東北大会決勝!
将士、東北大会決勝!
東北大会決勝の朝、将士と哲男は一緒に朝のロードワークを行っていた。顔色も良く、体調に問題は無い様である。
時間を見計らって、天川会長と橋本トレーナーと会場に向かう将士と哲男。絶対に全国大会の切符を取るという意気込みが表情に出ている。
「いつも通り、やる事は変わらないからね」
天川会長の言葉、2人は何処まで理解しているだろうか。
会場に着き、計量となった。勿論、将士からである。
将士はトランクス1枚になり、計量計に乗った。
「福島県石川西高校·中台君、リミットいっぱいクリア!」
「青森県森崎高校·佐野君、リミットいっぱいクリア!」
どうやら、将士も対戦相手も計量はクリアの様である。
哲男も問題無くクリアした計量だが、問題は違う所で起こった。
「青森県森崎高校·山本君……50gオーバー、30分後に再計量」
哲男の対戦相手がウェートオーバーになった。
「困るよな~、これじゃあな~……」
軽口を叩く哲男だが、哲男の頭を橋本トレーナーが強く叩いた。
「痛ッ!」
「お前も変わらんだろ?県大会決勝!」
「……気を付けます……」
「分かったなら、しっかりアップしろ!」
「はい……」
哲男は少し頭を下げ、計量室から出て行った。
哲男が計量室から出ると、既に将士はアップの最中である。
「俺も参加な」
「うん……計量、大丈夫みたいだね?」
「おう、問題無しだ」
2人でアップを始めた。自然と表情も締まっており、戦う準備が出来ているといった所だろうか。
将士と哲男のアップも終わり、残すは決勝をやるだけである。勿論、将士からの出番である。
ここで、青森の山本について触れておくと、30分後の計量には何とかパスした。ライト級の決勝が不戦勝という事はなくなった。
将士は係員の合図を受けて天川会長とリングに向かった。本日の将士は青コーナーである。ボクシングを始めて間もない将士、挑戦者サイドがよく似合う。チャレンジャーに打ってつけである。
リングに上がる将士、リング中央で佐野と目線を合わせる。佐野は厳しい視線を送るが、将士は全く意に介していない。
レフェリーからの注意事項を受け、一旦両選手共にコーナーに戻る。
「いつも通りやって、東京に行こうか?」
天川会長の言葉に将士は頷き、真っ直ぐに佐野を見た。
「カーン」
ゴングが鳴った。
東北大会フライ級決勝…………
将士は頭を振りながら、左ジャブを放っていく。自分から攻撃を仕掛け、自分のペースで試合を進め様としている。
対する佐野だが、こちらは距離を取って左ジャブを放つ。接近戦で将士とはやりたくない様である。この佐野の動きだが、なかなかスピードが有りパンチも切れている。
佐野のパンチを気にせず、将士は距離を詰めていく。どんどん前に出て行き、的を絞らせない様に頭の振りのスピードを上げている。
すぐに距離が詰まるかとも思ったのだが、佐野がそうさせない。しっかりと将士との距離を取り、距離が近付くとガードを上げて将士に付き合わない。どうやら、佐野は将士と打ち合わない作戦の様である。
将士が詰めれば佐野が引き、それでも将士が詰めると時折クリンチをして距離を潰す。なかなかペースが掴めない将士に対し、佐野の表情は何処か余裕が有る。ここまでは、佐野の作戦通りといった所だろうか。
佐野の早い左ジャブを額で弾いた将士、一気に距離を詰めて左ボディを放った所でゴングが鳴った。1ラウンド終了である。この将士のパンチだが、佐野を捉えていた。この試合、初めてのクリーンヒットである。
青コーナー…………
「うんうん、いい感じだね。後は、君の成長を見せるだけだね」
「はい」
これだけの言葉のやり取りだが、将士の表情は豊かである。勿論、天川会長の表情も満足そうである。
2ラウンド…………
将士は変わらず、頭を振りながら左ジャブを出していく。心成しか、表情に余裕が有る。
先に仕掛けたのは佐野である。佐野は2ラウンド立ち上がりから、先程よりも明らかに速いスピードで、更には手数も増やしていた。
これに対する将士だが、特に慌てる事もなく、時にしっかりとガードをし、時に頭を振ってかわし反撃している。確かに、将士は練習通りである。
これに苛立ちを覚えたのは佐野である。佐野は表情を険しくすると、更にスピードを上げた。ペース配分を考えず、将士を倒すつもりの様だ。
呼応するかの様に、将士もギアを上げた。明らかに佐野を追うスピードが上がっている。将士は佐野とは対照的に、穏やかな表情でギアを1つ上げた様だ。
ここからは、高校生かという攻防が始まる。佐野はスピードに乗って攻撃を仕掛け、将士はそのパンチを掻い潜りながら距離を詰めていく。なかなか見応えが有る。
将士が更にギアを上げ、何度も佐野のボディにパンチを打ち込んでいく。将士は佐野のパンチのタイミングを掴んだ様である。勢いに乗った将士、佐野の右ストレートをかわして佐野の懐に飛び込んだ。そのまま右ボディを放った将士、返す左で逆のボディにもパンチを打ち込んだ。
このボディを嫌がった佐野、左ガードを下げて右で将士を振り払う様なフックを放った。
どうやら、将士の作戦勝ちの様だ。
将士はこのパンチに自分の右フックを被せた。いつの間にかピーカブーに構えている将士、右ボディ左ボディと放ってからの右フック、しかも反動も付いており更には頭を下げてのカウンター。佐野は将士のパンチに対応する事が出来ず、綺麗に顎を打ち抜かれてしまった。そのままコーナーに弾き飛ばされ、コーナーに詰まる様にして崩れ落ちた佐野。
「ダウン、ニュートラルコーナー!」
将士はレフェリーに言われ、ニュートラルコーナーに動き出す。
「ワン·ツー……」
カウントが始まると、すぐに佐野は動き出す。両手をキャンバスに着き起き上がる仕草をするのだが、膝がキャンバスから離れるとすぐにバランスを崩した。それを確認したレフェリー、佐野を抱き抱える様に試合を止めた。
2ラウンド2分12秒SCにて、将士は東北大会フライ級優勝を勝ち取った。
佐野と佐野のセコンドに頭を下げ、将士は天川会長と控え室に戻る。控え室には、哲男と橋本トレーナーが居た。
「やったな、将士!」
「うん……哲男君、続いてよ」
「おう、任せろ!」
「やったな、中台!……後は、この馬鹿だけだな」
「橋本トレーナー、馬鹿は酷いですよ~!」
「緊張は無いみたいだね……橋本君、よろしく頼むよ」
「はい、任せて下さい!」
「菅原君、いつも通りにね」
「はい!…将士、見てろよ!」
「うん、期待してる」
将士は天川会長と観客席に移動した。将士と天川会長が移動してすぐ、哲男に声が掛かった。ライト級の決勝が始まる。
続け哲男!