将士の進路!
将士も哲男も、そろそろ卒業。
12月も半ばを過ぎ、高校は冬休みとなっている。将士達3年生は、進路の事で大忙しである。
「将士さん、どうするんですか?」
「大学に行くんですか?……哲男さんは、大学無利っすよね?」
「あのなぁ……確かに大学行かねぇけど、受かる大学は有るの!」
「あっはっは、哲男君は大変だね?僕は、東京には行こうと思ってる……進学はしないけどね」
「勿体ないよな~、哲男さんの勉強見てるんでしょ?」
「先生とか、似合うと思うけどな~!」
「おお!確かに将士にぴったりだ!」
「……成りたくなったら、大学目指すよ」
後輩達は、将士と哲男の進路に興味津々である。
もう1つ忘れてはいけない事、それは、この時期はクリスマスという事である。将士も哲男も気にはしていないのだが、周りはそうもいかないらしい。男女問わずそわそわしていた。
そんなある朝である。将士はロードワークを終えて哲男と午前中からボクシングについて話していた。毎度の事ながら、喜多達のビデオを見ながら、ああじゃないこうじゃないと色々動きながら話している。
将士達がそんな事をしている昼を少し過ぎた頃、180cmを越える大きな男が弁当を買いに来た。
「すいません、弁当……どれにしようかな?」
「いらっしゃいませ!1番人気は、拳カレー弁当になります!」
「……馬鹿の顔を思い出すから辞めときます……しかし、唐揚げは食べたいな……」
「拳骨唐揚げ弁当はどうですか?拳骨唐揚げ3つ入って、700円ですよ?」
「おお!この大きさの唐揚げが3個!……よし、それを唐揚げ大盛りでお願いします!」
「唐揚げ弁当の唐揚げ大盛り?」
「はい、唐揚げの大盛りです」
「……6個でいい?」
「はい、願ったり叶ったりです」
「……900円でいい?」
「いや、1000円払います」
将士の母親、少し首を傾げながら弁当を作っていた。このタイミングで、将士と哲男が下に降りて来た。
「母さん……おわ、池本さん!」
「久しぶりっす!」
「おお!タツヤにブンタじゃねぇか?」
「「それ、何時までやるんすか?」」
「はい、お待たせ……お知り合い?」
「いや、俺はこいつ等の尻は知りません!」
「……哲男君、ボケだよね?」
「多分……甲斐さんと一緒で、ボクシング以外はポンコツなんじゃねぇの?」
「失礼だな君達は!俺のギャグが分からないとは、精進が足りないんじゃないのかね?……おっと、こちら1000円」
「ああ、ありがとうございます……あの~、ボクシングをやってる方ですか?」
「はい、少~しだけやってました」
「絶対違うよね!ボクシングしかやってなかったよね?」
「元世界チャンピオンが、少~しは無いっすよ~!」
「え?そんなに凄い人なのかい?」
「「勿論!」」
「……いや、俺はそんなに……奥さん怖いし……」
「あっはっは、元世界チャンピオンが奥さん怖いとはね!あんた、なかなか面白いよ!また、お弁当買ってね!」
「母さん、カレーのレシピの大元の人だよ」
「あら?それは、本当にありがとうございます」
「いやいや、気にしないで下さい」
「所で、どうしたんすか?」
「遊びに来たって訳でも無いでしょう?」
「おう、天川会長に用事有ってな……ついでに、お前達の練習も見てやるよ」
「「マジっすか?お願いします!」」
「すいませんね~、息子まで世話になって……」
「いやいや、こいつ等には、後で厳し~い練習させますんで……では、失礼します。お前等、遅れるなよ」
「「はい!」」
何故か、本日は池本が来ている。何が有るか分からないが、池本の怖い者は奥さんとの事らしい。
将士と哲男が天川ジムに行くと、天川ジムはすでに賑やかになっていた。
「お~、磯○カ○オ!」
「加藤夏雄だ!」
「何だよ~、ここに居たのか?甲斐に負けて、プロになったんだな?」
「うるせぇ!甲斐は関係ねぇ!」
「そんなの関係ねぇ♪そんなの関係ねぇ♪そんなの関係ねぇ♪ハイ、○ッ○ッ○ー!」
「……放送は大丈夫なのか?」
こんなやり取りの最中、将士と哲男が入って来た。
「将士~、こいつが相変わらずでさ~……」
「池本さんなら、通常運転でしょ?」
「タツヤは分かってるね~!甲斐にも、教えて上げてな!」
「将士、練習練習!着替えようぜ!」
「うん、今日もしっかりだね!」
将士と哲男、夏雄の事は置いといて更衣室に消えて行った。
本日の練習だが、池本が見ている為にいつも以上に厳しく感じられた。特に夏雄だが、
「甲斐にまた負けるのか?」
「オリンピックもダメ、プロでもチャンピオンになれない……どうする?西田になるか?」
事有る事に池本に言われ、癇癪を起こしながらいつもの倍近く動いていた。
将士と哲男もいつもに動いている。将士はデビュー戦をした事、哲男はプロテストに受かり将士のデビュー戦を目の当たりにした事、この事が2人を変えて来ていた。池本の目から見ても、それはいい傾向の様である。
夏雄のスパーリングで、将士と哲男が相手を努めて、本日の練習は大まかに終了である。後はいつも通りの練習と筋力トレーニングを行い、将士はバイト、哲男は勉強へと移った。
池本は天川会長とジムの外へと出て行った。
天川ジムの近くの公園、そこのベンチに池本と天川会長が座る。
「はい、缶コーヒー……ブラックでいいんですよね?」
「悪いな。で、話は何だ?」
「分かってるでしょ?」
「……中台君に菅原君のこれから……かな?」
「どうします?……将士は東京に行くみたいですけど……」
「若いうちに、都を経験する事は悪い事じゃない。しかも、夢を持って行くなら尚更な」
「まぁ、将士は大丈夫でしょうけど……哲男はどうですか?」
「あいつは~……才能は有るし、色々可能性は有る……しかし……甘さが抜けないんだよ、何処か惚けてやがる!」
「……どうでしょう?川上ジムに預けては?」
「川上の所か……あそこ、厳しいだろ?」
「俺は、あのジム出身ですよ。厳しいと思った事は、1度も有りません」
「それは、お前が特殊だからだよ」
「いや、あそこは会長もトレーナーも、天川会長と同じくらいにボクサーを大事に思ってくれています。それが分かれば、厳しいなんて思いませんよ」
「……菅原君に、それが分かると?」
「天川会長の教え子でしょ?分からなければ、天川会長が川上会長に土下座でもすりゃあいいんですよ!」
「何で俺が?川上に頭を下げるのは、お断りだ!」
「だったら、後少しの時間で、しっかり鍛えればいいんじゃないっすか?」
「……いつも思うが、お前は偉そうだな?」
「な~に言ってんすか?俺は偉いんですよ!」
「否定しろ!」
「嫌ですね!将士と哲男が立派なボクサーになったら、否定しますよ!」
「言ったな、この野郎……よし、しっかりと見とけよ!」
「は~い、見てますよ~!」
池本はこのまま東京に戻り、天川会長はジムに戻った。
ジムの戸締まりが終わった後、
「中台君に菅原君、君達は気合いが足りない!明日から、ロード倍ね!」
「「うっ……はい……」」
「声が小さい!」
「「はい!」」
結構理不尽に、天川会長から練習の追加を言い渡された。
「……絶対、池本さんだよな?」
「間違いないね……あれだけ天川会長がムキになるんだから……」
「何か言った?」
「「いえ、言ってないです!お疲れ様でした!」」
「うん、走って帰る様に!」
「「はい!」」
将士と哲男、どうやらここから、更に厳しく練習となりそうである。
ここからが、本当の意味で正念場!




