目指すは全国優勝なのか?
全国大会の出場は決まったのだが?
東北大会が終わった翌日、将士と哲男はいつも通りの朝を迎えていた。変わらぬロードワークを行い、将士の母親の弁当を持って学校に行った。変わった事と言えば、将士の母親がやっている弁当屋である。将士と哲男が学校に行く時には、既にお客が居る。どうやら、拳カレーが大好評の様である。
将士と哲男は、学校までの道のりをボクシングの話をしながら歩いている。この光景も、まさしくいつも通りである。
学校に着いた2人、それぞれ自分のクラスに入ろうとするのだが、廊下で何人もの生徒達に囲まれた。
「おい、東北大会優勝だって?」
「凄い!目指せ全国制覇だね!」
「やるな~!2人共に優勝かよ~!」
「ねぇ、今度一緒に遊びに行こうよ!」
色々と言われ、特に将士は面食らっている。余り慣れていない為、目の前の事が理解出来ていない様だ。
「邪魔邪魔、退いた退いた!」
「菅原と中台が凄いからって、今更何?」
この人混みを掻き分けたのは、高田と片瀬である。
「菅原なら構わないけど、中台には私達に許可取ってよね!」
「そうそう、中台は私達が先に目を付けたんだから!」
「……私のが先ですけど?」
割って入ったのは、雨谷である。
「私は、ボクシングやる前から中台君を知ってました~!」
「……この娘は~……」
「やる気なの?」
何故か3人が揉めている。
「哲男君、今のうちに……って、何で落ち込んでんの?」
「だってよ~……俺は構わないんだぜ~……」
「いいから、今のうちに逃げようよ!」
「おい、待てって」
将士は哲男の腕を引っ張り、それぞれのクラスに入って行った。
騒がしい時間は、学校が始まっても続いていた。
昼休み、将士はダッシュで屋上に行った。哲男は既に、屋上に居た。
「大人気だな?」
「冗談じゃないよ、僕は静かに生活したいのに……」
「無理だな、お前がボクシングで東北大会優勝だからな……諦めろ」
「大丈夫、哲男君の所に来れば静かだから」
「……さらっと酷い事を言うね~……」
話をしながら、2人は弁当を開けた。本日は、大人気の拳カレーである。
「あ~、人気の拳カレー!」
「私も食べたいと思ってたんだ~!」
「……片瀬と高田、お前等は何で居る?」
「菅原には関係無いでしょ!」
「中台に用事が有るの!」
「将士が迷惑だってさ」
「「そんな事な~い!」」
「……何時から僕達は、呼び捨てにされたの?」
「私達の仲じゃ~ん!」
「恥ずかしがるなよ~!」
「……ここも平和じゃなくなって来たな……」
「将士、新しい場所を探そうぜ」
「「酷くな~い?」」
暫くは、学校に安息の場所は無さそうである。拳カレーだが、将士も哲男も高田と片瀬に殆ど食べられてしまった。
「私達のご飯上げるからさ~!」
「はい、嬉しいでしょ?」
との事らしい。最も、哲男が食べると不満そうな顔をする2人ではある。
放課後、将士はいつも以上のダッシュで天川ジムに向かった。
「待てよ、将士~!」
「ダメダメ、誰にも絡まれたくないんだよ!」
哲男も将士に釣られ、ダッシュをしていた。
天川ジムにて練習を始める2人、本日もロードワークからの練習となっている。勿論、橋本トレーナーが付き添いである。
「おい、お前等は~……昨日は大変だったんだからな!」
「だって、将士が帰っちゃうし……」
「??…帰っちゃダメなんですか?」
「閉会式が有るだろ!」
「閉会式……絶対に有る物なんですか?」
「当たり前だ!そもそも、お前は表彰式が有っただろ?」
「成る程……これからは気を付けます」
「俺も気を付けます」
「……反省してなくないか?」
どうやら、橋本トレーナーは前日の置いてきぼりを根に持っているらしい。
ロードワークから帰って来た3人、
「おい、橋本君!」
「何ですか?」
「何で残金がこれだけなんだよ?」
「ステーキ食べましたから!」
「誰が?」
「俺ですよ!」
「何で?」
「置いてかれたからですよ!」
「……却下!給料から天引!」
「はぁ?おかしいでしょ!」
「おかしいのは、君の頭だよ!…全く……」
「俺は認めないですよ!」
「認めなくても天引!」
「うぐっ……」
天川会長の勝利となった様である。
将士と哲男は変わらず練習している。全国大会出場を決め、知らず知らずのうちに力が入っている様だ。サンドバッグの音がいつもより大きく感じる。
2人は本日も、しっかりと練習をした。
練習が終わり、将士はバイトに移り、哲男は本日も勉強である。その事も終わり、本日もジムの戸締まりをする将士と哲男。天川会長から声を掛けられた。
「2人共、改めて全国大会出場おめでとう」
「「ありがとうございます!」」
「それで……2人の目標は?」
「俺は、目指せ全国制覇っすね!優勝まで、突っ走るっす!」
「そう……で、中台君は?」
「僕は……何だろ?」
「将士、全国優勝だろ?」
「う~ん……さほど興味無いんだよね……」
「中台君、今後の予定としては?」
「出来ればですけど……来年のうちにプロテストを受けたいです。デビュー戦もやっときたいし……」
「C級じゃなくて、B級のプロテストも有るけど?」
「……でも、喜多さんもC級からですよね?……なら、C級からやりたいかな~……」
「将士はいつでも、喜多さんなんだな。ファイトスタイルは手塚さんなのにな?」
「別に、いつでも喜多さんじゃないよ。でも……喜多さんは憧れだな~……」
「そう、なら別に優勝目指さなくていいや。プロとしてやっていく為に、少しでも経験値を積もうね」
「はい、頑張ります!」
「さて、先に帰るよ。戸締まりよろしくね」
「「はい、お疲れ様でした!」」
天川会長はジムから出て行った。
掃除が終わると、2人は戸締まりをして帰った。本日も、2人はボクシングの話をしながら歩いて行った。
天川会長は1人で歩きながら、急に立ち止まって左ジャブを放った。確かに年を取っているが、天川会長の左ジャブはなかなか鋭い。
「……憧れの選手の名前を出しながら、戦い方は別物……憧れを倒したいという事か……」
天川会長は一頻り呟くと、ファイティングポーズを取って何発かコンビネーションを放った。なかなかどうして、華麗で速いコンビネーションである。
「川上と、昔は色々と話したな~……俺も年を取ったな……」
天川会長はもう一度、ワン·ツーからの左フックと右ストレートの4連打を放った。
「あの2人が何処まで行くか……終わりまで見たい物だな……」
天川会長は空を見上げ、深呼吸をしてから帰路に着いた。天川会長としても、気になる2人の様である。
それぞれに思惑があります。