踏み出す一歩……かなり大変なんだけど……
将士のボクサーとしての第一歩!
翌朝5時半、将士は眠い目を擦りながら外に出て来た。
「遅い!何してんだ?」
「……5時半丁度ですよ~……」
「いいか、5時半て言ったらな、5時半には走り出せる様にだ!」
「無茶苦茶な……」
「とりあえず、身体を温めて走るぞ!」
「……朝から元気だな~……」
将士は喜多と準備運動を始めた。
「どのくらい走るんですか?」
「そうだな~……片道5km程度……かな?」
「5km!?……ここから学校法人有田くらいか……」
「お?丁度いい所が有るんだな?……しかし、その学校何処かで聞いた事が……」
「有田はハンドボールが強いから、もしかしたらそれで」
「ハンドボール……ああ、高松さんがインターハイで対戦したんだっけ」
「高松さん?」
「おう、知り合いでな……確か……城北学院のコーチしてたんだよな~……」
「高松さんて、高松康介さんですか?」
「将士は知ってんの?」
「はい!父さんの高校の先輩で、僕が小学生の頃はたまに来てたんです……高松さんは元気ですか?」
「……元気……だな、多分……高校卒業して、自分の目で確かめて来い!高松さんに会う為には、適当にボクシングやる訳にはいかねぇぞ?」
「はい!……高松さんに胸張って会える様に頑張ります!」
「おう、そうだな……よし、行くか?」
「はい!」
将士と喜多は走り出した。
喜多は高松という男の事は将士には詳しく話さなかった。実は高松は、事故に巻き込まれてこの世を去っていた。喜多は将士との少しの会話で、将士が高松に何処か父親を見ている気がした。実の父親が亡くなっており、父親と慕う者も亡くなったと知ったら、今の将士は壊れてしまい兼ねない。喜多は高松の事は伏せておく事にした。
走り出した2人だが、予想していた結果にはなっていた。走り出して2km程、
「おら、もっと速く走れ!」
「はぁ、はぁ、これでも精一杯……」
「喋れるじゃねぇか、スピード上げろ!」
喜多にせっつかれて、将士は朝から大変である。それでも将士は走り続ける。少しは気合いを入れている様だ。
喜多は将士に激を飛ばし、将士は必死に走る。そんな光景のまま、何とか2人は10kmを走り切った。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「将士……はぁ、はぁ……なかなか速いじゃねぇの?」
「はぁ、はぁ、はぁ、これでも……逃げ足には自信が有るんだ……はぁ、はぁ、はぁ……」
「よし、今日は学校終わったら天川ジムに直行な!」
「はぁ、はぁ、はぁ~……お金が無いですよ……」
「大丈夫だ、天川会長にお願いしといてやるよ」
「2人共お帰りなさい。ご飯出来てるわよ!」
「俺もいいんですか?」
「どうぞどうぞ」
「すいませんね、将士、飯だ飯!」
「……喜多さんは元気だな~……」
結局、喜多は将士の家で朝ご飯を食べる事になった。
「旨い!いや~、もう最高!」
確かに朝から元気である。
シャワーを浴びて学生服に着替えた将士、
「行って来ます」
「気を付けてね」
「うん」
「将士、お前は何処の学校だ?」
「僕は北高……県立……」
「北高か……そうか」
「どうしたの?」
「いや、聞きたかっただけ……気を付けてな、俺も失礼します」
「はい、気を付けて」
喜多は頭を下げ、将士と一緒に出た。
将士が学校に着いた。
「おい、おはよう将士」
「お、おはよう……」
「昨日は邪魔が入ったからな……」
「今日は楽しく行こうぜ」
昨日、将士をいじめていた者達が将士に絡んでいた。他にも学生がおり将士の事は目に入っているのだが、誰もが自分に被害が及ぶ事を恐れ、将士に関わろうとしていなかった。
「おい、中台って誰だ?」
「ぼ、僕です」
「あれ?菅原?……どうした?」
「はぁ?菅原だと~?」
「いや……菅原さん……」
「とりあえず中台、ちょっと来い!」
将士を連れ出したこの男、菅原哲男といい、天川ジムに所属している。天川ジムでアマチュアとして高校の試合に出ており、今年のインターハイにも出場していた。
「……すいません、僕は何かしましたか?」
「何でそんなに卑屈なんだよ~、天川ジムに通うんだろ?」
「何でそれを……」
「喜多さんから連絡有ってさ……[これからだから、周りの雑音を止めとけ!]だってさ……ジムメイトになる訳だし、これからもよろしくな!」
「こちらこそ……菅原さんは、何処を目指してるの?」
「菅原さんはよしてくれよ!……同じ高校2年だろ?」
「うん……じゃあ、菅原君……」
「おう……そうだな~……今は来年のインターハイだけど、将来は喜多さんみたくかな?」
「……喜多さんて、そんなに強いの?」
「知らないのか?……よし、後でビデオ貸してやるよ」
「本当?……ありがとう!」
「それより……違うクラスとはいえ気付かないで悪かったな……あんな連中……」
「大丈夫!それ程気にしてないから!」
「そうか……それよりさ、これからは暇な時間、俺とボクシングの話しようぜ!……なかなか話せる奴が居ねぇんだよ」
「……僕も、そんなに知らないよ?」
「大丈夫だよ、喜多さんが絡んでんだから!……まずは、喜多さんの事についてだな!……休み時間とかに教室行くからな!」
「うん、よろしくね!」
哲男は不良達から距離を置かれている。ボクシングをやっている事も有るが、見た目が少し怖い。試合が近付くと減量が有り、更に目付きが怖くなっていく。そんな為に、特に学校では友達を作っていなかった。ボクシング部が天川ジムでの練習という事も関係している様だ。
この日、哲男は休み時間となると将士の所に来た。2人は休み時間の度に喜多の話で盛り上がっていた。それは昼休みも同じであり、2人は屋上に居た。
「それでさ、喜多さんと同じジムの同期に徳井さんと手塚さんが居てさ!」
「強いの?」
「強いよ!手塚さんはファイター型でさ……こう、接近戦がメインな訳よ!」
「……パンチが当たる距離だね……」
「そうなんだよ、そこで避けながらパンチを出して行くんだけど、当然喰らう訳よ~……でもな、絶対引かねぇんだよ……ハートが強いんだよな~、顔も怖ぇし……」
「そうなんだ~……徳井さんは?」
「徳井さんはさ~……将士、弁当旨そうだな?」
「そう?母さんが作ってくれるんだ!」
「いいな~、俺なんて……」
「コンビニ弁当……僕のと交換する?」
「いいのか?やったぜ~!……旨い!めっちゃ旨い!」
「そう、ありがとう……もし良かったら、母さんにお弁当頼もうか?」
「本当に?……いやいや、それは悪い……」
「うち、弁当屋なんだ……だから、それ程大変じゃないんだよ」
「本当か?是非頼む!……こんな旨い物が明日も……」
「喜多さん何て、夕飯も朝飯も食べてるよ」
「おう?……羨ましいな~」
「それに……教室で食べてると、僕のお弁当をゴミ箱に捨てられちゃうしね……」
「な·ん·だ·と~……あいつ等か、後で痛い目に合わせてやる!」
「大丈夫だよ、気にしてないし……それに、こうして楽しく話せる友達も出来たし……」
「中台、俺を友達だと思ってくれるのか?ありがとうな~!」
「どうしたの?」
「だってさ……学校中で俺は怖がられてるし……何より、まともに目を合わせる奴が居ねぇんだよ……」
「菅原君の事、みんな誤解してるよね……楽しいし優しいし……男の僕から見ても格好いいよ!」
「照れるな~……それでな、徳井さんなんだけど、フリッカーってのを使うんだ!これがさ~、また凄いんだよ…………………」
将士と哲男は、この日から一緒に居る事が多くなった。いつもボクシングや喜多とその元同僚のボクサーの話をしていたが、だんだんと趣味や好きなアイドルの話もする様になった。将士と哲男は、どうやら本当に友達になった様である。
友達も出来たみたいだね!