旅立ちの時!
高校時代が遂に終焉……
授業が打ち切りとなったが、時間の流れが止まる事はない。受験に一喜一憂する者も居れば、就職活動に奮起する者も居る。将士と哲男は、とりあえずは東京に行く事が決まり、兎に角練習の毎日である。
「中台に菅原、遊び行こうよ!」
「卒業旅行に行かない?」
「ゲーセン行こうぜ!」
色々と誘いは有るのだが、ボクシングが最優先の2人、結局2人でボクシングの研究をしたりトレーニングをしたりと寝ても覚めてもボクシングであった。
月日は3月1日、遂に将士達の卒業式となった。
基本、卒業式は3年生しか参加しない。部活をやっている1·2年が居るが、それだけである。式が終わるとクラスに戻り、最後のホームルームを行う。
「さて、君達は本日で卒業となった訳だが……これから先も人生は続きます。胸を張って、人生を歩める様に……よし、最後の挨拶。日直!」
担任から、最後の言葉を頂いて無事に卒業となった。
将士は哲男と話ながらグラウンドに降りて来る。
「中台先輩!」
「菅原先輩!」
「「え?俺達?」」
「「はい、第2ボタンを下さい!」」
「おふっ……こんな事が俺にも……俺ので良かったら、どうぞどうぞ……将士?」
「………………………………」
「将士!?」
「あ!?……びっくりしたよ、幻聴が聞こえた」
「どんな幻聴?」
「第2ボタンが欲しいって……」
「……現実だな……ほれ、困った顔してるぞ?」
声を掛けて来た女生徒、不安そうな表情である。
「ぼ、僕ので良ければ……汚いけど……」
「ありがとうございます!大切にします!」
「私も大切にします!」
2人は頭を下げ、走って行ってしまった。
この後、将士は片瀬と高田、雨谷に絡まれる事になるのだが、将士は哲男とすぐに学校を後にした。卒業したという事は、遂に東京に行くという事になる。
一旦家に帰って着替えた2人、そのまま天川ジムに直行した。
天川ジムでの練習は、これといって変わらない。いつも通りの練習をし、いつも通りの事をしていた。練習終わりの将士のバイトも変わらず、哲男は勉強から解放されたのに、会長室で何やら本を読んでいた。片付けも終わり、帰ろうとした2人に天川会長が声を掛けた。
「少しいいかな?」
「大丈夫です」
「俺も、特に用事無いんで」
「そう、リングに座ろうか?」
3人でリングに上がり腰を降ろした。
「卒業おめでとう」
「「ありがとうございます」」
「何時、東京に行くんだい?」
「僕は、来週には行くつもりです」
「俺は……明後日ですね」
「哲男君、聞いてないよ?」
「これからは、お互いに自分の道を……だろ?お互いに、頑張ろうぜ」
「……楽しみはいっぱい有るが、心配は無さそうだね……ここからは、老いぼれの勝手な一人言だと思ってくれ……必ず挫折は有る。失敗は常に付き物だ。力が全てのボクシング、それを覆すのもまた力だ。しかし、願わくば、ひたむきに努力した者が成功を手にして欲しい。そして、君達なら成功を手に出来ると思ってる……挫折も乗り越えて、ボクサーとしても人間としても、大きくなってくれ」
「「はい、ありがとうございます!」」
天川会長からの言葉、将士と哲男には響いただろう。
哲男の旅立ちの前日、哲男は将士の家に呼ばれた。将士の母親が、これからの哲男の為に料理を振る舞いたいとのことであった。哲男は心から美味しいと思う料理を食べ、これからの事に気を引き締めた。
翌日、哲男の上京を見送る為にクラスメイトや部活の後輩が集まったが、将士の姿はそこには無かった。これからは仲間でなくライバル、哲男もその事は理解しており、特に驚く事も無かった。
翌週の火曜日、将士は母親と話をしていた。
「母さん、明日東京に行くよ」
「しっかりね」
「うん……色々迷惑掛けて、我が儘で東京行って……本当にごめんなさい」
将士は頭を下げた。
「頭を上げなさい将士!…あなたはこれから、上を目指して歩んで行くんでしょ?……そんな人が、簡単に頭を下げないの!」
「……でも……」
「でもじゃない!納得するまで、徹底的にやりなさい!……疲れたら、たまには休みに帰って来ればいいんだから」
「……ありがとう、母さん」
「明日、見送りには行かないわよ」
「うん、納得して戻って来るよ」
「頑張んなさいよ」
「大丈夫!僕は母さんの息子だからね」
どうやら、将士は母親としっかりと話が出来た様である。
翌日、将士は朝早くの新幹線乗り場に居た。福島を離れ、1人東京でボクシングをやる為である。誰にも旅立つ時間は伝えておらず、見送りは誰も居ない。
(勝手に始めたボクシング、これがきっと正解だと思うんだよね)
将士は到着した新幹線に乗り込もうとした。
「中台君」
「中台!」
「あれ?天川会長に橋本トレーナー……」
「俺はさ、たまには会うと思うけど……」
「中台、俺にも挨拶くらいしろよ!」
「すいません……でも、僕が勝手に始めたボクシングだから……」
「それでもな、俺はお前に期待してんだ!しっかりやって来いよ!」
「ありがとうございます。僕、頑張ります!」
「おう、しっかりな!」
そのまま、天川会長と橋本トレーナーは将士を見送った。
遂に将士も旅立ちを迎えた。将士の向かう所は、SKT拳王ジム。喜多と手塚がトレーナーを務め、篠原会長が見守るジムである。将士のこれから、少し期待したい。
新たな挑戦へ!




