事件は焼き肉屋で起こっている!?
合宿も、そろそろ終盤……
将士と哲男の合宿だが、一言に順調である。毎日の朝のロードワークに始まり、午前中の基礎体力や筋力に特化したトレーニング、午後のスパーリングを中心としたジムワークと充実した練習を行っていた。合宿も気付けは、明日には終わりである。なかなか中身の濃い合宿である。
「おらおら、哲男打て~!」
「将士、下向くな!」
喜多と手塚の激が飛んでいる。若い2人とはいえ、合宿の疲れが蓄積されている様である。
「「それで強くなれるのか?」」
喜多と手塚の言葉に[パァン]という乾いた炸裂音で答えた2人、どんなに疲れていてもやる気だけは充分の様である。
そんな1日の練習が終わる頃、
「中台君に菅原君、今日の夜はご飯を食べに行こう。喜多君に手塚君、主要メンバーも誘っておいてね」
「「ラジャー!」」
「篠原会長が奢ってくれるんですか?」
「そのつもりだけど」
「マジっすか、何食べるんすか?」
「菅原君、よだれ……一応、焼き肉を考えてるけど」
「「やった~!」」
「手塚、誰呼ばない?」
「……西田さんは決定……甲斐は~……お情けで呼ぶか……」
「芸能人気取りもお情けだな」
「そうそう、藤沢君も呼んであげてね」
「「はい!」」
「凄いメンバーが来そうだね」
「本当に……元世界チャンピオン、何人来るんだろうな?」
思わぬ所で、まさかのご褒美を貰う事になった将士と哲男であった。
練習が終わり、将士と哲男は着替えて早めのロードワークに出た。本日の夕飯は篠原会長達と食べる為、遅くなってもいい様に今のうちに走っておく事にしたらしい。
ロードワークの後に洗濯をし、その間に風呂を済ませた将士と哲男、ゆっくりと部屋で寛いでいた。
「おい、行くぞ」
「準備出来てるか?」
喜多と手塚に声を掛けられ、下に降りて行く将士と哲男。下には池本を始め、甲斐と佐伯も居る。
「さて、行こうか」
ジムから篠原会長が出て来てみんなに声を掛け、この豪華メンバーに混ざって将士と哲男も移動した。
焼き肉屋に付くと、既に徳井と藤沢が席を確保していた。
「悪いね、徳井君に藤沢君」
「大丈夫ですよ」
「いや、それより……」
「俺も参加させて貰っていいんですか?」
隆明も徳井達と一緒に居る。
「気にしないで、中台君も菅原君もその方がいいと思うよ。ね?」
「隆明君、ボクシングの話しようよ!」
「徳井さんの日常生活を知りたいな~!」
何となく、とてもいい感じである。
「会長とトレーナーは、用事有るって言ってましたよ」
「そう、残念だね……代わりに池本君だから、まぁいいよね」
「あの~……少し問題が……」
池本と篠原会長が話していると、徳井が申し訳なさそうにして会話に入って来た。
「どうしたの?」
「実は……」
その時、トイレのドアが勢いよく開いた。
「いや~、食べる前に出しておかないと、存分に食べられないからな~!…篠原さん、今日はゴチです!」
「……徳井君?」
「こういう時だけ勘がいいんですよ……」
「徳井、馬鹿を巻けなかった訳か……」
「未熟者め!」
「喜多、手塚……すまん……」
「来ちまった者はしょうがない、楽しくやろうぜ!」
「流石は池本、楽しくやろうぜみんな!」
「お前が仕切るな!」
[ゴツッ]
「痛ッ……少し強いぞ、池本!」
池本は西田の頭を叩いた。みんなは少しすっきりした様である。
焼き肉を食べ始める。流石に高校生、将士·哲男·隆明は物凄い食べっぷりである。最も、他のみんなもしっかりと食べている。
「そういえば、徳井さんアリサさんがたまには顔出せだそうです」
「アリサ?……徳井、そんな知り合い居たの?」
「俺も聞いた事ねぇな~……浮気か?」
「住みに置けないな~、徳井!」
「徳井さん、浮気はダメっすよ!」
「あのね……俺は愛妻家だよ」
「姉ちゃんだよな?」
「うわ!池本さん、よく知ってますね?」
「「「「姉ちゃん?」」」」
「あれ?4人共知らないんですか?……女優のアリサさんですよ」
「「「「はぁ?」」」」
「月9に出てる?」
「かなり人気の?」
「奥さんにしたい芸能人No1の?」
「……俺はファンだぞ!」
「……一応、実の姉……」
「「「「何だと!?」」」」
「そうか~、徳井君は凄い姉さんが居るんだね……何で池本君知ってるの?」
「あ~、俺、昔からアリサさんのファンですもん」
『え~~~~~~~~~~!』
「池本君、好きな芸能人居たの?」
「初耳~!おい、徳井!」
「そうだったんですか~……俺も知らなかった……」
「池本さんがファン……熱は無いですよね?」
「……ボクシング馬鹿だと思ったら、そんな一面も……やるな、池本さん……」
「……母さんに言ってやろ」
「……反応し過ぎだろ……甲斐、美里さん出すなよ。後が面倒だろ?」
「あの~……僕から質問なんですが……」
「何だタツヤ!」
「……将士です。僕は喜多さん以外は……割りと知らないというか……」
「え?将士君、知らないの?」
「うん……」
「しょうがねぇんだよ、将士はボクシング始めて3ヵ月だから」
「うぐっ……ブンタ、俺の傷を広げるな」
「哲男ですよ!……傷って何ですか?」
「菅原君、気にしない気にしない……西田君、食べてばっかいないで、話に参加して!」
「え?だって俺には関係なさそうなんで……」
「これだよ……」
「将士、俺が説明してやるよ。池本さんは、元ミドル級の4団体統一チャンピオンだ。PFPも1位になった人だよ」
「古い話だ、気にするな」
「俺と手塚はいいとして……徳井は2階級チャンピオンだったし、佐伯もフェザー級のチャンピオンだった。甲斐とのWBSS決勝に負けたけどな」
「わざとですよ、わざと」
「何回やっても結果は同じだ!」
「藤沢は、俺達3人の同期……まぁ、仕事の都合でボクシング辞めたけどな……篠原会長は、元日本チャンピオン」
「よく知ってるね!それこそ古い話だよ」
「俺は、池本さんを始めお前等が自慢だよ」
「西田さんは……馬鹿!」
「おい!おかしいだろ?」
「俺が教えてやる!カレー屋のオヤジだ!」
「手塚、それもおかしいぞ!」
「は~……みんな凄い……あ、そうだ!西田会長、カレーのレシピを教えて下さい!」
「??どうして?」
「あ~、将士の家、弁当屋なんですよ」
「あ~、成る程……別にいいよ!まずカレーだけど……あれ?どんなレシピだっけ、池本?」
「はぁ?何で俺に?」
「お前が俺に教えたレシピだろ?」
「俺が?……もしかして、孤児院のカレーか?」
「そう、そのカレーだ!」
「おいおい西田さん、俺のレシピって言ってたじゃんかよ?」
「何だよ、別にいいだろ?……とりあえず、池本に聞いておいてくれ!げんこつ唐揚げはだな……甲斐、お母さんに聞いといてくれ」
「はぁ?お袋のなの?」
「おう、そうだ!」
「……西田君、君は何をしたんだい?」
「やだな~、この2つを組み合わせたじゃないですか~……まさに、これこそ俺の功績!」
「……馬鹿が証明されたな」
「俺、辞めて本当に良かったよ」
「ここまで来ると、馬鹿の天然記念物だな」
「俺は……辞めようかな……」
「ちょっと徳井さん、俺を見捨てないで下さいよ!」
「……出入りを控えよう……」
「昴、それないだろ!」
「ここまで馬鹿だと……言葉が見付からないよ……」
「有る意味凄ぇな!キッパリ言ってるし!」
「あそこまで言い切ると見事だよね!」
「叔父さん、苦労するね……」
「まぁまぁ、西田の馬鹿は今に始まった事じゃない」
「お?池本は分かってるな!」
「だろ?だから……ゴチになります、西田会長!」
「はぁ?」
「ほら、みんな……せ~の…」
『ゴチになります、西田会長!』
「おいおい、どういう事だよ~!」
結局、西田会長が支払いを持つ事になった。
将士と哲男、隆明というライバルも見付け、これからのボクシング人生がどう進むのか楽しみである。
「会計、135742円になります」
「……来なきゃ良かった……」
西田会長だけ、きついお灸が末られた様である。
色々と有ります!




