ボクシングという物!
これからの2人、天川会長は何を思う?
池本がトレーナーをした翌日より、将士と哲男は一層ボクシングに集中していた。どれだけ自分が甘いか、どれだけ練習が足りないか、将士も哲男も痛感した様である。
改めて気を引き締めて練習する将士と哲男、気付けば1月も半ばを過ぎていた。勿論、学校も始まっている。
「菅原、たまには遊ぼうぜ」
「ゲーセン行こうよ」
「中台君、遊び行こう」
「あそこのクレープ、美味しいんだって」
2人を誘う者は結構居るのだが、
「ごめん、ボクシングが有るから」
「悪いな、練習が先だ」
2人は断ってボクシングに打ち込んでいた。それは練習にも現れており、天川会長はご満悦の様である。
時は2月になる。東北大会が迫り、将士はそろそろ減量となる。
「菅原君、本当に今回はちゃんとやってよね」
「うっ……気を付けます……」
天川会長は、哲男に厳しい顔で注意した。県大会の失敗を繰り返さない為である。哲男も理解しているらしく、特に減量を必要としないのだが、ウェートには注意を払っている様である。
そんなある日の練習終わり、天川会長は練習終わりの将士と哲男を呼び止めた。本日も将士はバイトをし、哲男は会長室で勉強していた。
「喜多君じゃないけど、リングに座ろうか?」
「「はい」」
リングの中に座った3人、天川会長は笑顔であるが将士と哲男は緊張している。
「楽に楽に、怒ってる訳じゃないんだから」
「はい……」
「……褒められる記憶も無いんですが……」
「あっはっは、俺はそんなに怖いかい?」
「僕は別に……」
「俺は……結構怒られてますよ?」
「それは、菅原君が悪いからしょうがない……今日はな、少し話がしたくてな……君達は、毎日をどう生活してる?」
「どうと言われましても……割りと普通に……かな……」
「俺は、いつも元気に生活してます!」
「菅原君は、だろうね……言い方を変えようか……ボクシングについて、どんな覚悟を持ってるんだい?」
「覚悟ですか……僕は…………よく分からないんですけど、やれる所まで全力でいきたいです」
「俺は、喜多さんと手塚さんが驚くボクサーになります!」
「まぁ、どっちもいい感じだね。いいかい、これからの生活で常にボクサーで有る事を意識するんだ」
「「ボクサーで有る事を意識?」」
「そうだ……常にボクサーとして生き、息を吸う時でさえボクサーだと意識する」
「……難しいですね……」
「そんなの、出来る奴居るんすか?」
「居るよ。少なくとも確実に2人はね」
「「2人も!?」」
「君達も会ってるだろ?この前トレーナーで来てたし?」
「……池本さん?」
「あの人ですか?」
「そう、あのボクシング馬鹿だよ。あいつはさ、勝つ為に生活の全てをボクシングに費やした。だから、ミドル級の統一チャンピオンになれたんだ」
「やっぱり、凄かったんですか?」
「将士、統一チャンピオンなんだぜ?」
「でも……」
「現役の試合を見た事は無いか……凄かったよ、どんな相手にも真っ正面から向かって行って……あいつは後退のネジが付いて無いんだよな、徹底的に打ち合って……」
「全てを倒してチャンピオン……」
「喜多さん達が、尊敬する先輩だもんな~……」
「でもな、池本君もそのせいで、結局引退に追い込まれたんだ……パンチドランカー……池本君の様に、引かないボクサーには付き物のリスクさ……それでも前に進むなら、常にボクサーで有る意識を持たないとね。自分に危険が付き纏うという事と、対戦相手に与えてしまうかもしれない事も有るからね……どちらにしても、覚悟は必要さ」
「覚悟か……僕は、もっと頑張らないと……」
「俺も、しっかりやらないとな!」
「うんうん、そうだね」
「「後1人は誰ですか?」」
「合宿中に会ったんじゃない?世界チャンピオンを捨てて、オリンピックに挑戦する馬鹿が居ただろ?」
「あ~、甲斐さん」
「……確かに、ボクシング馬鹿だな」
「だろ?ボクシング修行僧だよな?」
「うんうん、それは分かりますね」
「あの人、後退のネジじゃなくて、ボクシング以外のネジがねぇんじゃねぇの?」
「そう言うな、あそこは会長が物凄く馬鹿なんだから」
「あ~、最悪っすよね!カレーと唐揚げのレシピ、教わった物だったし」
「……でも、何とかなってるんですよね?……前世で、よっぽど得を積んだんですかね?」
「……多分、そうだろうね……さて、帰るとするか?」
「「はい!」」
天川会長は将士と哲男と戸締まりをし、本日のジムを終了とした。
将士と哲男は一緒に帰っている。
「ねぇ、池本さんの試合のビデオ有る?」
「……ねぇんだよな~……俺、徳井さんの試合から見始めたからさ」
「無いか~……喜多さん、持ってないかな?」
「有るんじゃねぇの!借りようぜ!」
「……どんなボクサーだったんだろうね」
「そうだよな~……天川会長が、あれだけ褒めるんだもんな~……」
「見た感じは強そうだよね?」
「それは確かだよな……でも、どんな試合をしたかは気になるよな?」
「うん、そうだね……」
「……あれ?天川会長、持ってねぇのかな?」
「有るんじゃない?……天川会長に借りれば良かったな~……」
「よし、明日借りよう。そして、明日見ようぜ」
「そうだね」
天川会長から池本の事を言われ、将士も哲男も気になっている様だ。池本の試合を見て、2人はどんな感想を持つのだろうか。
「甲斐さんはどうする?」
「あ~……そのうち、生で見られるんじゃないか?」
「そうだね」
甲斐については、急いではいない様である。
期待の大きい2人、頑張って欲しい物です。




