高校最後の年!
将士も高校3年生!
選抜大会が終わり、将士と哲男は福島県に帰って来た。帰ったからと言っても、将士と哲男の日常は変化ない。天川ジムに通い、残りの春休みもボクシングに没頭である。
「哲男君、勉強はやるからね!」
「え?やるの?」
「当たり前だよ!卒業出来なくなるよ!」
「……分かりました。やらせて頂きます……」
もとい、特に哲男は勉強にも力を入れないとである。
ボクシング以外となると、意外に周りは騒がしくなっていた。全国優勝と3位という事も有り、市長から2人は呼ばれる事となった。その際に写真を取られ、新聞にも載ったのだ。これを見た学校の生徒達が静かな訳がない。将士の母親の弁当屋は、拳カレー販売から客足が増えたのだが、更に客足が増える事となった。
「将士、明日はお店……お休みにする……」
将士の母親、余りの忙しさにお店を休みにした。
将士は例の2人以外にも、色々と声を掛けられる。男女問わず声を掛けられるので、将士は練習前から天川ジムに入り浸りである。
一方の哲男だが、こちらも色々と声を掛けられた。確かに掛けられたのだが、殆どが男であった。
「何なんだよ、この格差は!」
哲男が怒っていたのは、大目にみたい所である。
4月となり、将士達も3年生となった。遂に、高校最後の年となった。
「将士、同じクラスだな!」
「よろしくね、哲男君」
「私達も同じクラス~!」
「中台、よろしくね!」
「うわ~……うるさいのも一緒か~……中台君、私達は静かに生活しようね」
高田に片瀬、雨谷も一緒のクラスである。騒がしい毎日が想像出来そうである。
少しだけ、変わった事がある。将士と哲男が頑張った為、ボクシング部の人気が上がった。新1年生からの入部希望者が増え、天川ジムは忙しくなっている。
「中台君、あっち片付けて」
「はい」
将士のバイトも変わらずである。
そんな忙しい4月も過ぎ、暦は5月になった。ゴールデンウィーク、東北大会の県予選が始まる。
「中台さん、頑張って下さいね!」
「菅原さんと、必ず優勝ですよ!」
「菅原さんと中台さん、勉強させて貰います!」
1年生、気合いが入っている。
「俺の見るのは構わんが……将士?」
「……僕は、大会には出ないよ」
『ええ?どうして?』
将士は頭を掻きながら、
「というか、インターハイにも出ない。高校ボクシングは終わり」
『はぁ?』
「将士は、7月にプロテスト受けんの。な、将士?」
「そうだね。アマチュアは、充分にやったかな?」
「そんな、考え直しましょうよ」
「インターハイが終わってからでも……」
「練習として……」
「君達、対戦相手には経緯を持たないとね。僕はプロになる為に、今はそれで手一杯だよ」
「はいはい話は終わり。みんな練習練習!中台君も菅原君も、しっかり練習!」
「「はい!」」
『よろしくお願いします!』
天川会長、上手くまとめた様である。
将士と哲男が居るというだけで、1年生達のモチベーションは上がっている。全国でメダルを取って帰って来た2人、少なくとも1年生達には目標とはなっている様である。
ゴールデンウィーク中の大会、哲男は見事に優勝した。東北大会へ進む事になった。この他だが、1年生の1人も優勝して東北大会に進んだ。活気の有る部活となっている。
この間だが、将士は特に応援には行かなかった。自分の練習もそうだが、哲男がここで間違えるとしたらウェートだけである。ラインでそれだけ注意し、特には心配していなかった。
問題が起きたのは、このゴールデンウィーク中である。
将士は天川ジムで練習していた。今の将士には、これが最優先である。サンドバッグを叩き、本日も汗を流していた将士。
「ウェーッス」
「何だ?しっかり挨拶してから入って来い!」
「挨拶?……はっ、挨拶したからって、強くはならないでしょう?」
突然、失礼極まりない男が入って来た。
「あ、俺、加藤夏雄って言います。将来は、世界チャンピオンになるんで、よろしくっす!」
加藤夏雄と名乗るこの男の口から、世界チャンピオンの言葉が出た。こんな時に、天川会長は試合のセコンドで留守である。
「君さ、その態度は改めなよ」
「物を教わる態度じゃないよ」
トレーナー達が声を掛けるが、
「大丈夫っす!俺、勝手に強くなるんで!」
夏雄はスタスタと更衣室に行ってしまった。
着替えて出て来た夏雄、早速ロープから始めた。なかなか軽快な動きであり、確かに経験も有る様だ。他のジム生やトレーナーは夏雄を見ていたのだが、将士は全く気に掛ける事なく練習を続けていた。
「君さ、なかなかいいね!スパーリングやろうよ?」
夏雄はいきなり将士に声を掛けた。
「僕ですか?……今日は天川会長居ないし……」
「大丈夫だよ、トレーナー居るしさ!ね、いいだろ?」
「……トレーナーが許可してくれたら……」
「構わないっすよね?」
夏雄の問い掛けに、トレーナー達は渋々OKを出した。将士と夏雄は準備を始める。
「……何処かで見た様な……」
「お前もか?俺も何だが……誰だったかな?」
「あの~……多分ですけど……」
「分かるのか?」
「誰だ?」
「……去年まで、アマチュアでフェザー級日本代表の……」
「「……ああ!」」
「甲斐拳人に負けた加藤夏雄!」
「オリンピックは甲斐でほぼほぼ決まりだから……そうか、プロに転向か」
「……中台、大丈夫ですかね?」
この言葉に、トレーナー達は焦った。しかし、既に準備万端。このまま、スパーリングは行われる事となった。
改めて、気持ちを引き締める!




