね?」
「おう、石谷トレーナーがうるせぇんだよ~!」
「いつか、僕とも戦うね?」
「おう、全力で勝負だ!」
「望む所だよ!」
「でもな~……俺はまだまだだよ~……石谷トレーナーから、今日もダメ出しされたしな~……」
「あれで?」
「あれだからだろ?」
「……僕も頑張らないと……」
「どうした?」
「何でもない!……よし、僕は帰って練習だ!」
「俺も……先輩のタイトルマッチだっけ……」
「哲男君、休む事も仕事だよ」
「分かったよ~……将士もうるせぇな~……」
将士は哲男に軽く右手を上げ、試合会場を後にした。そのまま拳王ジムに戻った将士、そのまま練習を再開した。この光景を見た篠原会長、満更ではない表情である。
翌日には、隆明のプロテスト合格が確定した。遂に、3人が同じ場所に辿り着いた。
思わぬ所で気合いが入った。今度は将士の番だ!




