プロへの一歩!
遂にプロテスト当日!
プロテスト当日、将士は夏雄と一緒に朝のロードワークに出掛け、軽く朝食を食べてから会場に向かった。
「将士、後で行くからな」
「はい、待ってます!」
「夏雄、筆記テストで落ちるなよ!」
「落ちねぇよ!馬鹿にするな!」
本日、プロテストに来てくれるのは喜多の様である。
会場は後楽園ホール、試合の前にプロテストが組まれている。将士と夏雄は体重計に乗った後、最初に筆記テストを受けた。全てはここからである。
テストはすぐに返される。
「80点未満の者は研修。大丈夫だった者、スパーリングの準備」
将士は夏雄の所に行く。
「ウォーミングアップやりましょう」
「……………………」
「どうしました?」
「……研修受ける……」
「はぁ?」
「80点取れなかったの!」
「……アマチュアでやってたんですよね?」
「悪いかよ!別に、研修すれば問題ねぇだろ!」
「……脳筋馬鹿……」
「あぁ?何だって?」
「頭、少しは使って下さいね。哲男君の方が、頭いいんじゃないですか?」
「それは酷いだろ?」
「……事実ではないでしょうか……喜多さんに報告だな」
「待て待て、それは黙っておこう。な、頼むよ!」
「……分かりました、言いません」
「本当か?ありがとうな!」
将士は1階の試合会場にて着替え、軽くエネルギー補給をしてからゆっくりと身体を動かし始めた。夏雄は、数人と一緒に研修を受けている。
夏雄も将士と一緒にアップを始めて30分程、喜多が会場に到着した。
「おう、どうだ?」
「まあまあです」
「俺は問題無し!」
「……筆記テスト……」
「黙ってろよ!」
「何だ?どうした?」
「何でも無いですよ!な、将士?」
「……今はね……」
「???」
喜多は少し不思議そうな顔をしたが、将士と夏雄はアップを再開させた。残るは2ラウンドのスパーリングだけである。
一応の説明だが、筆記テストは落ちても研修を受ければ問題無い。あくまで、合否は実践で決まる。これが本当のテストと言っても過言ではない。スパーリングは、軽い階級から行う。将士はバンダム級、夏雄はフェザー級である。
スパーリングが始まる。将士は3番目、夏雄は6番目のスパーリングである。将士も夏雄も、しっかりとアップをしながら準備を待つ。
将士にグローブが渡され、喜多はそれを将士に装着させる。前のスパーリングが終わり、将士はマウスピースを口に入れてリングに上がった。
将士の実技テスト…………
2ラウンドのスパーリングの1ラウンド目が始まる。
将士は左ジャブを放ち、いつもと変わらず前に出て行く。特に緊張は見られなく、ジャブにも切れが有る。
相手は距離を取りたい様ではあるが、将士のジャブの切れと踏み込みの速さに面食らっている。何とか手を出しているのだが、将士を捉える事は出来ない。
将士は前に詰めながら、相手が右ストレートを放つタイミングで懐に入った。絶妙なタイミングであり、踏み込んだ位置も文句無い。そのまま将士は、左右のパンチを相手のボディに集める。嫌がった相手は、将士を振り払おうと左フックを放つ。これを将士は、頭を下げて左フックで迎え打つ。カウンターの成立である。
相手はダウンをしたのだが、何とか立ち上がろとする。
「ストップ!終了!」
レフェリーはスパーリングを止めた。相手は向こうのトレーナーの肩を借り、何とかリングを降りて通路にしゃがみ込む様にして座った。
将士はレフェリーよりリングを降りる様に促され、複雑な表情で喜多の方に行った。
「やったな、将士!」
喜多は将士のグローブを外しながら声を掛けた。
「……手応えが……」
将士は喜多に答えながら電光掲示板を見た。残り時間は2分32秒となっていた。
「まぁ、あっという間だったからな。しかし、しっかりと動けてたぞ」
「ありがとうございます」
「後は休んでな。夏雄のテストが終わったら、ジムに戻ろう」
「はい」
将士はグローブが外れると、マウスピースを外しながら観客席に座った。
この後、夏雄もスパーリングを行う。夏雄はアマチュアの経験も有り、相手を寄せ付けないスパーリングを見せた。相手が少し、不憫に見えた。夏雄はしっかりと2ラウンド行い、終始自分のペースでテストを終える事となる。
「……ダウン、取れませんでしたな?」
「……必要有んの?」
「別に必要無いですが~……経験が少ない将士の方が、インパクト絶大ですな?」
「……そのムカつく言い方、何とかなんねぇの?」
「ムカつく~?大したスパーリングが出来なかった癖に~?」
「グヌッ…………おい将士!この馬鹿はいつもこうなのか?」
「喜多さんは、スイッチが入ると……」
「将士~、ダメダメ夏雄を馬鹿にしようぜ~!」
「この野郎……」
「喜多さん、辞めましょうよ!加藤さん、筆記試験落ちたんですから~……」
「ば、おま、将士!」
「はい?筆記試験に落ちた~?……よし、お前ボクサー引退な!」
「何言ってんだよ?」
「だってさ、ボクサーみんなが馬鹿に見られたら、たまらないだろ?」
「あ~、確かに!」
「将士、悪乗りするな!」
将士も夏雄も、スパーリングは問題無い様である。
このまま、将士と夏雄は喜多と拳王ジムに戻った。夏雄は荷物をまとめ、そのまま福島県に帰った。
「将士、結果見てから帰れよ」
「え~……でも、学校有るし……」
「どうせ、勉強してても手に付かねぇよ……電話しとくからさ」
「……それじゃあ」
将士は喜多と話、もう1日泊まる事にした。本日も、拳王ジムで練習である。
翌日、将士は後楽園ホールに向かった。プロテストの結果が張り出されている。将士の番号はしっかりと有り、晴れてプロテスト合格となる。将士は最初の目標を見事に達成した。
拳王ジムに戻った将士、
「やりました!合格です!」
「やったな、将士!」
「よくやった!」
「うんうん、頑張ったね」
将士の合格を喜多·手塚·篠原会長は喜んでくれた。
「よし、合格祝いにスパーリングだ!」
手塚の提案で、将士は本日スパーリングとなる。相手は喜多と手塚である。このスパーリングだが、物凄い事になっていた。
喜多も手塚も、将士を徹底的に打ちのめしている。喜多は距離を取り、将士を近付けさせずにパンチを浴びせる。
手塚はインファイトをし、将士よりも速い回転で将士を一気にまくし立てる。どっちも、かなり厳しい攻撃を将士に放った。
それでも、将士はダウンをせずに時折相打ちではあるが、パンチを当てていた。将士も確かに強くなっている。
スパーリングが終わる。
「どうだ?まだまだだな?」
「弱いな!どうしたへなちょこ君?」
「はぁ、はぁ、はぁ……厳し過ぎませんか~?」
「アリサさんに優しくされやがって!」
「やっとスッキリだ!」
「……私情は挟まないで下さいよ~……」
プロテストに受かった将士、何故かボコボコである。将士はこの後、シャワーを浴びて着替えてから挨拶して帰って行った。何処かスッキリした表情の将士である。
「喜多君に手塚君、厳し過ぎたんじゃないの?」
「いや、あれでダウンも無いんですよ?」
「足りなかったんじゃないっすかね~……納得されちゃ困るんですけどね~……」
「大丈夫じゃないかな?……天川会長が居るしね」
「頑張って貰わないと……俺達も楽しみだし……」
「そういえば、池本さんが天川会長を年寄りって言ったらしいですよ!」
「マジか!……あの人なら、確かに言いそうだ……」
「君達、そんな事で驚いちゃいけない……川上会長を会長って名前だと思ってたらしい……石谷さんは、ト·レーナーと紹介したんだそうだよ」
「「!?」」
「あの人、怖い物が有るのか?」
「あの人は怖いけどな……」
拳王ジムの面々も、将士の成長は楽しみの様である。
池本については、語る事は辞めておこう。
夏雄、少しは頭を使わないと……




