東北大会終了!
続くは哲男の試合!
哲男は橋本トレーナーとリングに向かう。哲男は赤コーナー、プロボクシングならチャンピオンサイドである。
リングに上がった哲男、リング中央に歩み寄り山本と一緒にレフェリーから注意事項を受けると、自分のコーナーに戻った。
いきなりマウスピースを外した哲男、
「橋本トレーナー、一発殴って下さい!」
「は?どうした?」
「将士に遅れを取る訳にはいかんでしょ!」
「分かった、任せろ!」
[バキッ!]
橋本トレーナーは右拳を思いっきり哲男に喰らわせた。
「オグッ……橋本トレーナー……」
「礼には及ばん!」
「力加減知らないんすか?この筋肉馬鹿!」
「何だと、この鼻垂れ小僧!」
2人が揉めていると、レフェリーからイエローカードが出された。セコンドに警告が出た様である。しかし、哲男の表情は確かに引き締まっていた。
東北大会ライト級決勝…………
哲男は左ジャブを放ち、左に回って行く。なかなか切れのあるジャブであり、フットワークもスピードが有る。
対する山本だが、こちらはガードを固めて前に出て来る。さっきの将士の試合の様である。しかも、山本はウェートオーバーが有り、落とす為に身体を動かした。その為に一度心拍数が大きく羽上がっていた事から、最初から動きに固さが見られない。哲男にとって、嬉しくない方に事が進んだ。
距離を取って試合をしたい哲男、距離を詰めてインファイトをしたい山本、2人の思惑は交錯しお互いの距離で戦おうと駆け引きを交えて拳を交換させている。なかなか見応えが有る。
この攻防に山本が痺れを切らした。哲男の左ジャブを強引に弾き、一気に距離を詰めて右フックを放った。
次の瞬間、倒れていたのは山本であった。哲男は右アッパーをコンパクトに放ち、山本の右フックをカウンターで切って落とした。
前のめりに倒れた山本、レフェリーはカウントを数えずに試合を止めた。1ラウンド1分47秒RSC、哲男は見事に東北大会を制した。
試合が終わると、哲男は山本と山本のセコンドに頭を下げて将士の元に向かった。
「見たか将士?やったぜ!」
「うん、グッジョブだね!」
[パァン!]
将士と哲男はハイタッチをした。
「よくやったね、2人共!」
「「はい!」」
「次は全国大会だ!」
「「はい!」」
「橋本君、君は反省」
「え?どうしてですか?」
「菅原君へのパンチ……気合いを入れるくらいでいいの!KOパンチを入れるんじゃない!」
「うっ……反省します……」
「本当ですよ、スッゲー痛かったんすからね!」
「悪い悪い……」
一悶着有ったのだが、全国大会への切符を確かに手にした将士と哲男であった。
閉会式となり、将士と哲男は着替えた。
ここで、将士の天然が爆発する。着替えた将士、何も考えないで外に出て行く。元々スポーツに縁の無かった将士、閉会式という概念は無い。更に言うなら、デビュー戦ではニュートラルコーナーが分からなかった。将士にとっては当たり前だったのかもしれない。
これに悪乗りしたのが天川会長である。元々、面倒な事は大嫌い。ボクシング以外だと手本にならない事の多い天川会長、そんなボクシング馬鹿な所が池本と似ており、意外にこの2人は気が合うのだが、この悪乗りも本当によく似ている。
会場の外に出て行く将士を見付けた天川会長、
「菅原君、中台君が外に行ったよ。橋本君に任せて、一足先に帰ろうか?」
「え?いいんですか?」
「いいんだよ、橋本君が代わりに表彰式をやってくれるさ!…ラインだけ送っておくよ」
「はい、それじゃあ!」
哲男も悪乗りをする方である。2人は将士を追い掛け、そのまま帰ってしまった。
閉会式のアナウンスが放送される。それぞれが整列するのだが、石川北高校の選手だけ集まらない。荷物を片付ける橋本トレーナーに、大会運営委員が声を掛ける。
「あの~、中台選手と菅原選手は?」
「……あれ?……何処行った?」
「閉会式を始めたいんですが……」
「すいません、ちょっと待ってて下さい!」
橋本トレーナーは天川会長に連絡しようとしてスマホを取り出した。天川会長からラインが来ている。
閉会式よろしく!我々は帰るよ!
先に帰って、旨い物でも食べてるからね!
悪いね~!
「や、やられた……」
「あの~、どうしました?」
「あ、いや……どうも中台の家族が体調を崩して……先に帰ったみたい……です……」
「なら、橋本トレーナーが代わりに参加でお願いします」
「は?俺?」
「はい、では……」
「え?ちょっと!」
橋本トレーナー、閉会式に強制参加の様である。
将士と哲男の表彰を橋本トレーナーがやった事以外、特に問題なく事は進んだ。終始、橋本トレーナーの表情が納得いかない物になっていたのは確かである。
閉会式が終わると、橋本トレーナーは近くのステーキハウスに1人で寄った。
「すいません、1番高いステーキを500g!」
「……なかなか食べ応え有りますよ?」
「構いません!ついでにTボーンステーキも500gね!」
「はい、承知致しました」
橋本トレーナーはステーキをやけ食いする事にした様だ。
運ばれて来たステーキを、橋本トレーナーは思いっきり食べた。これでもかというくらい、橋本トレーナーはステーキを堪能した。支払いは……天川会長から預かった旅費から出した。
「天川会長……ざまぁみろだ!」
薄ら笑いを浮かべ、橋本トレーナーは領収証を封筒に入れ帰路に着いた。橋本トレーナーのささやかな抵抗の様である。
無事に?大会終了!