将士、東京に立つ!
遂に東京に到着!
新幹線は、文明の力である。福島県を出て数時間後、将士は東京に着いていた。着替えとボクシング用品をバッグに詰め、遂に将士はボクシングを中心に生きるのである。
「よう、待ってたぞ」
東京駅に迎えに来てくれたのは喜多である。将士のボクシングのきっかけであり、将士の目指す男である。
喜多に連れられ、将士は何度も合宿等で使った拳王ジムの合宿所に案内された。今日から、ここが将士の生活の場である。
「自炊だからな。荷物置いたら、バイト先を紹介するよ」
「拳王ジムでバイトじゃないんですか?」
「違う所でやって貰う。理解有る職場だ」
荷物を置いた将士、喜多の後を追う様にジムから出て行った。
暫く歩くと、不意に喜多は立ち止まる。
「ここがお前のバイト先だ」
「……杉田生花店……花屋ですか?」
「そうだ、ここがお前の職場だ。入るぞ」
「あ、待って下さいよ!」
喜多と将士は花屋に入って行った。
「ど~も~!」
「やぁ、喜多君じゃないの?随分久しぶりだね?」
「いや~、忙しくって……」
「チャンピオンになって、ここの事なんて忘れてたんじゃないの?」
「……そ、そんな事無いっすよ~……あ、あの、こっちが将士で……」
「中台将士です。よろしくお願いします」
「あ~、君が……これからよろしくね……池本君とは、大分タイプが違うね?……お~い、バイトの子が来たぞ~!」
「は~い……あら、随分と優しそうな人ね?……店長の杉田夏子、よろしくね」
「中台将士です。お願いします」
「僕は、オーナーの杉田俊夫、改めてよろしく」
「はい、お願いします」
「……あの~、池本さんは時々顔を出してるんすか?」
「出してるよ~、喜多君手塚君と違ってね!」
「おふっ……」
「たまにだけど、徳井君と藤沢君も来てるわよ」
「おう……あの野郎、抜け駆けか?」
「……喜多君が薄情なの!」
「手塚君と一緒でね!」
「あ、あの、ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「池本さん、ここで働いてたんですか?」
「懐かしいな~、世界チャンピオンになっても働いてたよ~……」
「辞める時、深々と頭下げて……この子にとって、ここは特別なんだって……その時、改めて思ったものよ……」
「へ~、池本さんがね~……」
「どうした、将士?」
「いや……似合わないな~って……」
「あっはっは、確かに似合わないよね?」
「見た目怖いしね!」
「……池本さんの事、そんな風に言えるのは2人だけっすよ……まぁ、池本さんも感謝してんじゃないっすかね?」
将士のアルバイト先は、池本がその昔に働いていた所である。何とも、運命的な物を感じる。
本日の将士、とりあえずはバイトの初日をこなした。色々覚える事は有るのだが、オーナー夫婦は優しい為に楽しく終える事が出来た。
バイトは15時まで、そこからは拳王ジムに戻ってボクシングである。将士にとって、1番の目的はこれである。
「おう将士、しっかり走って来い!」
手塚に言われ、ロードワークから開始する将士。上京初日だが、特に何かが変わる事もなく、将士は練習に集中である。
ロードワークから戻った将士、そのままジムワークに移った。天川ジムでの練習とそれ程変わらず、ロープスキッピングからシャドーボクシング、サンドバッグ打ちと次々と練習をこなしていく。
「中台君、ミットやるよ」
「はい、お願いします!」
本日、将士のミットを持つのは篠原会長である。篠原会長も、将士に一目置く人物の1人である。
[パァン!]
[パパァン!]
歯切れの良い打撃音が、篠原会長のミットから響き渡る。将士の身のこなしやハンドスピード、パンチ力等成長が見て取れる。デビュー戦で苦戦した事も含め、将士は全ての事をプラスに変えている様である。
1日の練習が終わり、将士は自分の部屋に戻って着替えてからロードワークに出た。これが将士の1日の終わりであり、ルーティンである。
ロードワークから帰ると、将士は洗濯をした。
「……しまった、ご飯が無い!」
洗濯機をそのままに、急いで夕飯を買いに将士は出掛けた。
近くにスーパーが有り、将士は適当におかずを買い、米も10kg買った。お金の事も有り、将士はしっかりと自炊するつもりの様である。
合宿所に戻った将士、米を炊飯器にセットした。
[ピンポーン]
(……誰だろ?……僕がここに居る事、知ってる人居たっけな~?)
[ピンポーン]
「は~い、今開けますから!」
将士は急いでドアを開けた。
「ま~さし、来ちゃった!」
「うわ、アリサさん!?」
「今日から1人暮らしなんでしょ~?寂しいと思って!」
「……僕は別に……」
「強がんないの!夕ご飯、作って上げる!」
有無を言わさず、アリサは将士の部屋に上がり込んだ。そのまま台所に立ち、勝手に買って来た材料で料理を始める。
[ドンドン]
「お~い将士、開けろ!」
「わぁ、喜多さん、ちょっと待って下さいよ~!」
「何を待つんだ?……開いてるな」
喜多は勝手に入って来た。
「将士、飯でも……」
「あら、喜多君」
「……将士、これはどういう事なんだ?」
「これは~……どうしたんでしょう?」
「……上京初日から、女を部屋に上げてるし……しかも、それがアリサさんだと~……お前、ボクシング舐めてるのか?」
「いや、僕は頼んでないですよ!」
「あら、私が勝手に来たのよ!将士が寂しいだろうと思って!」
「……将士がここに居る事……徳井だな……」
「良く分かってるじゃない!」
「……将士、お前だけいい思いはさせん!」
「いい思いはしてないですよ!」
「このクソガキめ!ちょっと待ってろ!」
喜多はスマホを出して外に出てしまった。
「喜多君、どうしたのかしら?」
「認識無いんですね……それより、アリサさんがここに居ちゃまずいんじゃないですか?」
「何で?」
「人気商売だし……」
「プライベートまでどうこう言われたくないわよ!それに、引退したって構わないし~!」
「うわぁ……最強かも……」
将士がアリサにタジタジになっていると、
「将士~、女を連れ込んだだと~!」
「中台君、不謹慎だよ!」
手塚と篠原会長を連れ、喜多が戻って来た。この後、将士は喜多·手塚·篠原会長の説教を受けてなかなか夕飯が食べられなかった。
「……うちの姉がすいません……」
徳井がアリサを引き取りに来たのは、将士が1時間の説教を受けて小休止を挟んでいる時であった。初日から、本当に大変な将士である。
これからがボクサーとして……楽しそうです……