将士のデビュー戦!
将士のデビュー戦が間近……
時間が過ぎるのは早い物である。インターハイが終わり夏休みが明けたと思ったら、暦はそろそろ9月を終わろうとしていた。
哲男は、将士に触発されて高校在学中にプロボクサーになるらしく、国体は辞退していた。隆明は予定通り、国体出場との事である。10月の半ばには国体が開催される。
この国体だが、隆明は見事に優勝した。隆明はこの年、見事に3冠を達成した。
将士はというと、こちらはデビュー戦が決まった。11月15日に試合となり、その日に哲男のプロテストとなっていた。ちなみにだが、夏雄は一足早くデビュー戦をやっており、1ラウンドで見事なTKO勝利をしていた。
「俺に続けよ、将士!」
「はい、頑張ります!」
「哲男は……どうでもいいや!」
「これだよ……筆記テストで落ちた癖に」
「おい、将士?」
「僕は言ってませんよ」
「じゃあ何で?」
「喜多さんからライン貰いましてね……本当に馬鹿!」
「うるせぇ!今はプロだから、全く問題無いんだ!」
夏雄と哲男、相変わらずである。
デビュー戦が決まったとあり、将士の気合いは今まで以上である。橋本トレーナーが止めないと、いつまでも練習を続けてしまいそうである。
11月12日の夕方、将士は拳王ジムに向かった。哲男と橋本トレーナーも一緒であり、拳王ジムで試合までの調整をする。ウェートもしっかりと落ちており、将士は準備万端といった所だろうか。
拳王ジムに着くと、将士は軽めに身体を動かし、改めて自分のチェックをした。顔付きも、何処か大人びている。成長していると言わざるを得ない。
哲男も動きは悪くなく、プロテストに向けてバッチリの様である。橋本トレーナーは、相変わらず喜多と手塚と揉めている。
11月14日、計量日。
将士は橋本トレーナーと会場に行き、計量をした。50gアンダーで計量をパスし、明日の試合に備える事となった。将士はバンダム級であり、そこまでウェートは高校時代と変わらない。少し余裕が有ったのかもしれない。
拳王ジムに戻ると、将士はすぐに最後の練習を始めた。対戦相手と対峙し、自分のデビュー戦という事を肌で感じた様である。
哲男は翌日のプロテストの為、こちらも最後の確認をしていた。
「おい、筆記テストで落ちるなよ!手塚でも受かったんだから!」
「でもは余計だ!」
「気を付けます。加藤さんみたいには成りたく無いんで……」
「「うむ、それがいい」」
哲男は、筆記テストにも気を抜いていない。
将士のデビュー戦当日、先に会場入りしたのは哲男である。筆記テストを終え、スパーリングの準備をしている時に橋本トレーナーが合流した。
「筆記、どうだった?」
「大丈夫でした!」
「うんうん、それが普通なんだがな……」
哲男、筆記テストは合格の様である。
このままスパーリングとなった。哲男はSバンダム級、7番目のスパーリングである。
このスパーリングだが、哲男はやや緊張が見て取れた。いつも以上に丁寧な試合の入りを見せ、基本通りに左ジャブから試合を組み立てていた。
1ラウンド2分過ぎ、緊張が解けた哲男は前に詰めて来る相手に左のフェイントを見せて右フックを放つ。これが物の見事に決まり、相手はそのまま大の字にダウン。スパーリングはそこで終了となった。
スパーリングを終えた哲男、リングから降りて橋本トレーナーと話をしていると、将士が喜多とやって来た。
「将士!」
「哲男君、どうだった?」
「まあまあかな……お前はどうだ?」
「うん、僕もまあまあ」
「どうだった?」
「喜多さん……ダウン取って終了です」
「大丈夫だと思うよ。俺が教えただけ有る!」
「もっちゃん、お前だからこの程度なんだよ」
「何だよ、文句有るのか?」
「文句しかねぇわ!」
「……哲男君、この2人はいつになったら仲良くなるの?」
「無いな~……学習しねぇもんな~……」
いつも通りの喜多と橋本トレーナーである。
本日の将士の試合だが、喜多がセコンドに入る事になっていた。試合の時間が近付くと、篠原会長と徳井も来ていた。手塚は本日はジムを見ている。篠原会長とのじゃんけんに負けた様である。徳井は西田会長に内緒で来たらしい。
将士は着替えると、試合を逆算してアップを始めた。表情は柔かく、かなり落ち着いている様に見える。
「喜多、中台君はどう?」
「まあまあじゃないか?……なぁ、もっちゃん?」
「そうだな~……中台は、いまいち読めないんだよな~……飄々としてて、何とも掴み辛いんだよな~……」
「橋本君は心配だな~……喜多君、しっかりね」
「それなんですが~……俺もいまいち分からないんすよ~……大丈夫だろうとは思いますけど……」
「……徳井君、トレーナー陣が心配だね?」
「本当に……中台君、大丈夫かな~……」
試合前、トレーナー陣が心配という思わぬ不安材料が露呈した。とはいえ、やるのは将士である。徳井も篠原会長も、そこまでは心配していない様である。
試合が始まり、将士は第5試合である。哲男と篠原会長と座っている徳井、パンフレットを見ていた。
「へ~、中台君の相手は宮村っていう、茨城県の……三澤ボクシングジムの選手か~……」
「どうしたの、徳井君?」
「いや、中台君の相手、どんなだろうと思って……」
「徳井さん、将士なら大丈夫ですよ!」
「……そうだね」
「心配かい?」
「少し……どうも気になりまして……」
徳井は何か心配をしている。何かが引っ掛かっていた。
この引っ掛かりは、すぐに解消される事になる。将士の試合になり、両選手がリングインをした時に分かった。
「あ~!坂本さん!」
「あ、本当だ!」
「誰ですか、徳井さん?」
「甲斐の佐々木ジム時代のトレーナー、茨城でトレーナーしてるって言ってた……」
「あの跳ねっ返りをしっかりと練習させてたよね?」
「……西田馬鹿会長も連れて来れば良かった……」
「西田君は、一緒にやってたんだよね」
「……凄いんすか?」
「トレーナーとしては有能だね……池本さんも一目置いてたもんな……」
「……少し心配だね」
「大丈夫っすよ!」
思わぬ所に伏兵が存在していた。将士のデビュー戦、どんな結果になるのだろうか。
さぁ、将士の出番!