一年の計は元旦にあり!
さてさて、合宿は終わったんですがね……
合宿も終わり、将士と哲男は無事に新年を迎えた。正月三ヶ日、天川ジムは休みとなっていた。大体のジムは、正月三ヶ日は休みになる事が多い。将士も哲男も、ゆっくりと休みを取っているのかと思いきや……
「将士、暇か?」
「哲男君、どうしたの?」
「いや~、元旦なんてやる事ねぇしさ~……将士とボクシングの事でも話そうかと思って……」
「それならさ~、一緒にカレーの試作を手伝ってよ。母さんと朝から格闘中なんだ」
「おう、それくらい楽勝だ!」
将士の母親は、拳カレーを弁当として売り出す事にした。実際に少量を作って美味しかったのだが、量を増やすと味が狂うらしい。朝からその辺の調整の為に、悪銭苦闘中である。
「失礼します、俺も手伝います!」
「あら、悪いわね哲男君」
「いやいや……それで、実際どうなんですか?」
「う~ん……もう少しって所かな~……」
哲男が味見をしてみる。
「……これ、林檎じゃないですか?」
「林檎?…入れてるけど?」
「いや……林檎に熱が入り過ぎちゃって……多分、それだと思いますよ」
哲男の言葉に、将士の母親は少し直してみた。将士と哲男が味見をする。
「旨い!これだよ、母さん!」
「これこれ、この旨さ!」
「……やっと出来たわね……ありがとう、哲男君」
「いやいや……それより、今度はポップを作らないと。将士、俺達でやろうぜ」
「うん、頑張ろう!」
将士と哲男は画用紙を持ち、将士の部屋に上がっていった。
ポップ作りをした将士と哲男、出来た物を将士の母親に渡した。
「あなた達、初詣にでも行って来なさい。折角なんだから」
「……混んでそうだな……」
「いいじゃん将士、行こうぜ!」
「そう?なら……」
将士と哲男は初詣に行く事にした。
家を出て15分、
「中台君!」
「何処行くの?」
「片瀬さんに高田さん?」
「……俺も居るけど?」
「菅原君、いつの間に?」
「素早いわね」
「……始めから居たよ」
「「何処に行くの?」」
「初詣……」
「「私達も参加!」」
「……哲男君?」
「俺は関係無さそうだな」
「「いらない」」
「おい!」
賑やかな初詣となりそうである。
4人で初詣に行き、混んではいたのだが、何とかお参りを終えた。そのまま、近くのお汁粉屋に寄った。
「中台君、何をお願いしたの?」
「ボクシングでインターハイ制覇とか?」
「……インターハイに出る予定は無いんだ……」
「将士~、そんな事言わねぇで目指そうぜ!」
「……選抜はプロのルールに酷似してるから出るだけ……僕は、あくまでプロになるのが目的……」
「「プロになるの?凄~い!」」
「しかしさ~、そんなに焦らなくても……」
「焦ってるつもりは無いよ……でも、喜多さんの居た場所に凄く惹かれてね……あくまでもプロに拘りたいんだ……全然強くないんだけどね」
「そうか、それならしょうがないか……俺もプロを目指すから、もしかしたらプロのリングで会うかもな」
「そうなったら、絶対中台君応援!」
「間違いなくだね!絶対中台君!」
「おいおい、俺はそんなに嫌なのか?」
「うるさいし偉そうだし……」
「謙虚さが足りないよね!」
「……哲男君、もう少し他人に優しくだね」
「反省します……」
お汁粉を食べた後、そこで解散となった。
将士は家に帰る。哲男も自分の家に帰るとの事で、将士は1人である。
「楽しかった?」
「うん、なかなか楽しかったよ」
「良かったね」
「うん」
将士は自分の部屋に戻り、喜多の試合のビデオを見た。
喜多の世界戦のビデオであり、喜多も若い。この試合、池本がセコンドに着いていた。試合は喜多のペースで進むのだが、途中に何度か相手に有利な展開にもなっている。
(喜多さんでも、これだけ苦労するんだな~……上に行けば行く程、少しくらいじゃどうにもならないな~……)
将士はおもむろに立ち上がり、ファイティングポーズを取ってブツブツと言いながらパンチを出し始めた。
「ここでジャブ……喰らうな~……こう入って……いや、ここでこう迎え撃って……これも喰らうな……え~と……」
ビデオを何回も巻き戻し、喜多とやるとしたらと考えながら、何度も何度も将士はパンチを出している。気が付けば、既に2時間が経過していた。
将士の母親は、上がうるさいと思って将士の部屋を覗いたのだが、将士が真剣な眼差しでビデオを何回も巻き戻しながら、その都度パンチを出してブツブツ言っている姿を見て、笑顔で自分の食事の用意に戻って行った。
この後、将士は夕食を食べ終わった後も同じ様に部屋に戻り、喜多の世界戦のビデオを見ながらパンチを出してブツブツ言っていた。
将士はボクシングにのめり込んでいる。しかも、既に戻れないくらいに深くである。その証拠に、将士は哲男達の前でプロボクサーになると宣言している。将士の性格からいって、本来ならそんな事を言う様な事はない。
しかし、将士は宣言した。それは、自分の覚悟を決めたという事であり、後戻りをしないという意思の現れでもある。それだけ、将士はボクサーとしてしっかりと歩き始めたのである。
将士が喜多のビデオを見ながら、必死に喜多と戦っていた頃、
「哲男~、ご飯食べちゃいなさい!」
「……うわっ、不味っ!」
「折角作ったのに、その言い草は何?」
「不味い物は不味いんだよ!」
「この、親不孝!」
「うるせぇ、飯不味親!」
哲男は夕食が不味いと、母親と喧嘩していた。
2人の高校生活はまだまだこれから!
ボクサーとしては……もっとまだまだ……かな?




