束の間の休日?
合宿も中盤……
将士と哲男の合宿は予定通り?進み、折り返しとなった。この日の朝も、将士と哲男は喜多と手塚と一緒に朝のロードワークを行った。その後に朝食を食べる。
「今日は日曜日、ジムは休みだ」
「たまには、息抜きして来い。変な事するなよ」
「そう、手塚みたいに!」
「俺はやらねぇだろ?」
「西田菌持ってるからな~……」
「おい、そんな事ねぇだろ!あの馬鹿と一緒にするな!」
「……哲男君、とりあえずはゆっくりしようか?」
「そうだな~……将士、渋谷に行こうぜ!」
「渋谷に?」
「おう、ボクシング用品店が有るんだよ。それに……折角だしさ……」
「ボクシング用品店……うん、行こう!」
「マー君にテッちゃん、喧嘩はするなよ」
「そうだぞ、手塚みたいになるからな!」
「おい、俺を落ちに使うな!」
「事実だろ?」
「違うわ!」
喜多と手塚は元気である。
シャワーを浴びて着替えた将士と哲男、そのまま渋谷へと出掛けた。
地下鉄で数駅先、渋谷に到着した将士と哲男はそのまま渋谷の町をぶらぶらと歩いていた。
「しかし……本当に人が多いな?」
「本当……こんなに人って居るんだね」
「……よくぶつからねぇよな?」
「それは思う……有る意味凄いよね」
「え~と……ボクシング用品店は……」
哲男はスマホを片手に探していた。
「あれじゃないの?」
「お?そうだそうだ!行こうぜ!」
将士と哲男は、ボクシング用品店に入って行った。
「いらっしゃい」
「どうも……」
「失礼します」
2人はシューズやグローブを見ていた。流石は専門店である。グローブもシューズも、凄い品揃えである。
将士はグローブを買うつもりであり、哲男はシューズの購入をする様である。
「貧弱そうな奴が居るぜ」
「本当、あれでボクシングやるつもりなのかね」
奥の方から声が聞こえた。柄の悪そうな奴が2人、こちらを見て笑いながら話していた。
「何か言いました?」
「聞こえました?」
「本当の事ですけど?」
哲男が声を掛けると、悪びれる様子も無く、2人は答えて来た。
「……苛付かせるのか上手いな……痛い思いをさせてやろうか?」
「辞めなよ哲男君!ダメって言われたでしょ?」
「そうだよ哲男君!」
「お痛はいけませんよ!」
「この野郎~……」
馬鹿にされ、哲男がわなわなと怒りに震えている。
「はいスト~ップ!ボクサーなら、こんなとこで揉めるなよ。俺がいい所に案内してやるよ」
突然、横から大きな男が現れた。よく見ると池本である。
「あれ?池本さん?」
「タツヤ、お前は冷静だな」
「タツヤって誰ですか?」
「違ったっけ?…まぁ、いいや!着いて来い!」
池本に促され、将士と哲男はすぐに会計を済ませて池本の後に着いて行った。将士と哲男を馬鹿にしていた2人は、もう1人加えて3人で池本の後を追った。
地下鉄で数駅、着いた駅から少し歩くと目的の場所に着いた。
「あれ?拳王ジムですよ?」
「何故にここに?」
「まぁ、待ってろ」
池本がスマホで電話を掛け、少し話をすると喜多が急いで降りて来た。
「池本さん、また無茶を……」
「何言ってんだよ、これが1番だ!…よし、お前等ジムに入れ」
池本に促され、将士と哲男も2人を馬鹿にしていた者も拳王ジムに入って行った。
中に入ると、
「よし、スパーリングでもやるか!それが1番だろ?」
「はぁ?」
「今からスパーリング?」
「馬鹿にしたのはお前等だ、これが筋って物だろ?」
「構わねぇけど、そっちは大丈夫なのか?」
「怪我しても知らねぇからな!」
将士と哲男に絡んでいた2人は元気だが、残りの1人は静かである。
「そっちのひょろいの、構わないか?」
「……はい、俺は別に……」
「池本さん、俺は知らないっすからね」
「はいはい、それでいいよ」
このタイミングで、篠原会長が物凄い勢いでジムに入って来た。練習前に外した結婚指輪を会長室に忘れたらしい。指輪を嵌めて、安堵した表情で会長室から出て来た。
「何してるの?」
「これからスパーリングです」
「そう……あれ?確か西高の小島君だよね?」
「はい」
「構わないの?」
「はい、一応……」
「そう……まぁ、西高のキャプテンがいいなら大丈夫か……僕も見てようかな」
結局、篠原会長も見学者となりスパーリングを行う事となった。
将士と哲男はアップをし、将士と哲男を馬鹿にしていた2人もアップを開始した。2人はこれから部活らしく、道具は一式揃っている。
「最初は誰からだ?」
「僕でいいよね、哲男君?」
「構わねぇよ」
「僕ちゃんは、俺が相手してやるよ!」
「じゃあ、哲男君は俺ね!」
そんなやり取りをして、将士と西高の1人がリングに上がった。
「将士、最初から一気にいけ」
喜多から言われ、将士が頷くとスパーリングが始まった。このスパーリングは一方的な物となる。将士が頭を振って左ジャブを出すのだが、これが見事にヒットする。パンチがヒットすると、将士は一気に距離を詰めてパンチを出していく。
一方の相手だが、将士が頭を振っているので的が絞れない。その上で将士のパンチを一方的に貰っていく。距離を離したい所だが、将士の身体の強さに押し返す事が出来ない。振り払おうと放った右フックに将士の右フックがカウンターでヒットし、腰から崩れる様にダウンとなった。
「そこまでだ」
池本がスパーリングを止める。時間は1分まで達していない。
ここで、喜多と篠原会長の言葉の真意が分かる事となる。将士の特出している事は、慣れの速さである。最初にスパーリングをした相手は喜多であり、手を抜いていたとはいえ元世界チャンピオンである。その喜多のパンチをしっかりと見た上で、急所からパンチを逸らしていた。遂には喜多に一矢報いたのである。最も、更に喜多は逆転の1撃を食らわせたのではあるのだが……
喜多のパンチに慣れた将士にとって、県大会程度のパンチは大した物ではなかった事だろう。合宿の初日に喜多とのスパーリングで成長が垣間見れた。決して憶測ではない事が分かる。
このスパーリングの結果は、至極当然である。
「情けねぇな、俺がやってやるよ!」
馬鹿にしていたもう1人がリングに上がり、哲男とのスパーリングとなった。このスパーリングも、一方的な物となった。
哲男は最初からスピードを生かし、左に回りながら左ジャブを主体に試合を組み立てていく。このスピードに相手が着いて行けない。外から一方的に哲男のパンチがヒットし、無理矢理突っ込んで来た所に哲男の右ストレートでジ·エンドである。結果的に、馬鹿にしていた2人は1ラウンド1分も掛からずにスパーリングを止められる事となった。
スパーリングが終わると、
「……口だけは、みっともねぇな」
「「ぐぬっ…………」」
「うん、情けないね。少しは出来るかと思ったけど……小島君、がっかりだよ」
「すいません……」
「小島……お前、甲斐の後輩か?」
「はい、一応……」
「……甲斐に告げ口…しちゃおうかな~!」
「俺は別に……こいつ等が悪いんだし……」
「小島、それはないだろ~?」
「そうだよ~!」
「馬鹿だな~、石川北高校の菅原だろ」
「石川北高校?」
「福島県の?」
「そうだよ、そこの菅原だよ」
「「小島が負けた?」」
「うるせぇ!」
「……そこの君、哲男程度に不覚を取るなよ」
「喜多さん、酷いっすよ!……俺、君とやったっけ?」
「哲男君、かなり酷いよ」
「……選抜で、必ず忘れられなくしてやるからな!」
「……そっちの2人が泣きそうだよ」
「うん、僕も気になってた……」
将士と哲男を馬鹿にしていた2人は蚊帳の外になっていた。
「あ~お前等、もう部活辞めていいや」
「「はぁ?」」
「他人を馬鹿にして、結果ケチョンケチョン……西高に必要ねぇや」
「うん、ボクサーとしても需要は無いね」
「喜多、需要なんて難しい言葉、よく知ってたな?」
「話の腰を折らない!」
「しかし……確かにボクシングには必要ねぇ人材だな。怪我しねぇうちに、身を引く事だ」
「みんな好き勝手だね~、もっと優しく!……僕ちゃん達、帰って人生を見詰め直しなさい」
「「……うわぁ~~~~!」」
2人は大声を出して、走ってジムを出て行ってしまった。
「すいません、お騒がせしました」
小島は頭を下げ、置いて行った2人の荷物を持って拳王ジムを後にした。
「篠原さん、1番酷いですよ」
「そう?池本君に言われると、少し反省かな?……しかし……喜多君から注意されたのに喧嘩とは……2人共、今日はもう謹慎!」
「ちょっと、それないっすよ~!」
「僕は、もう買い物も終わったから大丈夫!」
「よし、今日の夕飯奢ってやるよ」
「本当ですか、池本さん?」
「おう、手塚も呼べ!」
「「「はい!」」」
「あの~、池本君……謹慎なんだって……」
「そう、夕飯まで謹慎!」
「これだもんな~……」
篠原会長は池本の言葉に頭を掻いていた。
しかし、それでも将士と哲男のスパーリングは見事であった。その辺は篠原会長も認めている様である。天川会長の楽しみが分かったみたいである。篠原会長も、将士と哲男の成長が楽しみになって来ていた。
成長はしているみたいです。




