甘くはない道!
この先、どうなる?
夏雄と将士のスパーリングが始まる。
1ラウンド、将士は頭を振って左ジャブから入る。いつも通り、いつものスタイルである。
対する夏雄だが、左ジャブを放って左に回って行くのだが、この左ジャブがかなり速い。頭を振っている将士を見事に捉え、左に回りながら左ジャブを何発も将士に放り込む。
将士はガードを高くし、先程よりもスピードを上げた。油断ならない相手だと判断した様だ。夏雄の左ジャブを丁寧にブロックし、少しずつ間合いを詰めて行く。
夏雄はこの将士の動きを見ても、別段戦い方を変えない。左ジャブで距離を取り、時折右ブローを交えて将士を攻撃する。
将士が丁寧にブロックを重ね、夏雄の右ストレートを掻い潜り懐に飛び込んだ。そのまま将士は左ボディを放つのだが、これを夏雄は予め予想していた。夏雄はこのボディに、左フックを被せた。相打ちとなったのだが、鍛えたボディに打ち込んだパンチと鍛えようが無い顔へのパンチ、ダメージは明らかである。
2·3歩後退する将士、それでも将士は頭を振って自分から前に出て行く。夏雄はこの将士の動きに面喰らった。一旦距離を取るかアウトボクシング紛いの事をして、時間を稼ぐと思っていたからである。それでも夏雄は、この将士の攻撃を避けていく。アマチュアでの実績は伊達ではない。
残り10秒、懐に上手く飛び込んだ将士、そのまま身体を押し付ける様に夏雄をコーナー付近まで強引に押し込む。それを嫌った夏雄、バックステップをするがコーナーに詰まる。次の瞬間、将士は左腕をスリークォーターから夏雄の顎目掛けて放った。夏雄は何とか右拳を上げ、直撃を免れた。免れたのだが、それでも夏雄の顎は跳ね上がり、夏雄の身体は少し浮いた。
「カーン」
ゴングが鳴った。
「終わり終わり!」
「はい、終了!」
トレーナー達はスパーリングを止める。
「はぁ?これからでしょ?」
「「ダメ!」」
無理矢理に、スパーリングは終了となった。
リングから降りる将士に夏雄が声を掛ける。
「君、なかやかやるね!」
「……ありがとうございます」
「あそこでスマッシュか~……まさかだね!」
「アマチュアで、反則取られましたけど……」
「アマチュアは、ルールが厳しいからね……君の名前は?」
「中台将士って言います」
「俺夏雄!よろしくね!」
「はい、お願いします」
少しの会話をし、将士は改めてサンドバッグを叩き始めた。夏雄はトレーナー達に絡まれている様である。
県大会が終わった哲男達がジムに来た。将士は練習を終えており、バイトをしていた。
「将士~、優勝したよ!」
「……ここで揺るんでどうするの?」
「そうかもだけどさ~……あれ?あの人誰?」
「加藤夏雄さん。アマチュアのフェザー級で、元日本代表」
「あ~、甲斐拳人に負けた奴な!」
「誰が負けたって?」
夏雄が走って来た。
「あれはな、負けてやったんだ!」
「偉そうに……完璧にやられてたじゃないですか!」
「わざとだよ、わ·ざ·と!」
「圧倒的ボロ負けだったのに?」
「……将士、この馬鹿は知り合いか?友達は選んだ方がいいぞ」
「馬鹿じゃないですよ!弱虫加藤!」
「何だと!ノンIQボクサーの癖に!」
「馬鹿にしてんすか?負け負けボクサー?」
「そもそも、俺はインターハイは制してるんだよ!」
2人が顔を近付けて言い合っている。そこに天川会長が登場。
「……初日から、色々やってるね…加藤君?」
「ああ、天川会長!よろしくお願いします!」
「元気なのは構わないけど、少しは自重しなよ」
「自重してますよ~」
「何処が!本当に救いようのない馬鹿ですよ!」
「お前には負けるがな!」
「この野郎~……」
「お、やるか?馬鹿ボクサー?」
「辞めなさい!……君達2人共、頭が弱いのは良く分かったから」
「「天川会長~……」」
「あっはっは、天川会長には敵わないですね!」
「「将士、笑い過ぎ!」」
「息ピッタリ!」
「「グヌヌ……」」
意外に似ている哲男と夏雄である。
哲男達は他のトレーナー達に大会の結果を伝え、哲男以外は解散となった。哲男は会長室にて勉強である。
本日のジムも終了となった。片付けをする将士、哲男と夏雄が手伝っている。天川会長は残っているが、その他のトレーナーは帰っている。
「3人、こっちに」
天川会長に呼ばれ、将士·哲男·夏雄は会長室に入った。
「改めて、今日からこのジムに入った加藤夏雄君。日本代表にもなったアマチュア出身。中台君も菅原君も、スパーリングやるからよろしくね。加藤君、何か有る?」
「改めて、加藤夏雄。世界が俺を待ってるので、しょうがないから協力させてやるよ!」
「あはは、中台将士です。よろしくお願いします」
「な~にが世界だ!甲斐拳人にボロ負けの負け負けボクサーだろ?」
「はぁ?訳が分からないな~?」
「弱い癖に、記憶まで怪しいのかよ……」
「おい、弱いとは何だ!俺は日本代表だったんだぞ!」
「だったでしょ?甲斐にKO負けして!」
「哲男君、SCね」
「あれはレフェリーの間違いだ!」
「いや、あれは正しい!」
「お前は分かってねぇの!」
「い~や、俺は誰より分かってるね!」
哲男と夏雄が言い争いをしている。
「……中台君、帰ろうか?」
「いいんですか?」
「大丈夫だよ、似た者同士だし」
「……有る意味納得……」
天川会長と将士は、2人を置いてそっと帰った。
この後、暫く哲男と夏雄は言い争いをしていた。
「あれ?将士は?」
「天川会長も居ねぇぞ?」
気付いた2人、戸締まりをして別々に帰って行った。
意外に似てる哲男と夏雄……




