練習と覚悟!
東北大会も近い……
正月の三ヶ日も終わり、将士と哲男のボクシングも再開となった。本日より、天川ジムにて練習である。
「「お願いします!」」
将士と哲男は、本日も一緒にジムに来ていた。勿論、朝のロードワークも一緒である。
「いつも一緒だな……ホモなのか?」
「うわぁ、池本さん!」
「どうしてここに?」
「天川会長がさ~……」
「何?文句有るの?」
「文句は無いですよ~、金額が安いけど!」
「それが文句だよね?」
何故か、天川ジムに池本が来ていた。
「アメリカに帰る前に、1日だけトレーナーだ」
「という事で、本日は池本君が君達を見るから」
「……不安だな~……」
「無茶苦茶やるもんな~……」
「何言ってんだ、大丈夫大丈夫!……とりあえずだな、着替えてロード行って来い」
「「はい」」
将士と哲男は不安そうな表情ではあったが、着替えてロードワークに出て行った。
将士と哲男が汗だくで戻って来ると、満面の笑みの池本が待っていた。
「お帰り、早速スパーの準備ね!相手は準備万端だ!」
池本が右腕を伸ばした先には、明らかにプロボクサーだと分かる動きの者達が5名居た。
「これから、こいつ等とスパーだからね。虚弱君達」
「……虚弱じゃないっすよ!…将士、俺達の実力を見せてやろうぜ!」
「頑張るよ!」
「ほう、ホモ達の実力か?……どっちが尻の……」
「放送禁止用語を喋ろうとするな!池本、お前はいつも悪乗りがだな……」
「始まったよ……これが本当の、口うるさい年寄りな」
「この野郎……俺を年寄りだと?」
「天川会長、本当の事でしょうが!」
「お前は~……」
「よし、とりあえず年寄りは置いといて……タツヤとブンタはどっちからやるんだ?」
「……その下り、いつまで続けるんですか?」
「周りの目、気になりません?」
「歯向かう奴は、力で捩じ伏せる」
「「……やっぱり無茶苦茶だよ……」」
色々と思う事は有る様だが、将士と哲男はスパーリングを行う事になった。
このスパーリングだが、少し変則的である。プロボクサー達は1人2ラウンドとし、将士と哲男は1ラウンド交代でリングに上がる。2人共に5ラウンドずつのスパーリングとなるのだが、スパーリングパートナー達はなかなかの強者である。バンダム級からフェザー級までの日本ランカーを池本は用意した。池本には考えが有る様である。
「とりあえずだな、早く上がれ」
「僕から行くね」
「おう、俺も負けないからな」
どうやら、将士からスパーリングを行う様である。
このスパーリングだが、将士と哲男が納得行く物ではなかった。
相手は日本ランカー、格上のプロである。アマチュア出身の者も居ればプロからボクサーになった者も居るのだが、共通して言える事はバリバリの現役である。経験も実力も、敵う筈がない。加えて言えば、現役の格上となると甲斐としか経験していない。しかも、格的には遥かに上である。勿論、手加減もあった筈である。
しかし、今回の相手は近いうちに戦う可能性が有る相手である。その為、相手は殆ど手を抜かない。結果は勿論、将士も哲男もボコボコである。良かった点といえば、ダウンを辛うじてしなかっただけである。
スパーリングが終わった2人、
「やっぱり弱ぇな~……やる気有るの?」
「有りますよ!」
「絶対に見返してやる!」
「うんうん、弱い奴はよく口が動く」
「「うぐっ……」」
「天川会長、期待外れじゃないんですか?」
「……少し考えさせて貰う」
「「!?」」
「くっそ~、ロード行って来ます!」
「俺も、ロードに行って来ます!」
将士と哲男は、厳しい表情のままロードワークに出て行った。
「……ダウン1つも取れないとは……」
「池本さん、なかなか強かったですよ」
「本当に……再来年……強敵になりそうだ……」
「まだまだ粗削りですけどね」
「偉そうに……だからチャンスが来ねぇんだよ!」
「うぐっ……俺達にもダメ出しですか?」
「ダメ出しじゃねぇ、ダメだ!」
「……否定かよ……」
「まあまあ池本君、その辺でさ……しかし、なかなか健闘したな?」
「健闘じゃダメなんですよ、勝たないと!結果が全てのこの世界なんですから!こいつ等みたいになりますよ!」
『失礼ですよ!』
「……池本君らしいな……しかし、しっかりと伝わったんじゃないかな?」
「そうでないと困りますよ……大体、篠原さんまで世話焼いてるし……せめてこいつ等とは違って欲しい所ですね」
『もう、否定はしません』
「天川会長、俺達も練習させて貰いますよ」
「池本さんに、こうまで言われちゃな」
「全く、いっつも見下して」
「見返してやりますからね」
「喜多と手塚に、後で奢らせてやろう」
『それ賛成!』
5人のボクサー達は、天川ジムで練習を始めた。
不思議な光景である。将士と哲男はプロじゃない。その2人の為に、違うジムの日本ランカー達が集まった。勿論、そこには池本の力が大きいのは確かである。それにしても、高校生チャンピオンでもない2人の為に、日本ランカー達が手を貸したのである。更に、その2人が居る天川ジムで、これからの日本のボクシングを引っ張っていく人物達が一緒に練習している。もしかしたら、池本の狙いはこれだったのかもしれない。
「この光景、西田にも見せたい所だな?」
「西田ね~……な~んにも分からねぇんじゃないですか?」
「……確かに馬鹿だからね~……」
「そういえば、西田がまたやらかしたんですよ!」
「今度は何?」
「カレー屋のげんこつ、1kg頼んだと思って10kg頼んだらしいですよ![徳井、ボーナス唐揚げでいいか?]って言って、[唐揚げにしたら、素手でスパーリングやりますからね!]って徳井に返されたらしいですよ!」
「……馬鹿が進化してるね……最先端馬鹿だな」
「それがですね~……[甲斐とやるの?]って、真顔で言ったらしいですよ」
「……彼には、世間の常識を教えた方がいいんじゃないか?」
池本の狙いや、これからのボクシング界については分からない。しかし、西田会長がどうしようもない馬鹿な事は確定の様である。
楽しくはなりそうだけど、西田会長はどうしようもないな……