将士の戦い、哲男の成長!
将士vs隆明、遂に最終ラウンド!
3ラウンド…………
将士は変わらず左ジャブを放ち、前に詰めて行く。頭を振り、やっている事は1ラウンドから変わらないのだが、スピードが明らかに違う。この試合で、将士は成長をしている様だ。
対する隆明、こちらも1ラウンドと変わらずに距離を取る。そこからの攻撃は、2ラウンドの様に将士の出て来るタイミングに合わせているのだが、これは将士が慣れてしまっている。更に精度の増した将士の強振が、隆明のすれすれを何度も通過している。
ジリ貧だと感じた隆明、一度大きく間合いを取り、そこから全力でアウトボクシングに徹した。左リードブローを軸に、徹底的にスピードで撹乱する事を選択した。
対する将士、焦る事はなかった。元々喜多とのスパーリングが最初の将士、隆明は確かに凄いが、喜多と比べたら対応の仕方は有る。将士は落ち着いて左ジャブからリズムを作る。
お互いが自分の距離に徹し、時折被弾しても打ち返す。一進一退の攻防であり、見応え充分である。
3ラウンドも2分を過ぎた頃、将士は隆明を追っている際に時間が目に入った。その瞬間、将士は少し体重を前に乗せ、首に力を入れて強引に前に出た。
対する隆明のパンチだが、これを将士は額で弾いた。そのまま身体をぶつけ、左ボディを打ち込んだ将士。隆明はこの距離を嫌い、バックステップを踏んだ。
[ドン]
隆明はコーナーに詰まった。将士は打ち合いをしながら、隆明をここに誘導していたのだ。かなり切れる試合運びである。
隆明がコーナーに詰まったのを確認した将士、すぐにパンチのモーションに入った。隆明は将士の左手が動くのを確認し、右腕でボディを左手で顎をガードした。
次の瞬間、将士の左手はスリークォーターから隆明の顎に飛んで行った。[スマッシュ]である。隆明のガードの間を擦り付ける様に、将士のパンチはクリーンヒットした。隆明は尻餅を着く。
「オープンブロー、青コーナー反則!」
レフェリーからのジャッジにより、将士は減点1になった。
立ち上がる隆明、ダメージの確認をされ、少し経ってから試合再開となった。残り時間25秒、前に詰める将士に対し、クリンチを使い何とか逃れる隆明。そのまま試合終了のゴングが鳴った。
リング中央に将士と隆明が来る。間にはレフェリーが立っている。すぐに放送が入る。
「判定3-1、勝者…赤コーナー徳井隆明選手!」
レフェリーは隆明の左手を高々と上げた。
リング上で握手をする将士と隆明、何処か晴れやかな将士と明らかに不満な隆明。結果とは対称的な2人の表情が、何とも面白い。この試合の結果はどうあれ、この2人にしか分からない事が有るのだろう。
リングを降りた将士、天川会長と控え室に向かう。そこに喜多と徳井が現れた。
「おい将士、惜しかったな」
「喜多さん……まぁ、まだまだって事ですね」
「いやいや、プロのリングならKO勝利さ。な、隆明?」
将士は後ろを振り向く。そこには、隆明が立っている。
「……完全に俺の負け……」
「いや、勝ったのは隆明君でしょ?」
「…………………………」
「隆明、優勝しないといけなくなったな?」
「……必ず優勝して、インターハイで勝負だ!」
「熱いね~……将士、どうすんだ?」
「僕は……」
「無理だよね、中台君。夏には、プロになるんだもんね?」
「はい、そうですね」
「そうなの?インターハイに出ないの?」
「予定は無いかな~……」
「……あそこでスマッシュなら、確かにプロかな……なぁ、徳井?」
「そうだな~、確かにアマチュアじゃないね~」
「……それなら、僕は将士君の強さを証明するよ!」
「有難いけど……僕は僕で証明するよ……所で、スマッシュって何ですか?」
「お前の使ったパンチだよ!」
「……知らないで使ってたのね……」
「恐ろしき天然……流石は将士君……」
「はっはっは、この辺が中台君の楽しさだよね!ニュートラルコーナー分からなかったしね!」
「それは秘密です!」
話は尽きない。それだけ、この準決勝の試合が素晴らしいという事だろう。
「おい、俺の事はどうなったんだ?」
言葉の方を一同が向く。哲男と橋本トレーナーが居た。
「哲男君、準決勝頑張ってね!」
「将士~、取って付けた言い方だな?」
「しょうがねぇだろ!哲男よりも人間が出来てる将士が頑張ったんだから!」
「隆明も頑張ったし、菅原君、諦めは肝心だよ」
「……天川会長~、喜多さんと徳井さんが酷いっすよ~!」
「計量失敗だったんだろ?自業自得だ!負けたら、福島まで走って帰れ!」
「おふっ……天川会長に助けを求めたのが間違いだった……」
「ほらほら、行くぞ哲男!」
「は~い、頑張りま~す」
哲男は橋本トレーナーと試合に向かい、他のみんなは観客席に向かった。
哲男の準決勝、なかなか見応えの有る試合だった。
哲男の相手はファイター型であり、ガンガン前に出て来る。首も太く、打たれる事は想定内といったタイプである。
この相手に、哲男は付き合う事なく試合を進めた。アウトボクシングに徹し、不用意に近付く事をしない。スピードなら哲男に分があるこの試合、哲男は徹底的にスピードで握手を撹乱していった。
2ラウンドに入ると、哲男は出入りを多くした。打ち終わりには同じ場所におらず、相手のパンチは空を切るばかりである。
哲男のペースで進む試合に、握手は相当頭に来ていた。破れかぶれでパンチを振り回して来た所に、狙い済ました哲男の右ストレートがカウンターでヒットした。相手はダウンすると、そのままカウントアウト。哲男は2ラウンド1分57秒SCにて、決勝進出を決めた。
哲男の成長が見えた試合である。
将士にとって、この大会は大きな収穫が有った。ライバルの強さや自分の練習が間違いで無かった事、何より今後の目標の再確認と負ける事の経験という、誰からも教えて貰えない経験を積んだ。これからが楽しみである。
明日、全国大会の最終日。哲男と隆明がどんな結果を残すのか、そちらも気になる所である。
将士は残念……




